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川越の蒸留所とバーがコラボ クラフトジンを新たな観光資源に

  • 2023年06月01日

地域の特色を生かして各地で作られている「クラフトジン」。埼玉県川越市の蒸留所で作られたジンは、国際的なコンテストで高い評価を受けました。
このジンをさらに特色を生かしたものにして観光資源にしようと、地元のバーの経営者たちも加わって新たな商品作りが行われました。

さいたま局所沢支局 高本純一記者

雑木林の中の蒸留所

川越市郊外の昔ながらの武蔵野の雑木林が残る敷地の一角に4年前、地元の酒販店がクラフトジンの蒸留所を設けました。

ジュニパーベリー

ジンは、麦やトウモロコシ、サトウキビなどを原料にした蒸留酒で、ジュニパーベリーという針葉樹の実で香りをつけたものが広く飲まれています。
地域の特産品など、さまざまな素材を生かして香りや風味を付けた「クラフトジン」が各地で生産され、人気を集めています。

蒸留所の社長、松崎裕大さんは、代々受け継いできた雑木林を整備して、ここで育つ植物を使ったジンを作りたいと考えていました。
そして、ジュニパーベリーが実る針葉樹「セイヨウネズ」の木を植えて育ててきました。

武蔵野蒸留所 社長 松崎裕大さん
「12年前にうっそうとした林をきれいにしようと思って手を入れて、今では自信を持って見てもらえる林になりました。この場所を活用して、ここの魅力を多くの人に知ってもらいたいと思ったのがジンづくりを始めたきっかけのひとつです」

こだわりのジンづくり

松崎さんのこだわりのジン作りでは、ジュニパーベリーをスピリッツと呼ばれるアルコールに6日から7日程度、時間をかけて低温で漬け込んで、じっくりと香りや風味を引き出します。

敷地内の井戸からくみ上げた地下水をタンクの周りに巡らして、年間を通して一定の温度を維持しています。
この井戸水は、蒸留された後のアルコール度数を調整する過程でも使われています。

松崎裕大さん
「漬け込みから蒸留までは時間のかかる手作業で、普通の蒸留所の5倍以上の時間をかけています。作業効率は悪くても、世界に通用するジンを作るには欠かせないと考えています」

世界が認めた川越のクラフトジン

こうして、針葉樹の葉と実にちなんで名付けられたクラフトジン「棘玉」はことし2月、イギリスで開かれた国際的なコンテスト「ワールド・ジン・アワード」のコンテンポラリー部門で日本でいちばんすぐれたジンと評価されました。

松崎裕大さん
「ジンを飲んだ時に、情景が思い浮かぶような、青々とした木々とか、さわやかさ、気持ちよくなるような、気分がよくなるようなジンを目指していました。世界基準のジンだという証明にもなって、自信のつく受賞になりました」

川越市内のバーではジントニックで提供しています。

バーテンダー 吉原一広さん
「ほかのジンとの違いがわかりやすくなるので、スタンダードなジントニックで提供しています。シャープな味わいとジュニパーベリーの香り、非常に力強い華やかなジンという印象です。川越の誇れるクラフトジンです」

バーテンダーとコラボ 新たな商品開発

世界でも認められる川越生まれのジンをもっと広めたいと、地元の5人のバーテンダーたちは去年の春、松崎さんに新たな商品作りを働きかけました。

きっかけはコロナ禍で多くの飲食店が時短営業や休業を余儀なくされたことで、バーテンダーの仲間で話し合う中でアイデアが出てきたといいます。

バーテンダー 田坂行英さん
「未曽有の状況で、どうしたらいいかと話し合う中で、その先の展望、希望として企画しました。この危機を乗り切るうえでは、プラスになったと思います。お酒の文化、バーの文化が広がるモデルケースになり、活性化の起爆剤になればという思いがありました」

目指したのはジンの香りづけに、緑茶を使うオリジナル商品です。
玉露や煎茶、かぶせ茶などさまざまな種類の茶葉を使い、ジンとの配合の比率を変えて、試飲を繰り返しながら、緑茶の香りや甘さがしっかり出るように味のバランスを追求しました。

バーテンダーの1人、長門良樹さんの手帳には、試したブレンドの比率がいくつも書き込まれていました。

もともと47度だったアルコールの度数を40度に下げたジンと、かぶせ茶を入れて蒸留したものの比率を3対1にすることで、理想の味を実現できたということです。

バーテンダー 長門良樹さん
「思いつく比率をひたすらトライ&エラーで試したので大変でしたが、元のジンのアルコール度数を下げることによって、ジン自体に丸みが出るので、さわやかなお茶の風味が入りやすく、引き立つ形になりました」

一方、当初は地元産の狭山茶を使おうとしていましたが、コストなどの面から断念せざるをえなかったということです。

1年がかりで完成させた新商品

試行錯誤を経た5月下旬、メンバーが集まって、完成した緑茶のジンの味を確かめました。

「いい味の出方ですね。押しつけがましくなく」

「棘玉の個性を生かしている」

瓶詰めされた限定150本には、通し番号を記した緑色の茶畑をイメージしたラベルが貼り付けられました。
6月下旬から川越市内のバーや飲食店で提供されることになっています。

蒸留所社長 松崎裕大さん
「バーテンダーの人たちに納得してもらい、ほっとしました。妥協せずに何度もテストをしたので、全員が納得するジンができました。ジンを通じて川越のことや、その土地の魅力を伝えられるようになっていければと思います」

バーテンダー 田坂行英さん
「期待以上の味わいでうれしくなりました。このジンを通して、バーや飲食店で過ごす時間を楽しんでもらうとともに、『棘玉』の良さを多くの人に知ってもらいたい」

取材後記

5人のバーテンダーと松崎さんの思いが詰まったクラフトジン「棘玉 Kawagoe bartender’s 1st Edition」。店頭販売はせず、川越市内の飲食店で味わうことができます。
コロナ禍で苦しい時期を過ごした飲食店やバーの人たちにとって、希望のジンと言えるのではないでしょうか。
新型コロナの拡大前の日常が戻り、川越には連日、多くの観光客が訪れています。多くの人に味わってもらい、世界に誇る名産品になってほしいと願っています。

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