東京から電車で50分ほどの埼玉県上尾市。ここに母子家庭だけが暮らすシェアハウスがあります。収入面などで苦しい状況に置かれることが多いシングルマザーとその子どもたちのために安心と自立の場を提供しようと去年3月に完成しました。
さいたま局/カメラマン 大高政史
シェアハウスを作ったのは不動産コンサルタントの内野巧也さん(37)です。使わなくなった社員寮を安く購入し、国の補助金も利用してリフォームしました。
部屋の間取りは1K。各部屋にキッチンや風呂、トイレを備えています。入居者の希望に応じて内野さんみずからロフトベッドも設置します。費用を抑えたことで、相場より低い家賃を実現できました。
「ひとり親の方たちは、家事も育児も仕事もすべてこなして、とても過酷だろうと思います。ここでよりよい暮らしや楽しい暮らし、子どもと笑い合える暮らしを手に入れてもらいたいです。」
内野さんは入居者の自立に向けたさまざまな支援を行っています。シェアハウスの管理人には、2人の子どもを育てるシングルマザーのさつきさん(仮名)を雇いました。
さつきさん
「管理人をしていて楽しいです。将来は子どもに関する仕事につきたいので、資格を取るために今は勉強をしています。」
シェアハウス内に学習塾も開きました。内野さんの考えに賛同した塾講師の生形裕司さんが、収入が少ない家庭でも通うことができるよう、月に何度通っても4000円までと格安で教えています。「シェアハウスの中にあるのに安心ですし、子どもは前のめりぎみで授業を聞いています」と入居している母親にも好評です。
「新しいことを覚えるのは、こんなに面白いということを子どもたちに教えたいです。」
シェアハウスでは、折に触れて入居者同士の食事会を開いています。あかねさん(仮名)はストーカーから逃れて、子どもと2人で生活保護を受けながら暮らしています。まだ外に出るのが怖いと部屋にこもりがちですが、思い切って食事会に参加しました。幼い子どもとどう暮らしていけばよいのか思い悩む日々でしたが、久しぶりに気持ちが和らぐひとときを過ごすことができたと言います。
あかねさん
「あまり人と会うことがないから楽しいですね。内野さんたちがしっかりと見てくれていると感じます。シェアハウスから出ても、安全に暮らせる状況をつくりたいです。」
「母子で生活をしていくというのは環境もかなり大事ですので、互いの境遇を理解できる人同士で暮らすというのは、非常に有意義だと思います。」
厚生労働省のまとめでは、全国の母子家庭世帯の平均年収は3年前の推計で373万円。子どもがいる世帯全体の半分以下の水準にとどまっています。母子家庭にとって、母親の負担軽減は大きな課題です。
内野さんは、収入が低い世帯向けの家賃の補助金制度の導入を上尾市に働きかけていくことにしています。
「生活困窮世帯には、母子家庭の人たちも多く含まれます。そのような人たちが住む場所を変えて自立への一歩を踏み出すためには、やはりお金が必要です。生活保護を受ければ転居費用や家賃もサポートしてもらえますが、自立したいと願う人たちにとっては抵抗感があります。生活保護以外のサポートがかなり不足しているのではないかと感じています。」
内野さんは、さらなる支援として、学校が終わった入居者の子どもを預かる学童保育のサービスを始めました。子どもが好きな管理人、さつきさんの新しい仕事になりました。また、調理師の資格を持つ入居者を新たに雇用し、入居者の食事を作るサービスをことし中に始める予定です。
現在、シェアハウスには8世帯が入居しています。来年春までには15部屋すべてが埋まる予定です。