「部活動の地域移行」は埼玉県でどう進んでいるのか。NHKさいたま放送局の「子どもプロジェクト」では、試験的に取り組んだ自治体での課題などに迫りました。県内の状況をよく知る2人に話を伺った記事の後編です。
「ひるどき!さいたま~ず」 2022年12月16日放送
JABA埼玉県野球協会/米田文彦常務理事 埼玉県スポーツ協会/久保正美専務理事
中学校の休日の部活動を、地域のスポーツクラブなどで外部の指導者の元で行うという国の方針で、県内でも3市で試験的な取り組みが行われています。埼玉県の部活動地域移行推進委員会のコーディネーターで県スポーツ協会専務理事の久保正美さんと、さいたま市の中学校で指導者として派遣されているJABA埼玉県野球協会常務理事の米田文彦さんに、大野済也アナウンサーが話を聞きました。
試験的に地域移行を実施しているさいたま市の大宮国際中等教育学校野球部に指導者として派遣された埼玉県野球協会の米田文彦さん。米田さんが力を入れたのは、生徒とコミュニケーションを取りながら、みずから考えてもらう「コーチング」という指導です。部員たちの反応は…
「すごく楽しいなと思っていて、今までの3倍とか4倍くらい、うまくなったなという部分が多くなってきている。すごく楽しいなと思っています」
「米田さんが来る前は、フォームなどについてどうしてそうなるのか、どうしてそれがいいのか、あんまり考えたことがなかった。米田さんが、『どうしてそうするといいのか?』『なぜそのフォームがいいのか?』質問をしてくれて、自分で考えるようになった」
「自分に合ったバッティングフォームを見つけることが大事だと教わりました。それまでプロ野球選手の動画を見て、こんな感じで打たなきゃいけないと思っていたんですが、自分で考えて自分に一番合っているバッティングフォームを見つけることができたので、とても良かったです」
「こうした方がよくなるという理屈について、いろいろ知ることができたので、勉強でも暗記をするだけではなくて、例えば歴史の勉強だったら、こういう事件が起きてこういう法律ができたんだという理屈の部分が大事だと思うようになりました」
運動にとどまらず学習意欲もわいてきたという生徒のことばもありましたが、久保さんはどう感じましたか。
米田さんが生徒1人1人に質問をして、そして子どもたちが何でだろう、これがいいのかと、考えるようになったというのは本当にすばらしい指導だなと思いました。
先生たちの働き方改革もあるわけですから、土日は先生たちはまったく来ないんですよね。
来ない先生もいましたし、心配で見に来る先生、あとは技術的な指導を専門家はどうやっているのか聞きたいという方もいらっしゃいました。
先生のやりがいみたいなことですが、野球を教えたい先生がいたり、陸上を教えたい先生がいたりというようなことが当然あるわけですよね。新たな交流をもとにして次のステップに進むというのは、あるということですね。
大いにあると思います。米田さんのような本当に熱心な地域の指導者の方が学校に来て教えてくださる。子どもたちにとってもすごくいいことだと思いますし、顧問の先生にとっても本当に勉強になるなと思います。地域の方と学校が一緒になることで、いい化学反応がうまれるといいなと思っています。
先生の方から良い指導方法ですね、なんていう声はありましたか。
基礎練習みたいな形をやると、そういった練習方法もあるんですね、と言ってもらえることもあります。逆に練習試合を見ていて、僕らは技術的なことはわかるんですけど、教え方に関しては素人だったりしますので、ほかの学校はこう教えているんだと、指導者側もすごく勉強になることもたくさんあります。
部活動の地域移行について生徒たちの好意的な受け止めがある中で、保護者の費用負担の課題についても考えていきたいと思います。指導者を集めて部活動を運営していくとなると費用の問題は大きいですよね。
国のガイドラインによりますと、土日の地域クラブ活動については、部活動を運営する団体が、生徒や保護者などの理解を得つつ、可能な限り、安い会費を設定するとなっています。それ以外にも、学校教育活動ではなくなるので、けがをした場合の傷害保険とか賠償責任保険に加入する必要も出てくるので、この部分についても保護者の負担が発生すると考えています。
米田さんがさいたま市の中学校で指導者として入った際の費用はどうでしたか。
モデル事業ということだったので国からの負担ということになっていました。
今後、考えられる資金の集め方というのはありますか。
おそらく考えているのは保護者の負担が主になると思うんですけど、国、市町村の補助金のほかに、民間企業のスポンサード、あとはクラウドファンディング、こういったものが主な収入源にこれからなっていくと思います。
これまでも部活動の部費は集めていたんでしょうから、その負担よりも重くなってしまうというところに対して、家庭の事情はそれぞれですから、やはり払えないよという家庭もあるんでしょうか。
もちろん、その辺は課題かなと思いますし、部活動については、必ず全員が参加しなくてはいけないというわけではないですね。負担がかかるのであれば土日の地域クラブ活動は参加しないというお子さんが出てくることも心配されます。
部活動の中で同じ部員なのに、週末は出ないという差がうまれてしまうということなんですね、そこは避けたいところですよね。
子どもたちがやりたいというなら、ぜひやってほしいなと思います。
試験的に実施している自治体での費用負担は
白岡市は令和5年度から部活動の地域移行で、保護者の費用負担の仕組みも導入する方針です。月1500円以下でどれだけ安い金額にできるか、検討を重ねているということです。
地域のクラブに移行されたときに大会はどうなるかという課題もあるようですね。
いちばん大きな当面の課題は、大会への参加についてだと思っています。国のガイドラインでは、平日は学校の部活動、土日は地域クラブ活動ということにしています。そうすると、それぞれ指導者もメンバーも違う可能性があるんですね。そうすると、どのメンバーでどの監督で大会に出るかというのはかなり難しいところが出てくるのかなと思いますね。
実際に指導をしていて子どもが主役ということに米田さん、当然なってくると思いますけど、どのように今後、地域移行を進めていけばいいんでしょうか。
コーチングについて子どもたちがインタビューでいいことを言っていますけども、こういう指導者をどう養成していくか。どれぐらいの人が興味を持ってやってくれるかわかりませんが、そういう指導者の質の改革も、この部活動の改革で同時にできたらいいのかなと考えています。
子どもたちの声を引き取るような仕組みづくりというのを考えていかないといけないですよね。
先ほど米田さんが言われたコーチングという考え方、スポーツの指導の中でも徐々に広まりつつありますので、主体的に子どもたちが指導者の声を聞いて自分で考えて変わっていく、そういうコーチングの理論を広めていければいいのではないかと思います。
今後どう進めていったらいいでしょうか。部活動というのは伝統というのもあるわけですよね。
米田さんの取り組みを聞いて、地域の指導者の方が熱心に教えていただいて、子どもたちもそれによって技術が向上してスポーツが楽しいという声を聞いて、本当にすばらしいなと思いました。
私は日本の部活動は世界に誇れる教育文化だと思っています。これまでは学校の先生方が、目の前にいる子どもたちのために忙しい中でも頑張って指導されてきたんですね。
ただ今後は、地域の力を借りて、部活動をさらに発展させていくために、多くの課題がありますけれども、どうしたらいいのか、行政や大人が仕組み作りを考えていかなくてはいけない。そういう時期なのではないかと思っています。
地域の格差、それに所得による格差のようなものがないといいなと思いますので、自治体の声をうまく反映していけるといいですね。それぞれの事情にあった仕組みづくりということになっていくのかなと思います。
中学校の休日の部活動を地域へと移行する取り組みについて、国は令和5年度から3年間でおおむね地域移行を達成するという計画を、去年12月に見直しました。
地方自治体などから「3年間での達成は現実的に難しい」とか「受け皿もなく指導者もいないのに移行するのか」といった懸念する声が相次いだことを受けたものです。
国は改定した新たなガイドラインで、地域の実情に応じて可能な限り早期の実現を目指すとして、達成時期の目標を修正しています。