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医療的ケア児受け入れでインクルーシブ教育促進へ さいたま

  • 2022年12月13日

障害のあるなしに関わらず、子どもたちが一緒に過ごす「インクルーシブ教育」。ことし9月、国連から取り組みの遅さが指摘される中で、インクルーシブ教育の一環として、難病や障害で人工呼吸器やたんの吸引が欠かせない、「医療的ケア児」の受け入れを積極的に進める、さいたま市の保育園を取材しました。

さいたま局記者/西山周

医療的ケア児が通う保育園

胃ろうをうける子ども

口から十分に栄養をとることができないため、チューブを通して胃に栄養を直接送る「胃ろう」が必要な2歳の子どもです。この子どもが通うさいたま市中央区の南与野たいよう保育園では、医療的なケアが必要な子もない子も一緒に過ごします。

南与野たいよう保育園の山本悠里園長

難病や障害で人工呼吸器やたんの吸引が欠かせない、「医療的ケア児」。この保育園では、ことし4月から受け入れ、現在、3人が通っています。受け入れの先頭に立つ山本悠里園長は、ことし2月まで大学病院の小児科で看護師として働いていました。

南与野たいよう保育園 山本悠里園長
「患者である子どもの退院後のフ ォローアップに関心があり、園長になる決意をしました。医療的ケア児に関しては、保育園に入りたいという子が、待機児童という意味で言うと、かなり多くいたので、受け入れを始めることはとても有用性があることだと思いました」

受け入れにあたって・・・

医療的ケア児を1人受け入れるには、看護師1人が配置されなければなりません。看護師の人材獲得が難しいとされる中で、この保育園では、同じ法人が運営する介護施設の看護師に兼務してもらったり、待遇面を充実させたりすることで5人の看護師を確保しました。

保育園が作成した独自のマニュアル

さらに、この園では受け入れのマニュアルを作成。子どもと接した経験の少ない看護師に対して、マニュアルを基に定期的に研修を実施。小児医療の知識や子どもたちと接するためのノウハウの共有に努めています。

受け入れのメリット

こうして医療的ケア児を積極的に受け入れたことで、この保育園ではほかの子どもたちの態度に変化が生じたといいます。

ケア児に対して、「大丈夫?」と声をかけたり、気遣ったりする姿が多く見られるようになったのです。この子どもたちのふれあいが、インクルーシブ教育につながると園長は語ります。

南与野たいよう保育園 山本悠里園長
「医療的ケアの必要なお子さんに対して、すごく思いやりを持って接したりするなど、子どもの成長もすごく感じられます。共生社会を作っていく中で必要なことになっていくのではないかなと思います。その上で、誰もが当たり前に受け入れられ、抵抗なく、一緒に生きていける社会を作れるのが一番かなと思います」

預けている保護者は

保護者からはケア児本人にも、いい影響が与えられるという声が聞こえています。

保護者

「ほかの健常児と一緒に、いろんな環境を見て、いろんな体を動かして、友達と会ってということを体験させたいというのがありました。周りで園児さんの声がするので、すごくそれが刺激になっているのかなと思います」。

普及の課題「ノウハウ不足」

さいたま市保育課

ただし、こうした取り組みの普及には課題もあります。さいたま市では、全体で約650ある保育施設のうち、ケア児を受け入れられるのは現在6つの施設にとどまります。さいたま市保育課では、現状について施設側のノウハウが不足し、高まる需要に追いついていないと分析します。 

さいたま市保育課 松尾真介課長
「受け入れ施設は徐々に増えている状況だが、やはり医療的ケアの内容の程度によっては受け入れができていない状況だ。これは医療スタッフが少ない保育園の中で医療的ケアを行っていくことについての不安というものがあるのではないかなと考えている。受け入れ施設側のノウハウの蓄積であるとか専門性の向上といったことなどにより、受け入れ施設の拡大を図っていきたい」

勉強会で不安の解消を

こで市は、すでに受け入れを行っている保育園を講師として、勉強会を開いています。ことしは5回行われ、受け入れにあたっての注意点や苦労した事例を共有することで、受け入れの拡大に努めています。

オンラインでの勉強会の様子

勉強会では、参加者から質問もありました。
 

参加者

「医療的ケアが必要な子と一緒に 過ごす保育士は何か留意すべき 事項はあるんでしょうか」

主催者

「医療的ケアの内容を担任の保育 士やほかのクラスの保育士に情報共有して、留意点を伝えたり しています」

ふだん、ケア児の保育を担当している助産師の酒井基容子さんは、勉強会では、受け入れにあたっては、保育園のできる範囲から始めるのがいいということを意識して、伝えているといいます。

助産師 酒井基容子さん
「自分たちでできることをふまえて、始めるべきだと思います。人数も今、私の勤める保育園では5人ですけど、1人とか2人から始めて、少しずつ、すそ野を広げていってニーズを増やすなり、医療依存度が多い、重度な子を受け入れられるようにするなりしていくのがいいと思います」

勉強会を主催する保育園の園長は、医療的ケア児を受け入れる園が今後増えて欲しいと、語ります。

いちご南保育園 三須亜由美園長
「医療的ケアの必要な子もそうでないない子も等しく、みんな保育園で過ごしたいと。自分の地域にある保育園で、受け入れできるようになっていくところが少しずつ増えていけばいい」

取材後記

今回の取材を通して、ケア児の頭をなでる子どもの姿が印象的で、医療的ケア児を受け入れることで、インクルーシブ教育を進めることの意義を感じました。医療的ケア児が、住んでいる地域に関わらず適切な支援が受けられるようにすることが「国や自治体の責務」として定められた「医療的ケア児支援法」が去年9月に施行されましたが、今も現場、行政と課題はそれぞれ残されています。課題を少しずつでも解決して、多くの保育園でケア児の受け入れが進むよう、引き続き、取材を続けたいと思います。

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