埼玉県杉戸町にある日蓮宗 妙見山上原寺では、「ミッドナイトテンプルラジオ(midnight temple radio) お寺ジオ」という音声番組を配信しています。 コンセプトは「耳からご縁を結ぶ寺」。 どんな番組なのでしょうか。パーソナリティーを務める副住職の仁部前誠(ぜんじょう)さんに岩﨑愛キャスターが伺いました。
早速ですけれども、「お寺ジオ」とは、どんな番組なんですか。
「耳からご縁を結ぶ寺」というコンセプトで、弟の前叶(ぜんきょう)と2人でやっています。お坊さん2人でやっているので、内容は、仏教やお寺に関する豆知識などが中心です。オンラインの駆け込み寺というような場所になれたらいいなと思っています。
どのようなきっかけで番組を立ち上げようと思ったんですか。
新型コロナウイルスの感染が拡大して1回目の緊急事態宣言が出たときに、お寺に人を呼ぶことができない状況になりました。時間的にも余裕が生まれたので去年の5月23日にスタートしました。お坊さんは人前でお話をする機会も多いですし、お経もいわゆる音楽的要素があるじゃないですか。だから、こういう音声番組とは相性がよかったんじゃないかなと勝手に思っています。
仏教には広大な教えがあるんですが、その場その場でお話をしても、受け手の方も忘れてしまったりすることが多いんです。音声という形で残しておけば、あとから聞いていただけることができるので、その点は、番組をやってよかったなと思っています。
番組の内容は兄弟のどちらが決めているんですか。
収録しながら“この内容で話そう”ということもありますし、ふだんの会話の中で“この内容っておもしろいんじゃない”という感じで決まっていくことが多いですね。
番組はどのように収録しているんですか。
音声コンテンツ配信アプリの「Radio talk」を使っているんですが、もう本当に電話をしている感じで収録しています。基本的には別々の場所にいることが多くて、一緒の場所で収録することはあまりないですね。
配信する際に気をつけている点などはありますか。
やはり、お説教くさくなるのはいやだなと思っています。仏教の教えを授業のような形で話すのではなくて、仏教の世界観をざっくりと、肩ひじをはらずにお伝えできたらいいなと思っています。
コロナをきっかけにラジオを始めたということですが、コロナ禍でお寺を巡る環境も変化してきているようですね。
葬儀や法事も日程を延期されたり、参列者の数を絞ったり、社会状況が変化しているなかで、お坊さんたちもオンラインで法要を配信するなど、ネット上でいろいろ試行錯誤しております。 ぜひ、みなさんもこうした試みに触れてみてほしいとは思いますね。
改めてですけれども、このコロナ禍をどう乗り越えていきたいと思われますか。
身もふたもない言い方になるかもしれませんが、仏教は、「一切皆苦」という“この世の中はすべてが苦しみであり、思いどおりにならない”というお釈迦様の教えが出発点になっているんです。また、“世の中のすべての物事は自分の心の反応も含めて常に移ろいゆく”という「諸行無常」という教えもあります。つまり、この世の中は苦しみだらけで常に移ろいゆくわけですから、もともとが不安定だという見方もできると思うんですよ。
コロナの問題ですとか、ウクライナとロシアの問題ですとか、不安定な状況がありますが、不安定で一定しないからこそ、日常のほんの小さなことでも笑顔になることができるのが人間だと思っています。コロナ禍の今こそ、素朴で誰も気付かないような小さな幸せを見つめなおすことが大切なんじゃないかなと思いますね。
ありがたいお言葉でございます。
人間には、小さな幸せを感じるアンテナが鈍ってしまうときがあります。でも、このアンテナの感度がよいのがお寺だと思っています。お寺とは、日常で自分が当たり前に受けている幸せが、ありがたいことだということを感じることができる空間だと思っています。
お寺ジオはRadiotalkというアプリで、誰でも無料で聴くことができ、お経の配信もしています。お便りも募集しているそうなので、仏教にまつわる素朴な疑問にも、仁部さんがユーモアたっぷりに答えてくださるかもしれません。