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「一斉帰宅抑制」を知っていますか?

  • 2022年04月28日

一斉帰宅抑制とは、大規模地震が起きたとき、自宅が遠距離にあるため帰れなくなったり歩いて帰らなければならなくなったりした帰宅困難者が、一定期間、安全な場所で待機することです。

11年前の東日本大震災では、首都圏で約515万人の帰宅困難者が発生したと言われています。政府は、大規模地震の発生直後に大勢の帰宅困難者が一斉に徒歩などで帰宅を始めると、救命・救助活動や消火活動などの妨げになることから、一斉帰宅抑制の実施を基本原則としています。しかし、この基本原則、実効性を高めるにはまだ課題が多いことが、さいたま市の小学校が行ったアンケートから明らかになりました。

(さいたま放送局記者 永野麻衣/佐藤惠介)

さいたま市大宮区にある市立大宮南小学校は全校児童が975人の大規模校です。都心からのアクセスが良く、近年、周辺でマンション開発が相次いだため、児童数はここ2年で200人近く増えました。平日の日中に大規模地震が発生した場合、学校は、子どもをすぐに迎えに行くことができない保護者のために、児童の安否を確認し、安全を確保しなければなりません。

大宮南小学校では、ことし2月下旬から3月上旬にかけて、児童の家族を対象に帰宅困難者対策に関するアンケート調査を行いました。およそ660世帯の65%以上にあたる441世帯から回答を得ることができました。回答した世帯のおよそ65%が共働きで、このうち60%で保護者のどちらか、あるいは、両方が都内に通勤していました。

さいたま市立大宮南小学校

一斉帰宅抑制を「知らない」が半数以上

アンケートで「一斉帰宅抑制を知っていますか?」と尋ねたところ、「はい」と答えた世帯は46.26%(204世帯)、「いいえ」と答えた世帯は53.74%(237世帯)と半数以上の世帯が一斉帰宅抑制のことを知らなかったことがわかりました。

東京都は、東日本大震災の翌年に帰宅困難者対策条例を制定し、大規模災害が発生した場合、都内の事業所に対して従業員の一斉帰宅抑制の実施を求めるとともに、従業員が安全に待機できるよう3日分の食料や飲料水などを備蓄するよう求めています。また、公共施設や百貨店、ホテルなどを、待機場所がない帰宅困難者を受け入れる一時滞在施設に指定することも盛り込みました。

東京大学大学院の廣井悠教授は、内閣府の首都直下地震帰宅困難者等対策検討委員会の座長を務め、大宮南小学校のアンケートの監修も担当しました。廣井教授は、都の条例制定から10年がたっても一斉帰宅抑制への認知が十分に進んでいないと指摘します。

「アンケートを詳細にみると、帰宅困難者対策が進んでいるはずの東京に勤務している保護者でも、一斉帰宅抑制を知らないと答えた割合が50%を超えていました。震度7クラスの地震が首都圏で起きた場合、建物の倒壊などが想定され、徒歩で帰宅すると二次被害に遭うおそれもあります。一斉帰宅抑制がなぜ必要なのか、広く知ってもらう必要があると改めて痛感しました。」
(東京大学大学院 廣井悠教授)

家族の安否確認が成否の鍵

廣井教授が一斉帰宅抑制の成否の鍵を握ると考えているのが、家族との連絡方法の確保です。内閣府が実施した東日本大震災での帰宅困難者に関する実態調査によると、帰宅中に必要だった情報は「家族の安否情報」がおよそ56%と最も多くなりました。

大宮南小学校でPTAの会長を務める齊藤秀樹さん(38歳)は、妻と小学6年生、小学4年生の子どもの4人家族です。東日本大震災のときには携帯電話が通じ、子どもは生まれたばかりで妻も自宅にいたため、すぐに無事を確認することができました。しかし、今、首都圏で大規模地震が発生した場合、当時と同じことができるのか、不安を感じています。

「子どもは大きくなって家族が別々の場所にいる機会が増えています。妻はパートタイムで働いていますし、私も仕事で東京や栃木など県外に出ることが多くなりました。仕事で県外にいるときに大きな地震がきたら、どうすることもできないと思います。」
(齊藤秀樹さん)

斉藤秀樹さん

7割が連絡方法を決めていない

大宮南小学校が実施したアンケートでは、家族との連絡方法について、「大規模地震などの災害が起きたとき、どのような方法で子どもと連絡を取り合うのか、あらかじめ決めていますか」と尋ねています。その結果、「はい」と答えた世帯は30.16%(133世帯)、一方で、「いいえ」と答えた世帯は69.84%(308世帯)となり、およそ7割の世帯で子どもとの連絡方法を決めていないことがわかりました。その理由を複数回答で尋ねたところ、最も多かったのが「子どもが携帯電話を持っていない」ためで142世帯に上りました。

廣井教授は、家族の間で複数の連絡方法を事前に決めておくことが重要だと指摘します。

「アンケートでは、連絡方法の準備ができていない家庭が想定していたよりも多い印象を受けました。必要性は認識していても具体的な準備は後回しになっているのかもしれません。低学年の場合、携帯電話を持たせていないこともあると思いますが、親の連絡先を書いたメモをふだんから子どもに持たせるなど、可能なかぎり、複数の連絡方法を決めて、ふだんから使い方などを家族の間で確認しておく必要があります。」
(東京大学大学院 廣井悠教授)

登下校中の児童の安否確認が課題

さいたま市では、市内で震度5弱以上の揺れがあった場合、学校が児童・生徒全員の安否確認を行い、保護者が引き取りに来るまで安全を確保することにしています。しかし、最も懸念されているのが、登下校中の安否確認です。

大宮南小学校では、災害時に誰が児童を引き取りに来るのか、あらかじめ名簿を作成し、引き取りのための訓練も実施しています。また、登下校中など児童が校外にいるときには、保護者に一斉メールを送って児童の安否を連絡してもらうことにしています。しかし、清水肇校長は、保護者が帰宅困難者になった場合、すぐに全員の安否確認を行うのは難しいと考えています。

「今回のアンケート結果をみて、児童の安否確認や保護者への引き渡しには、かなりの時間がかかるかもしれないと感じました。児童全員の安全を確認して、最後の1人まで確実に保護者に引き渡すのは学校の責務です。しかし、特に登下校中の児童の安全確認は、教職員だけでは十分にできないのが現状です。」
(大宮南小学校 清水肇校長)

 

引き渡し名簿の記入用紙

地域ぐるみで子どもの安全を守る

地震などの災害時には想定外の事態が起こることも十分、予想されます。清水校長は子どもの安全を守るには、学校や保護者だけでなく、地域ぐるみで対策を進める必要があると話します。

「例えば、“一人でいるときに大きな地震に遭ったら、近所の家に行きなさい”と子どもと決めておくなど、地域で共助の関係をつくることができれば非常にいいと思っています。」
(大宮南小学校 清水肇校長)

さいたま市は今年度から、学校が抱える課題を地域で解決するため、地元の自治会や企業などが参加する学校運営協議会をすべての学校で立ち上げる予定です。

清水校長は6月に開かれる大宮南小学校の協議会でアンケートの結果を共有し、大規模地震などの災害時に子どもの安否確認や安全確保をスムーズに行うには地域にどんな協力を求めればよいのか、具体的に話し合うことにしています。

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