首都圏ネットワーク

  • 2024年5月9日

東京都の高校授業料無償化 神奈川 埼玉 千葉 知事の要望は?教育の質の向上どうする

~デスクが詳細解説~
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【更新 5月24日】
東京都は高校の授業料について支援の所得制限を撤廃して実質無償化しました。保護者が都内に住んでいることで都外の私立高校に通っても対象となりますが、都内の高校に通う隣県の生徒は無償化の対象ではなく不公平ではないかという意見もあります。無償化の一方で、教育の質を高めていくことも重要です。この問題をどうとらえるか、長年教育問題を取材してきたデスクが解説します。神奈川県、埼玉県、千葉県の知事の国へ対する要望の内容とあわせてまとめました。

東京都は所得制限撤廃 高校授業料が実質無償化

東京都内の高校の授業料は、これまでは、年収910万円未満の世帯年収を目安に、私立では授業料の助成など、支援を行ってきました。それを2024年度から、所得制限を撤廃し、高校の授業料が、実質、無償化されました。

隣県から都内の私立高校に通学する場合は

今回の無償化は、東京在住の生徒が対象となっています。例えば東京に住む生徒は、都内の私立学校だけでなく、埼玉県や神奈川県など、隣県の私立高校で学ぶ場合も今回の無償化の対象となります。  
一方で、東京の私立高校に、隣県に住む生徒が通う場合は、対象とはならないため、不公平ではないかという意見も出ています。

神奈川県 埼玉県 千葉県 3県の知事は

こうしたなか、神奈川、埼玉、千葉の3つの県の知事は5月7日、文部科学省などを訪れ、要望書を提出しました。

神奈川県 黒岩知事  
神奈川の私立学校では、クラスの3分の1が東京都から来ている子どもというケースもあり、同じクラスの中で支援のあり方が違うということが起きる。こういったおかしなところを国には話しあってもらいたい。

埼玉県 大野知事  
面会した文部科学大臣からは『時間がかかるけれども何ができるか検討していきたい』とお話をいただいた。粘り強く3県で手を携えて取り組まなければいけない課題だと改めて強く認識した。

千葉県 熊谷知事  
県民が目に見える形で支援の差を感じるというのはかつてなかった状況なので、このいびつさを多くの人に知ってもらい、特に政府関係者にはこれを早期に改善する方向で動き出してほしい。

“地域間格差が生じないよう対応を”

提出した要望書では「税収に恵まれている東京都では高校授業料実質無償化などの施策を打ち出し、周辺自治体との地域間格差が拡大している。こうした状況は東京一極集中の流れを加速させる」と指摘しています。

その上で、格差が生じないように、国の責任と財源で必要な措置を講じることや、自治体間の税源の偏りを抑える地方税の仕組みを構築することを求めています。

【関東地方知事会】

23日、関東や甲信など10の都県の知事らによる「関東地方知事会」の会議が、都内で開かれました。会議では格差が生じないよう国が財源を確保した上で責任を持って教育費の無償化を図るべきだとして、▽国がすでに行っている高校授業料への支援の拡充や、▽都道府県が独自に行う取り組みへの財政支援を求めていくことを確認しました。

会議のあと東京都の小池知事は「このジャンルは国がしっかり取り組むべきだという共通の認識でいる。だからこそ連携しながら国へ要望していこうという認識でまとまった」と述べました。 
(更新 5月24日)

授業料無償化 教育の質の向上は

高校の授業料の無償化をめぐる問題について、長年、教育問題を取材している西川デスクの解説です。

【Q】なぜ高校無償化に不公平感が出ることになったのでしょうか。

高校は、義務教育ではありませんが、現状はほぼ全員が進学します。それだけに高校に公費をもっとかけるべきではないかという意見は広く聞かれます。  
おさえておきたいのは、高校の無償化政策は、すでに国によって進められてきたということです。  
公立と私立で違いがありますが、年収910万円未満の世帯を対象に授業料相当額などが支給されています。各都道府県がこれに上乗せして支援を行うことは認められていて、今回都は、独自に所得制限をなくしました。そのため、3県と差が出た形です。財源は都が負担します。

【Q】3県の知事は国に要望しましたが、自分たちでは難しいのでしょうか。

3県からは都内の高校に通う生徒が多くいます。こうした生徒には、所得制限があり、同じ高校の生徒なのに居住地によって不公平が生じています。こうしたいわばいびつな状況は解消したいものの、3県にしてみれば、豊かな財源を持つ都と同じように予算を確保することは難しいわけです。

【Q】不公平を解消するには、国の負担を求める気持ちも理解できます。

一方で、今の無償化政策の中で、所得制限をなくしても恩恵を受けるのはむしろ所得の高い世帯にとどまるとの指摘があります。無償化だけでは教育の質そのものは上がりません。特に首都圏のように生徒が広域から集まる地域では、財力のあるところだけが先行し、あとは国にツケをまわせばよいということでは、公教育施策全体にゆがみを生むことにもなりかねません。  
ほぼ全員が進学するのだから、高校はすべて無償にすべきなのか、その分の財源はむしろ不足する教員の確保などの施策により手厚く使うべきなのか。国の財源も限られるだけに教育政策の中での優先順位もふまえ、冷静に考える必要があります。

取材後記  
教育は、誰もが受けてきた経験があるだけに、その経験をもとにしたそれぞれの価値観を持っています。教育施策に対しても世代世代で受け止め方が異なることも多く、小中学生や高校生、大学生などそれぞれの保護者によっても行政に求める課題は違ってきます。  
それだけに新たに示された施策を一面的に伝えるのではなく、さまざまな見方を提示していくことが重要だと思っています。(首都圏局デスク 西川龍一)

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