川端康成や三島由紀夫など多くの著名な作家たちが利用したことで知られる東京・千代田区の老舗ホテル「山の上ホテル」が、老朽化に伴って2024年2月から休館することになりました。
千代田区神田駿河台にある「山の上ホテル」は、昭和29年に開業した老舗ホテルです。
ホテルのホームページなどによりますと、建物は昭和12年、アメリカ出身の著名な建築家、ウィリアム・メレル・ヴォーリズの設計で建てられたアールデコ様式の洋館です。
最初は、財団法人が西洋の生活様式やマナーなどを啓発する施設として使われ、戦時中は海軍が徴用し、戦後はGHQに接収され、アメリカの陸軍婦人部隊の宿舎として使われました。そして、昭和29年1月に今のホテルになったということです。
ホテルによりますと、建物が完成してから86年がたち、老朽化への対応を検討するため、来年2月13日から休館するということです。
出版社や古書店が集まる神田にほど近く、川端康成や三島由紀夫、それに池波正太郎など数々の作家や文化人が利用したことでも知られています。
休館の発表がなされてから、ホテルには大勢の人が訪れています。
いまの状態のホテルを目に焼き付けておければ…
学生の時、OBに食事や喫茶店に連れてきてもらった。高級なイメージがありました。ふだん食べられないものという形でカツレツを食べたりとか。
憧れなので泊まってみたいと思って、ニュースを見て慌てて予約をとりました。数多くの文豪が泊まった空気だけでもと思いました。
ホテルの休館について、ゆかりのある著名人からも惜しむ声が聞かれました。
山の上ホテルが定宿で、東京に来た際、執筆する場所だという作家の伊集院静さんは、NHKの取材に「たくさんの作品を創り上げることができたのはこの山の上ホテルがあったからだと思います。ありがとう」と話しています。
国内のホテルに詳しいホテル評論家の瀧澤信秋さんは、山の上ホテルについて、次のように意義を話しました。
ホテル評論家・瀧澤信秋さん
「ホテルは、時代や来るゲストによって育てられるという側面があるが、山の上ホテルは有名な作家にたくさん愛されて、作家がいわゆる“かんづめ”になって執筆して待ち合いのロビーに原稿を待つ編集者がたくさんいたといったエピソードにも事欠かない。これほどの歴史を紡いできたところは国内に数える程しかなく、東京の文化的な成熟を担ってきた時代は長かったと感じる。
老舗のホテルは快適性や安全性をどう保っていくかという課題があると思うが、長年の歴史で築いてきた雰囲気など、新しく作ろうと思っても作れない価値を休館後も残してほしい」
ホテルによりますと、休館の期間は未定で、決まりしだい改めて公表するとしています。
休館に伴い、館内で営業しているレストランやコーヒーパーラーなども休業するということですが、銀座や六本木などにある直営の飲食店は引き続き営業するとしています。
山の上ホテルの担当者
「一度、休館のお時間をもらった上で建て直す方針です。皆様にはご迷惑をおかけしますが、何とぞご理解いただけますようお願い申し上げます」