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退職金どうなる 所得税は 自己都合退職の場合は 労働移動につながるか

  • 2023年6月20日

退職金の制度は今後どうなるのでしょうか。政府が示した「骨太の方針」では重点的な政策として「労働市場の改革」が打ち出されています。そして「成長産業への労働移動を促す」ポイントとなっているのが「退職金」です。自己都合退職の場合の退職金や退職金税制についての指針のほか、企業の取り組みや懸念などをまとめました。

“成長産業に労働移動を促す” 退職金

ことしの経済財政運営などの基本方針「骨太の方針」の中では、岸田政権が掲げる「成長と分配」や「賃金と物価の好循環」の実現の鍵を握るのは「賃上げ」だとして、構造的に賃金が上昇する仕組みづくりが必要だとしています。その上で、成長産業への労働移動を促すことが構造的な賃上げにつながるとしています。

〇退職金への課税
具体的には、勤続20年を超えると退職金への課税が大幅に軽減される現在の税制を見直すなどとしていて、取り組みを通じて、終身雇用が多かった日本の労働市場を見直すことで労働移動を活発化させて構造的な賃上げを実現したい考えです。

〇自己都合退職の退職金
また方針では「成長分野への労働移動の円滑化」について、自己都合退職の場合の退職金の減額といった労働慣行の見直しに向けた「モデル就業規則」の改正を行うとしています。

退職金制度見直しの企業 その内容は

人材の確保につなげようと終身雇用を前提とした退職金制度を見直す企業も出ています。大手金融グループのみずほ銀行などグループ5社は、来年度の積み立て分から転職や結婚など自己都合で退職する際に退職金を減額する仕組みを撤廃しました。

退職金の前払いも来年度から認めることになりました。これまでは会社を辞める時に退職金を受け取ることになっていましたが、子育てや家族の介護など資金が必要な時に希望をするとこの仕組みを利用できるということです。

“雇用の流動化はいっそう進む”

さらに会社では雇用の流動化がいっそう進むとみていて、中途採用を増やしていく計画です。グループ3社では昨年度の中途採用はおよそ320人と全体の採用数の44%に上り、前の年度の11%と比べて大幅に増えています。

みずほフィナンシャルグループ 上ノ山信宏執行役
「金融ビジネスそのものが変化し、デジタルなど新しい分野での人材確保が重要となっている。別の企業に転職して活躍したり、中途採用で入社して働いたり、そして終身雇用を希望するなど働き方の多様性を確保していくことは、人材を確保し競争力を高めていくためには企業にとって大切なことだと考えている」

高い技術を 終身雇用が前提の退職金制度

一方で、多くの企業が長く働き続けることを前提にした退職金制度を導入しています。大阪・八尾市にある「理化工業」は、従業員およそ70人の金属部品の加工会社で、勤続15年以上が全体の3分の1となっています。

この会社では、金属加工の高い技術などを身につけてもらうためにできるだけ働き続けてほしいと終身雇用を前提とした退職金制度を導入しています。
退職金の金額は勤続年数のほか、役職や評価などに応じて毎年、付与されるポイントの合計で決まります。また、定年前に辞めた場合の退職金は、自己都合の場合には勤続年数に応じて減額される仕組みとなっています。

自己都合退職の制度見直し 中小企業の懸念

この会社では、自己都合の場合に退職金が減額される制度の見直しによって働く人がより活躍できる職場を選びやすくなることは社会全体としては必要な面はあると感じています。ただ、中小企業では転職する人が増えていくと人材の確保がいっそう難しくなるのではないかと懸念しています。

森嶋勲 社長
「退職金は人生設計の中で非常に大事なので、長く勤めてもらえばこの会社で働いてよかったと思ってもらえる制度づくりを考えている。労働市場の流動性が高まれば人材確保の面ではなかなか難しくなるという危機感はあるが、若者から選ばれるためには賃金や退職金の制度などの待遇も大事なところだし、改善する努力は必要だと思う」

退職金制度の見直しをどうみるか

退職金制度の見直しについて、大和総研金融調査部の是枝俊悟主任研究員に聞きました。

〇税制見直しの狙い
柔軟な労働移動がしやすいような制度に変えていこうというのが狙いだ。転職を希望する場合でも、企業によっては自己都合で退職した場合に、退職金が減額されてしまうという仕組みがあったり、税制上でも、20年以上同じ企業で勤めた人には、非課税枠を上乗せする形で優遇策があったりするので、これが労働移動の妨げになっているという指摘が長くされてきた。

〇見直しの背景
産業構造が大きく変わっているなか、新卒で入ってそのまま働き続けていくという単線型の雇用モデルが変わってきている。新たに必要となるスキルを自ら身につけて、異なる企業に転職するといったことが求められるようになってきている。

〇終身雇用前提の制度を見直す動き
企業にとっては自己都合で退職した人にも、全額退職金を払うとなると、出て行かれるのが惜しいという考えもあると思う。一方で、柔軟な人の出入りができるような制度にしておかないと、新たな人材が入ってくることも抑制してしまうという面がある。これからの時代に対応した人材を獲得するためには、企業としても退職金制度を見直さざるを得ないと思う。

〇議論を進める上で留意すべき点
これまで長年勤めた方に大きな負担の増減が生じないようにすることは必須だと思う。その上で、中途退職した人にも、税制上不利にならないよう制度設計していくことが必要だ。そのためには例えば、今であれば勤続年数に応じて、控除額を設計している計算式を、生涯でいくらまで非課税とするように改めるとか、あるいは年齢ごとにいくらまでの非課税を認めるという形に組み替えていくなどの制度設計の工夫が必要だと思う。

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