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東京都 都立高校入試でスピーキングテスト 疑問の声も 都の見解は

都庁Q&A
  • 2022年11月8日

11月27日に都立高校の入試で行われる「スピーキングテスト」。グロ-バル人材の育成を目指し、「使える英語」教育に力を入れる都が「話す力」をはかろうというテストで、運営は民間の教育サービスの大手企業が担います。
ただ、このテストをめぐっては、保護者や専門家などから、入試で最も大切な「公平・公正さ」が保たれないとして、実施に疑問の声が上がっています。
何が課題なのか、また、疑問に対する都の見解を取材しました。

スピーキングテストとは

英語の「書く」「読む」「聞く」「話す」の4つの技能のうち、これまで唯一、テストにはなかった「話す力」が都立高校の入試ではかられます。

テストは、専用のタブレット端末を使って行われます。受験生は、マイクのついたヘッドセットをつけ、その上から、周りの音が聞こえないようにイヤーマフを装着します。

「ESAT-J」と呼ばれる都の教育委員会とテストの運営を担うベネッセが共同でつくった問題が使用され、受験生は画面に表示されるイラストの状況を英語で説明したり、設問の質問に対する自分の考えを述べたりして、解答として録音します。

こちらは去年のプレテストの問題です。
イラストの人物になりきって相手にストーリーが伝わるように40秒以内の英語で話す問題です。

音声データは、ベネッセを通じてフィリピンにいる英語の指導資格を持つ講師が採点する流れになっています。

点数に応じて、A~Fの6段階で評価されます。
最も高い「A」は20点、「B」は16点、「C」は12点、「D」は8点、「E」は4点、そして「F」は0点と、4点刻みとなっていて、これが、学力検査(筆記試験)と調査書点(内申点)の合計1000点に加えられ、合計1020点で合否が判定されます。

保護者や専門家から疑問の声 都の担当者は

このテストの入試への利用をめぐり、専門家や保護者からは、本当に公平・公正な試験が行われるのか、疑問の声が上がっています。
都議会でも、テストに反対する会派から中止を求める条例案が提出されるなど、実施の是非をめぐって議論となりました。

これまでの取材で保護者や専門家から指摘された疑問点などについて、都教育庁の瀧沢佳宏指導推進担当部長に話を聞きました。

Q.そもそも、このテストを実施する意義はあるのか?

A.グローバル化が進む中で、英語力や創造的な思考力、あるいは世界の一員であるという意識、多文化共生の精神というものを育成していくことが必要です。
そのために、都は学校の英語授業の改善や、独自の留学システム「次世代リーダー育成道場」の導入など、さまざまな取り組みを行ってきました。

この取り組みの中のひとつ、小・中・高一貫した英語力の育成として「スピーキングテスト」も位置づけて実施していきたいと考えています。
また、英語という科目については、学習指導要領でも小学校から英語の4技能について、バランスよく育成するということが取り組まれてきています。
ただ、子どもたちは学校で「話す力」を学んできているのに、スピーキングについてだけ、十分に評価できていないという現状があるのであれば、それは改善していかなければいけないのではないか。
これが、テストの入試への利用の、本質的な課題と方向性だというふうに考えています。


Q.採点の基準や方法が不透明。客観的評価が難しいとされる「話す力」を公平に採点できるのか。

A.採点の基準については、採点方針や基準、出題の方針をホームページなどで公開をしていて、試験でどのような点が評価されるかは明示しています。

東京都ホームページより

採点方法については、資格を持つ専任者が明確な基準に基づいて、複数人でおこなって評価を確定するというプロセスを経て評価を行います。
また、「話す力」の評価自体が難しいのではないかということについては、例えば英検やTOEFLなど、世の中には、さまざまな英語力を測る試験があります。
これらは全て、スピーキング能力も含めた英語力を測るもので、それがグローバルスタンダードになっていると考えています。また現在でも、記述式の問題や作文、面接や実技といった、はかりたい力に応じて、いろいろな方法で入試が行われています。

ただ、これらの採点で共通するのは、しっかりした人が採点すること、基準が明確に示されていること、複数の人が行うことで、その客観性を担保することです。
これらは、まさに今回の試験でも同じようにやっていることなので万全の態勢をとりながら公平・公正な採点を実施していきたいと思います。


Q.ベネッセがテストの実施運営を担うことになっているが、なぜ、この事業者だけが入試に関わるのか。選定方法はどうなっているのか。

A.今回、実施を担う事業者を決定する際には、選定する会議を開催し、有識者を含めて選定をしています。選定への応募にあたっての条件には、これまでに資格検定試験を大きな規模で実施してきていることをあげました。
長年にわたって英語の資格検定試験を行っている実績を踏まえた上で、安定的に円滑にテストを行えるとして、公平公正な選考過程を経て、事業者を決定しました。行政の様々な施策について、民間企業が受けることは広く使われていることだと認識していますので、適正なプロセスで選定をしたということを踏まえて、適正であると考えています。

Q.入試にかかるテストの問題の作成など厳正なものに、民間の事業者が関わって公平性・公正性が保たれるのか。運営を担う事業者が独自に行っている同様のテストと、「ESAT-J」の内容が非常に似ているが、問題はないのか。

A.試験問題の作成は非常に重要な点で、高い機密性が問われるところです。専門の検討委員会を設置して、有識者などとともに、オリジナルの問題を作成することにしています。特に今回は、授業で子どもたちが学んでいる範囲の中から出題するという大原則を定めました。問題の作成はその検討委員会で有識者とともに作成し、都教育委員会が監修することにしています。

Q.民間の事業者が当日の運営も担当することになるが、実施体制は大丈夫か。

A.今回は8万人の中学生を対象として実施します。使用するタブレットの調達や、受験票の配布、当日の運営などそれぞれ非常に規模が大きいものです。それらを全て行政が行うということではなく、それぞれ明確に役割を分担した上で行います。一方で、試験としての品質、機密性を担保するため都教育委員会の監督のもとで適正に行います。

Q.テスト当日の試験監督を短期のアルバイトが担当するということだが、試験中のトラブルに対応できるのか。

A.大規模な試験のため、当日の仕事もさまざまな業務があるので、試験監督などにアルバイトもいる状況は理解しています。ただ、非常に重要な試験なので、運営が適正に行われるためには、しっかりと全体を把握して実施していくというのは言うまでもありません。
試験監督などは全員、それぞれの職層に応じて研修を行うということになると思いますが、その状況については教育委員会としても、きっちりと把握をします。
 

Q.スピーキングテストの不受験者は、筆記試験の結果が同じだったほかの受験者の、スピーキングテストの結果の平均と同じ点数が与えられることになっているが、こうした仕組みでは、不受験者がテストを受けた人よりも点数が高くなり、合否が逆転する可能性があり、不公平なのではないか。

A.特別な支援や配慮を必要とする方や、インフルエンザや新型コロナウイルスに罹患してしまったなどの場合に、その状況を確認をした上で、不受験者としての得点を認めるものです。意図的に不受験ができるものではないし、不受験だったことによって得点が与えられるような仕組みではありません。
受験生の中には、さまざまな背景があり配慮を必要する人がいることも事実で、こうした人のスピーキングテストへの対応と、公平性・公正性を保つことを両立するというのは、非常に難しいことだと認識しています。こうしたことへの対応としては、合理的で最善のものであるというふうに判断してこの仕組みにしたところです。

Q.不受験者の中には、都立高校を都外から受験する人や都内の私立中学校に通う生徒も含まれると思うが、同じ都立高校を受験する公立中学校の生徒と比べて不公平ではないのか。

A.都内の私立中学校の方については、公立中学校と同じように試験の実施についてお知らせして、都立高校の受験を考えている方には受験をするように伝えています。私立や国立中学校に在籍している生徒についても受験をしてもらう仕組みです。
ただ、今後、都内に転居して都立高校を受験する予定がある受験生については、今回はスピーキングテストの対象外となります。


Q.都外の多くの受験生が希望する都立高校では、スピーキングテストの不受験者が比較的多い割合ででることになるが、こうした状況についてはどう捉えているのか。

A.今後、都内に転居して都立高校を受験する予定がある受験生については、今回はスピーキングテストの対象外となります。そのため、不公平にならないよう、やむを得ない場合の措置として不受験者の取り扱いを決めました。


Q.タブレットを使って行うテストでは、塾などに行かないとテスト対策ができない。経済的な事情による教育の格差がでて、不公平ではないか。

A.ふだん、授業でやっている教科書の範囲の中で出題をすることにこだわっているので、授業での勉強をしっかりやることで、十分に対応できると考えています。それに加えて、さらにスピーキングを伸ばすための勉強したいという場合に、さまざまなオリジナルのコンテンツを作って、都教育委員会のホームページで公開しています。塾に行かなければ、その勉強ができないという状況は機会の平等という状況では避けなければいけません。塾に行かなくても自宅で勉強することができるという環境を整え、学ぶ意欲があれば学ぶことができるという体制を整えています。

疑問点を取材して

取材した保護者のひとりは「不安に感じている点を都の教育委員会に問い合わせたものの明確な説明はありません」と話していました。
また、テストの実施まで1か月を切る中ですが「不安を解消し納得できるような、詳細で具体的な回答がない」という声も上がっています。
都の教育委員会はホームページで、さまざまな資料や動画を配信していますが、こうした情報が受験生や保護者に十分に届いているとは言いがたい状況です。

英語の「話す力」をはかるテストは、大学入学共通テストで導入が検討されたほか、岩手県では実際に導入もされました。
しかし、採点にかかる教職員の負担や、採点の不公平感などが課題となり、本格導入には至りませんでした。グローバル化が進む中、世界で活躍する人材を育成しようという都の狙いは理解できます。
ただ、受験は、子どもたちの人生を左右する大切なものです。受験生が少しでも不公平感や不安を抱くことがないよう、都は丁寧な説明を尽くし、公平性・公正性がしっかりと担保されるように、万全の準備を整えてほしいと思います。

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