1. NHK
  2. 首都圏ナビ
  3. もっとニュース
  4. 賃金の“デジタル払い” メリットと課題は 来年度にも可能に

賃金の“デジタル払い” メリットと課題は 来年度にも可能に

  • 2022年10月26日

決済アプリを使った賃金のいわゆるデジタル払いが、厚生労働省の審議会で了承され、労働者の同意があり国から指定された業者のアプリであれば、来年度にもデジタル払いが可能になる見通しです。導入を検討する企業も出てきています。
賃金のデジタル払いをめぐる動きをまとめました。

賃金のデジタル払い 導入検討の企業も

決済アプリを使った賃金のいわゆるデジタル払い。
メリットが大きいとして導入を検討する企業が出ています。

東京・渋谷区にある従業員およそ1700人のガス会社は業務の効率化を進める中で、3年前から交通費や備品の購入などの経費精算についてデジタル払いにしています。

精算用の専用アプリでレシートを撮影し、必要な情報を入力して申請すると立て替えた経費が会社からスマートフォン上の決済アプリを通じて支払われます。

それまでは銀行などの口座に現金が振り込まれていましたが経費の精算で必要な手続きが大幅に簡素化されたほか、支払いが1か月ごとから原則として1週間ごとになり社員が経費を立て替える期間も短くなりました。

社員

職場の歓送迎会の費用などもアプリを使って清算するようになりとても便利になりました。賃金も結局使うためにATMで引き出しているので、直接アプリを通じて支払ってもらいたいです。

また、経費精算のデジタル払いによって銀行などの口座への振り込みにかかる経費と比べてコストは3分の1ほどに抑えることができたといいます。

会社では賃金のデジタル払いが解禁された場合には経費の削減や利便性の向上につながりメリットが大きいとしてすみやかに導入したいとしています。

「日本瓦斯」柏谷邦彦社長
「これだけスマートフォンが普及する中、いまの給与のもらい方はかなり時代遅れだと認識していますし、デジタル払いの解禁で社員の選択肢が増えるのでとてもいいことだと思います。
デジタル化が急速に進む中で現金そのものを扱うことがだんだんコストにつながっていくと思いますし、利便性の高いルールをつくってもらいたい」

“デジタル払い” 来年度にも

賃金は、労働基準法で現金での支払いが原則とされ、銀行口座への振り込みも認められていますが、キャッシュレス化が進む中、労使の代表などで作る厚生労働省の審議会は、スマートフォンの決済アプリなどを使った支払いについて議論してきました。

26日開かれた会合では実施に向けて必要となる省令の改正案が示され、おおむね妥当だとして了承されました。
改正案の内容は次の通りです。

改正案によりますと、こうした支払いには労働者の同意が前提となり、対象となる決済アプリなどの業者は労働者を保護する要件を満たすかどうかをもとに国が指定するとしています。

具体的な要件としては、1つのアカウントの残高の上限を100万円以下にすることや、業者が破綻した場合でも全額の払い戻しを保証する仕組みを設けていることなどを挙げています。

これを受けて、厚生労働省は省令を改正することにしていて、来年度にも業者の指定の手続きが始まり、準備が整い次第、賃金のデジタル払いが可能になる見通しです。

メリットと課題は?

厚生労働省が審議会に示した3年前の調査では、決済アプリなどを利用している4000人のうちおよそ4割が、賃金が決済アプリなどに支払われることになった場合「利用することを検討する」と回答していました。

労働者が賃金の受け取る方法の選択肢が増え、チャージの手間が省ける点や企業側にとってもこうした支払い方法を求める労働者を確保しやすくなることなどがメリットと考えられています。
一方、課題もあります。
労働者側からは資金移動業者が破綻した際の安全性の担保や個人情報の取り扱いをめぐる懸念の声が上がっています。
企業側からも賃金を支払う際の手続きが煩雑になるのではないかといった指摘が出ています。

専門家「安心して使える状態に」

デジタル通貨に詳しい第一生命経済研究所 柏村祐 主席研究員
「キャッシュレス決済が社会で普及するなか、アプリに入金されればすぐに街なかで使え、商品の購入やサービスの利用、送金などに使いやすい。海外から来て銀行口座を開設するのが難しい人の利便性の向上にもつながる」

また、現金での手渡しや銀行口座への振り込みに比べてコストが低くなり、1日分や1週間分の給与を即座にアプリに入金するといった柔軟な支払い方が広がる可能性もあるとして、「短時間勤務、非正規雇用、海外から来て働く人など多様な働き方に対応できるようになる」としています。

柏村祐 主席研究員
「新たに口座を登録しどう送金するのか、リスクを検討しながらシステムを導入していくのは会社側にとって1つの課題となってくる。また、決済アプリなどの業者は、銀行と違って歴史が浅く、破綻した場合の担保やセキュリティ面などの不安は残る。
使う人が安心して使える状態にしていくことが大事で、補償の仕組みをどうするかは政府主導で進めるべきテーマだ」

ページトップに戻る