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JR山手線 営業列車での自動運転実証始まる ~鉄道発展の礎~

  • 2022年10月12日

10月14日は、明治5年に日本で最初の鉄道が開業してからちょうど150年です。そんな節目の年に都心の大動脈、JR山手線では、10月11日から乗客を乗せた営業列車で自動運転の実証運転が始まりました。踏切がある過密ダイヤの路線では初めてで、鉄道自動化の加速につながるか注目されます。

営業列車で自動運転の実証実験はじまる

10月11日午後4時前、東京・品川区の大崎駅。列車は一見、普通の山手線の列車ですが、先頭車両には「ATO」の文字という文字が入っています。JR東日本が独自に開発した自動列車運転装置が搭載されています。山手線としては初めて乗客を乗せた営業列車で自動運転の実証が始まりました。

※許可を得て安全に配慮し撮影

操作は、駅を出発する際にボタンを押すだけです。加速や減速は自動で行われます。運転士は念のためレバーを握っていますが、操作はしていません。停車も自動で行われ、1周34.5キロを走行していました。

乗客
「違和感なかった。音とか揺れとか全然気にならなかった」

高架上を自動で走る東京の「ゆりかもめ」などの新交通システムと違い、山手線はホームドアのない駅や踏切が残り、人や車が線路内に入った際の対応が必要になります。
加えて、1日平均76万人が利用し、ラッシュ時には3分に1本という過密ダイヤで、こうした環境での自動運転の実証運転は国内では例がないということです。

自動運転へ “走行訓練重ねる”

なぜ、山手線の自動運転に取り組むのか。それは人口減少などを背景にした将来的な運転士不足への懸念があるからです。

JR東日本は、山手線での自動運転の導入に向けて2017年からプロジェクトチームを立ち上げ、開発を進めてきました。そして、2018年、終電後の深夜に初めて走行試験を行い、ことし2月からは日中の時間帯に一般の営業列車が前後を走る中、乗客を乗せない試験用の車両を走行させてきました。そして、ことし6月下旬から山手線の運転士およそ250人を対象に走行訓練を重ねてきました。

9月に行われた訓練には、男女2人の運転士が参加。1周34.5キロの山手線をおよそ半周ずつ運転しました。出発の際にボタンを押すだけで、ふだんは速度の操作で使うレバーに触れることなく、自動で行われる加速や減速などを確認していました。

駅のホームから線路内に人が立ち入った想定の訓練では、手動操作で列車を緊急停止させ、安全確認を行ったあと再びボタンを押すと、列車は自動運転でゆっくりと駅に向かって走っていました。

訓練参加 運転士
「停止位置を修正する際にまだ操作に不慣れな部分もありますが、営業運転までにしっかり克服したい。正直、緊張もありますが、お客様によりよい乗り心地を感じてもらえるよう頑張っていきたい」

自動運転システム 課題洗いだしも

自動運転のシステム開発担当者と訓練走行を行った運転士たちが課題を洗い出して改善につなげる会議も続けられてきました。

10月3日の会議では、現場の運転士から、「お客さんが満員に近い状態の時や、天気も夏の雨と冬の雨、特にみぞれではブレーキの効きや加速も異なることがある」と自身が運転する際に意識してきた点を伝え、自動運転のシステムの改善に生かして欲しいと要望していました。

開発担当 JR東日本モビリティ・サービス部門 北原知直さん
「営業運転ではいろいろな事象や想定外のトラブルも起きると思うので、その異常事態に自動運転がしっかり対応できるかが鍵になる。手動運転に切り替えられる機能も持たせているので、どのような場面で手動で操作をしたか、データを分析しながらシステムの構築につなげていきたい」

JR東日本は、今後2か月間であわせて1000周ほど走行させ、データを集めることにしています。その上で、2028年ごろには山手線の全ての列車への自動運転の導入を目指し、将来的には運転士も乗らず、係員だけが乗務する運転も実現させたいとしています。

日本の鉄道の発展に!

鉄道の自動運転に詳しく、国の検討会の座長として指針作成にも関わった東京大学の古関隆章教授に今回の動きについて聞きました。

Q.山手線の実証運転の意義は?

「これまで自動運転は、新交通システムのように比較的低速で、高架で日常の空間からある程度隔離されたところでまず実現し、それがヨーロッパを中心に地下鉄にも展開していった歴史がある中で、日本の一般鉄道の自動化は20年30年遅れてきた側面もあります。山手線は利用者も本数も多い代表的な都市鉄道で、踏切があることも含めてわれわれの生活空間に非常に近いところを走っており、日本の自動運転の重要なモデルになる試みで意義は大きいと思っています」

Q.安全面で乗り越えるべき課題は?

「もちろん人間が作るものなので見落としがないとは言えない。地震への心配もあるし、雷が落ちれば通信や電力のシステムが故障するかもしれない。酔っ払ってホームドアから手や頭を出す乗客がいるかもしれない。まずは経験を積む中で1つ1つ確認し、問題があれば直していくというプロセスになると思います。乗客については、国の検討会の報告書でも『利用者の理解と協力で自動運転が成立する』と明文化されていて、『お客様は神様』ではなく安全な交通システムを作っていく非常に重要なプレーヤーの1人だと位置づけ、技術と協力的な行動があわさって良いものができていくとしています」

Q.日本の鉄道は開業から150年、大きな節目となるでしょうか?

「開業150年でお祝いムードもあるかもしれませんが、現実問題としては、すでに日本の人口は減り始め、高齢社会の中でお客さんも減る。鉄道を運営する技術者や運転士も減っていく。さらに新型コロナの影響で想定より早くお客さんが減ってしまい、外国のお客さんによる“かさ上げ効果”も吹き飛んでしまった。安全で良質な鉄道サービスを維持していくことへの危機感は多くの鉄道関係者にあり、山手線の自動運転の実証は、この先50年100年の日本の鉄道の発展、あるいは交通の発展を考える上で非常に重要な礎になると思っています」

鉄道自動運転の動き 業界で広がる

人口減少などを背景に、自動運転を目指す動きは鉄道業界で広がっています。
国土交通省は9月、鉄道で自動運転を導入する際の技術的要件などを盛り込んだ初の指針を公表しました。

この中では、自動化のレベルを6段階で示し、レベルの高いものから順に、係員が誰も乗らない段階、避難誘導などのため運転士ではない係員が乗務する段階、それに日本独自の規格として運転士ではない係員が列車の先頭部に乗務する段階を示しています。3つめについては、JR九州が、福岡市などを2両編成で走る在来線の「香椎線」で、2020年から実証運転を始めています。

今回の山手線の実証運転は、さらに1つ下の段階で、運転士が乗車し各駅を出発する際にボタンを押します。ただ加速や減速などの操作はシステムに任せるため、運転士の業務が大きく減り、車掌が担ってきたドアの開閉なども担えるとして、JR東日本は近い将来、ワンマン運転の実現を目指しています。山手線と同じ段階の自動運転は、JR西日本が大阪環状線で終電後の深夜に走行試験を行ったほか、JR東日本では常磐線の踏切のない一部の区間で始めています。

自動運転によって、運転士不足の解消だけではなく省エネも期待されています。
JR東日本によると、これまでの試験では自動運転によって加速や減速を効率的に行うことで、およそ12%のエネルギー削減効果があったということです。
ことしは、日本の鉄道開業から150年目の節目です。鉄道の活性化に向けて、新しい試みにも注目していきたいと思います。

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