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“痴漢日和”なんて許せない!受験生を守るためにできること

  • 2022年2月10日

1月に実施された大学入学共通テスト。その前日に、インターネット上に、こんな書き込みがありました。
“明日はセンター試験です!絶好の痴漢日和です!!”
大事な試験に向かう受験生を狙った悪質な犯行の呼びかけ。実は、同様の書き込みは受験シーズンになると毎年のように確認されるといいます。受験シーズンに狙われる子どもたちを守るために、私たちには何ができるのでしょうか?
(首都圏局/ディレクター 山口憲生・王瑜)

声上げられない受験生を狙う痴漢

大学入学共通テストの前日に見つけたインターネットの投稿です。“痴漢日和”のことばの意味を知って怒りがわきました。
試験の前に被害に遭っても、遅れることができないため、声をあげたり届け出ることがないから痴漢するのに適した日だというのです。声をあげることができない子どもたちが狙われている可能性があります。

“誰にも言えなかった…” 被害者の悲痛な声

受験生はもちろん、痴漢に遭った多くの被害者にとって、助けを求めたり、被害を届け出ることは難しいのが現実です。
街で、10~20代の女性たち20人あまりに話を聞いてみると、実に3人に1人が痴漢被害にあったと答えました。

こちらの高校2年の女子生徒は、これまで3回も被害に遭っていますが、そのことを誰にも相談できなかったといいます。

Q.友達の間でそういう話はしませんか?
女性:しないです。
Q.家族に話したことは?
女性:ないです。

警察庁によると、痴漢の検挙件数は全国で年間約2000件。痴漢の被害者の多くは、10代の中高生たちだといわれています。
10代の生徒たちを狙う理由について、痴漢の元加害者1000人以上にカウンセリングを行ってきた専門家に聞きました。

精神保健福祉士 斉藤章佳さん
「痴漢はストレス発散のために、自分よりも力の弱い人、立場の弱い人、泣き寝入りしそうな人に対して痴漢行為を行います。その象徴である制服を着た中学生・高校生が狙われる傾向があります」

子どもたちのために周りの大人ができること

痴漢被害にさらされる子どもたちをどう守ればいいのか。痴漢抑止活動センターの松永弥生さんに聞きました。
松永さんによると、まずは周りの大人たちが痴漢被害に対する正しい認識を持つ必要があるといいます。

痴漢抑止活動センター 松永弥生さん
「被害に遭ったことを聞いた人の中には、被害者に対して“あなたに隙があったのでは”といった言葉を投げかける人がいますが、それは間違いです。100%加害者が悪いのであって、“痴漢は犯罪”という意識を社会全体で持つことが、子どもたちを守ることにつながると思います」

その上で、具体的にできることとして挙げるのは「被害者への声かけ」です。
もし痴漢行為を目撃したときには被害者に「大丈夫?」と声をかけることを提案しています。痴漢の加害者に声をかけるのは、大人でもためらってしまう場合が多いと思いますが、被害にあっている子どものほうに声をかけるのであれば、ハードルが下がります。「大丈夫?」と声をかけることで、痴漢は周囲が見ていることを知って犯行をやめるといいます。

受験生が自分を守るためにできること

一方、電車で試験会場に向かう子どもたちが自己防衛のためにできる対策についても松永さんに聞きました。痴漢の実態を理解した上で対策をとることが重要だといいます。

“痴漢抑止バッジ”
松永さんの団体では、“痴漢抑止バッジ”を制作し、インターネットで販売しています。バッジには「痴漢は犯罪です 私たちは泣き寝入りしません」と書かれています。

松永さん
「痴漢は、おとなしそうな人を狙う傾向があるため、“痴漢を許さない”という強い意思表示を行うことで痴漢に遭いにくくなります。背筋をぴんと伸ばすだけでも、堂々とした雰囲気が出て、痴漢に狙われにくくなります」

精神保健福祉士の斉藤さんが、元加害者に「こういうバッジをつけている人をどう認識するか」たずねたところ、多くが「こういうバッジをつけている子には痴漢をしない」と答えたといいます。後ろに立つ人の目につく位置につけると効果的だそうです。
松永さんがすすめる対策はほかにも。

▼私服で試験会場に向かう
痴漢は、制服の中高生を狙う傾向があるため。
▼1人ではなく複数で会場へ
痴漢は、周囲の目を気にするため。
▼電車内では、ドアや連結部付近に立つのを止める
死角が生まれやすく、被害が多発しているため。

“誰にも言えなかった…”を社会からなくす!

さらに松永さんの団体では、痴漢対策についてまとめた動画などの教材を制作し、学校現場に提供しています。

埼玉県の高校で行われた授業の様子

授業を通じて生徒たちに痴漢から身を守る方法を学んでもらうとともに“周りの大人に相談しやすい雰囲気づくり”につなげていきたいと考えています。

浦和麗明高校 広瀬直樹 教頭
「生徒たちにしてみれば、痴漢の問題は、話題にもできないし、触れたくもない。授業を行うことで、何かあったときに、生徒が大人に話すハードルを下げることになればと思っています」

痴漢抑止活動センター 松永弥生さん
「被害にあっても相談をためらってしまう人がいますが、“痴漢は犯罪”です。本来、被害にあったら訴え出ていいのです。“誰かに話してもいいんだ”と、子どもたちが心から思えるような環境を、社会全体でつくっていかなければなりません」

被害に遭ったときの相談窓口
▼性犯罪被害相談電話 #8103(ハートさん)
▼性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター #8891(はやくワンストップ)

取材後記

今回取材した松永さんが話していたことですが、派手な格好をして出かけようとする娘に対して、母親が「そんな格好したら痴漢におそわれるよ」と注意することは、裏を返せば“そんな格好をしたら痴漢にあってもしかたがない”と痴漢を容認することになってしまうといいます。
今回紹介した対策の中には自己防衛の手段もありますが、本来、被害者が対策をする必要はないはずです。
大人として“痴漢が100%悪い”という意識を社会全体で共有し、何かがあったときに、子どもたちが相談しやすい雰囲気をつくるという役割を果たしていきたいと思いました。

  • 山口憲生

    首都圏局 ディレクター

    山口憲生

    最近、娘が生まれました。娘の未来のためにも、この報道が、痴漢のない社会につながるものになればという思いで取材にあたりました。

  • 王瑜

    首都圏局 ディレクター

    王瑜

    中国出身ですが、もし中国人が痴漢被害にあったらすぐに声をあげます。他人に迷惑をかけたくないという日本人の感性が影響しているのかもしれません。そうした空気から変えていく必要があると感じました。

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