1. NHK
  2. 首都圏ナビ
  3. ひるまえほっと
  4. 牧野博士とめぐる草木の物語 ~植物を愛する人たちを訪ねて~

牧野博士とめぐる草木の物語 ~植物を愛する人たちを訪ねて~

  • 2023年9月6日

牧野博士とめぐる草木の物語。今回訪ねたのは、博士ゆかりの植物の復活を目指す人たちや、博士の思いを受け継ぐ人たち。自らを“草木の精”と名乗り、植物の魅力を知らせてきた牧野博士。その精神は今も人々の心に宿り、育っていました。

博士ゆかりの植物の復活を目指す人たち

ドラマでも登場した「ムジナモ」。2枚貝のような葉でミジンコなどを捕まえて栄養にする、食虫植物です。国内での自生地は限られていて、絶滅が危惧されています。花が咲くのは夏の時期のわずか1時間程。牧野博士は、この花に関する発表で植物学者として世界に知られる存在となりました。

東京・江戸川の河川敷。この場所で、133年前、博士がムジナモを発見しました。大発見のゆかりの場所は、今も地元の保存会の人たちに守られています。
現在ムジナモは、度重なる洪水などでその姿を見ることはできません。江戸川区ムジナモ保存会では、ムジナモの復活を目指し取り組んでいます。そのひとつが里親活動です。講習会を通して、ムジナモを自宅などで栽培する方法を伝えています。ゆくゆくは放流して再びムジナモが自生してくれることを目指しています。

江戸川区ムジナモ保存会会長・中嶋美南子さん

中嶋さん

発見の地にムジナモを戻したい。ムジナモってこういうものだよ、ここで生きていたんだよという証を作りたいという、切なる願いです。

広報担当の江田さんは、小学6年生のときに見たムジナモの企画展で、地元江戸川区と博士の関係を知り、保存会に入会。自宅でもムジナモを育てていて、その栽培の難しさを教えていただきました。まず水温が上がり過ぎないよう毎日冷たい水を加え、水質のチェックも定期的に行っているといいます。ミジンコの数などが増えすぎないよう、マコモやタヌキモなども一緒の水槽で栽培し、バランスのいい環境を作ることも大切だといいます。

高校では仲間をつのってムジナモの栽培に取り組んだ江田さん。その3年間の活動を一冊の本にまとめ、珍しい開花の瞬間も観察。高校卒業後は、ゲームのCGやキャラクターデザインを学ぶ専門学校に通い、得意のデジタル技術を活かし、保存会では広報を担当。ムジナモを多くの人に知ってもらおうと特設サイトを作りました。

江田正孝さん

江田さん

ムジナモを知らない人たちに、ムジナモや私たちの活動を知ってもらえる機会になればいいなという思いで作りました。なんとかこの発見の地に自然にムジナモが育っている環境を目指していきたいです。

牧野イズムを継ぐ 牧野植物同好会

牧野博士は、学問的な成果を上げただけでなく、一般の人たちに植物学を広めることにも生涯力を注ぎました。「植物に親しむことで人生が豊かになる」。その博士の考えを直接受け継ぐのが「牧野植物同好会」です。創設は明治44年。博士が自ら立ち上げ100年以上の歴史をもち、今も140人あまりが在籍しています。
植物好きなら誰でもウエルカム!公園の植物ボランティアや、大学の名誉教授、さらに植物画が得意な園芸講師など。日々、さまざまなメンバーが植物のことを語り合っています。

牧野植物同好会 会長 谷本丈夫(※丈は俗字)さん

谷本さん

牧野先生が考えられた、自然や植物を大切にしていこうという姿勢が、引き継がれていくということが一番大事なことなのかなと思います。いわゆる富太郎2世あるいは3世、同じようなDNAというか思いをもっておられる方々の集まりといえると思います。

北住拓也さん

その牧野イズムを受け継いでいる、会員のひとりを訪ねました。北住拓也さんです。個人宅の庭や、公園などの植物の管理をする仕事をしています。もともと都内の生花店で働いていて、ふらっと立ち寄った古本屋で博士の著書と巡り合い、より深く植物と関わりたいと思うようになったといいます。

北住さん

植物っていう「もの」としてしか見ていなかったような、何か限界のようなものを感じていた。花を咲かせて実を付けて子孫を残していくという、植物の当たり前のことに気付かされたというのが、牧野先生から学んだことのひとつと思います。

その後、今の仕事をしていくなかで、博士の本の中に書かれていた大切にしている教えがあるといいます。「実地につく」ということです。

 

実地って現場っていう意味でもあるんですが、場所によって、変わっていくものに対して植物もだんだん成長していくとか。それに合わせて実地を見ながら自分で考えながら作業をしていきたいと思ったりしています。

庭にある千両と万両は、実生(みしょう)といって、鳥のフンなどの中に混ざっていた種から大きくなったもの。北住さんは、庭に手を入れる前によく観察してから、自然に発芽している植物はできる限り生かしています。これからも、実地につくという教えを心に留めながら、ひとつひとつの植物に関わっていきたいと話していました。

博士が3年在籍した場所に残るもの 千葉大学園芸学部

研究者としては長らく不遇だった牧野博士。大学で教べんをとるようになったのは50近くになってからでした。かつて博士が教べんをとった、千葉大学園芸学部です。図書館にのこされている博士の貴重な資料を見せてもらいました。

園芸学部の沿革史です。大学の前身となる千葉県立園芸専門学校だった当時、明治44年から約3年、講師として植物分類学を教えていました。

講義録などは残されていませんが、在籍中に博士が出版したものがあります。「植物学講義」です。7巻刊行され、植物の分類や貯蔵の方法、記載の仕方など、博士の研究のノウハウがあますところなく記されています。

千葉大学附属図書館松戸分館長 小林達明教授

小林教授

牧野先生が学校で講義をするというのは初めてですので、ちょうど博士が考えていたことをまとめて出したんだろうと思います。

博士がいた時代から100年以上たち、学生たちは広々とした恵まれた環境で研究に打ち込んでいます。
この図書館ならではの特徴が、このほうきと新聞紙。植物についた土や虫などが資料をいためる可能性があるため、植物の持ち込みを制限するところがほとんどですが、ここはOK!じっくり観察しながら調べられるようになっています。

 

ここは園芸学部の図書館ということで、植物を直接持ち込んでいいと。そのために、テーブルの上に植物を置くわけにはいかないので新聞をひいてもらって、学生が観察できるようになっています。

森小百合さん

環境は変わっても、研究者たちが日夜汗を流す姿は牧野博士の時代と変わりません。
大学院の1年生、森小百合さんです。幼少期から植物が大好きで、花の可能性を追求したいと研究の道に進みました。調べているのは、ダリアの花べんではなく、少し赤みがかった「茎と葉」の部分。色彩に特徴のある茎や葉をもつ植物のことを「カラーリーフプランツ」といいます。

森さん

着色した茎や葉っぱは、花が咲かない時期でも楽しめると思います。それに関する、実験や研究はあまりされていなかったので、このダリアを実験材料として、カラーリーフプランツの研究を行っています。

研究室の中を特別に見せていただきました。森さんは、ダリアの葉や茎の遺伝子を抽出したものを分析して、葉や茎に蓄積する赤い色素の構造や、色素が蓄積するメカニズムを探っています。研究に取り組みはじめて丸2年。植物の管理から緻密なデータの計算など、くじけそうになることもあるといいますが、牧野博士の存在が励みになっているといいます。

 

毎日暑い日も寒い日も、植物管理しなきゃいけなくて、好きだけじゃ無理だなと思うところもあって。でも牧野博士は、長年研究していたけれどずっと植物が好きで、そういう純粋な心を持っていました。私も最初の気持ちを忘れずにこれからも実験して、もっと園芸のすばらしさを広めていけたら、いつかできたらと思っています。

 

【編集後記】

千葉大学園芸学部の図書館では植物を持ち込んでいいという特徴がありましたが、他にも学生思いのうらやましい設備が整っていました。大きな専門書もストレスなく広げられる奥行きのある学習スペース。大きな窓からは、大学の緑豊かな庭を眺めることができます。私は居心地がよく眠りこけてしまいそうですが、ずっと長居したいと思える空間です。さらに、壁一面にあるホワイトボードを使ってグループワークも出来たりと、植物をより深く知るための工夫がちりばめられていまいた。
小林教授は、入学した学生たちに「友達作りと共に、植物とも友達になろう」と伝えているそうです。
「今日元気にしてる?そんな感覚で、自然の中からいろんなことを気付く学生が育ってほしい」という言葉が印象的でした。未来ある学生たちの活躍が楽しみです!

取材担当:髙橋香央里

ページトップに戻る