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中江有里「それ、おいくらですか?」数字について考える4冊

  • 2023年7月3日

相談料290円で謎の男が料理を手に悩みを聞く不思議な物語。
トンデモ精神科医が主人公、直木賞受賞のシリーズ17年ぶりの最新刊。
40歳を過ぎても「大人になりたい」と願うエッセー集。
客観性・数値への過度な信用に疑問を呈する1冊。
値段、視聴率、年齢、エビデンス…数値化できない人の心を考える4冊をご紹介。

【番組で紹介した本】

『寂しさから290円儲ける方法』
著者:ドリアン助川
出版社:産業編集センター

相談料290円で悩みを抱える人の話を聞き、おたすけ料理をこしらえて解決に導く謎の男が主人公の連作短編小説。
男の目的は?290円という金額にはどんな意味があるのか?…多種多様な人の悩みに人間模様を見る、ちょっと不思議な物語。

Yuri’s Point
謎の男「麦わら」さんは、気持ちが明るくなる「麦わら料理」をこしらえて相談者に会いに行く。一緒に食べる時間を過ごすことで、相談者も“この人は自分に真剣に向き合ってくれている”という気持ちになるのだと思う。
私たちはそれぞれ、自分が主人公の物語を生きている。不条理なことが多い世の中で、生きる意味=自分だけの物語を見出すことで、何とか生きていけると思う。

『コメンテーター』
著者:奥田英朗
出版社:文藝春秋

Yuri’s Point
直木賞を受賞した『空中ブランコ』を含む精神科医伊良部一郎シリーズ、17年ぶりの短編集。
主人公の伊良部をはじめ登場人物は皆、強烈なキャラクター。表題作『コメンテーター』は、ワイドショーの低視聴率に悩むテレビ局員が、伊良部医師と看護師まゆみをコメンテーターとして起用しすぐに視聴率があがるが、過激な伊良部の発言に苦情が殺到する。
批判覚悟で視聴率アップを望むか?視聴率はそこそこで視聴者に気持ちに沿う番組を作るか?一喜一憂するスタッフに伊良部がかけた言葉とは?
ほかに、株を売買するトレーダーの心の病を描いた『うっかり億万長者』など、数字への強迫観念に悩む人々を伊良部が救う姿が、くせになる1冊。

『40歳だけど大人になりたい』
著者:王谷晶
発行:平凡社

Yuri’s Point
40歳を過ぎた著者が「大人になりたい」と願いながら、大人とは何か考えるエッセー集。
体の衰えやお金の不安など昔は知らなかった中年の現実の中、はたして自分は真の意味で大人になったのかと悩む。法的に成人とされる年齢をずいぶん前に過ぎても「自分は大人だ」と胸を張って言えないのは、昔と変わらない自分がいるから。
大人らしい趣味とは何かについて考えたり、同世代と会うと話題に上がるのは健康問題という話など「あるある」と苦笑しながら読み、私自身にも「大人になりたい」と思う気持ちがあることに気づいた。

『客観性の落とし穴』
著者:村上靖彦
出版社:筑摩書房

「エビデンスはあるんですか」「数字で示してもらえますか」「その意見って、客観的なものですか」
客観性と数値を過度に信用している学生の姿に疑問を抱いた著者がその原因を探り、失われたものを明らかにする1冊。

Yuri’s Point
著者は、困窮した当事者や、サポートする支援者の語りを聞き取り分析する専門家。世の中が客観性・エビデンスを重視するあまり、見落とされる個人の事情や心の在り方、経験があるだろうと思う。
一人ひとりの声を聞くことで、困難の中に居る人や、病気などに苦しむ人たちも尊重することができると著者は言う。
どんな人でも幸せを感じられる社会が理想だと思う。私たちの心や経験は、数字では表せない。

 

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7月3日に「ひるまえほっと」で放送。
NHKプラスはこちらから(放送から1週間ご視聴いただけます)


【案内人】
☆俳優・作家・歌手 中江有里さん

1973年大阪生まれ。1989年芸能界デビュー。
数多くのTVドラマ、映画に出演。02年「納豆ウドン」で第23回「NHK大阪ラジオドラマ脚本懸賞」で最高賞受賞。NHK-BS『週刊ブックレビュー』で長年司会を務めた。NHK朝の連続テレビ小説『走らんか!』ヒロイン、映画『学校』、『風の歌が聴きたい』などに出演。
近著に『万葉と沙羅』(文藝春秋)、『残りものには、過去がある』(新潮文庫)、『水の月』(潮出版社)など。
文化庁文化審議会委員。2019年より歌手活動再開。

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