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宮部みゆきが俳句を物語に!阪神ファン必読短歌など 中江有里書評

  • 2023年5月8日

若松英輔が若い世代に語る、影響を受けた本や言葉。
副詞は、コミュニケーション向上の鍵。
宮部みゆきが俳句を題材に想像力を広げた短編集。
阪神ファンがシーズン中詠み続けた、愛という名の短歌。
おもい、技巧、想像力、愛は、言葉に翼を授ける。そんな4冊をご紹介。

【番組で紹介した本】

『読み終わらない本』
著者:若松英輔
出版社:KADOKAWA

Yuri’s Point
批評家・随筆家の著者が「五十歳を過ぎたあたりから、かつて自分がしてもらったように若い人に、自分が受け取ってきたものを少しずつ手渡していかなくてはならないと強く感じるようになった。」との思いから、影響を受けた本や言葉を長い手紙のように優しくつづるエッセイ集。

「書くことで自分のおもいを知る」と著者は語る。文章を書いてみて初めて自分が何を感じたのか知るのだ。「おもい」という言葉には10通りの漢字があり、同じ音でも、頭で考える「思う」や、見えないものを感じる「想う」など、意味が微妙に違ってくる。
作者のおもいを受け止めることが、真に読むということにつながると思う。本は最後まで読んだあとも自分の中で何度も何度もくりかえす。読み終わらない本の醍醐味がここにある。

『コミュ力は「副詞」で決まる』
著者:石黒圭
出版社:光文社

Yuri’s Point
文法の「副詞」についてのユニークな解説本。「副詞」と言われても地味でわかりにくいイメージを持たれているかもしれないが、実は「副詞」ほど話し手のものの見方、先入観があらわれる品詞はないかもしれない。

「すこぶる」「たちまち」「めっちゃ」「ぶっちゃけ」これらは全部副詞。なくても文章は成立するが、なければ話し手の気持ちが伝わりにくい。
コミュニケーション向上の鍵となる副詞。その使い方の勘所、世の中で、どんなふうに副詞が使われているのかを知ると、現代社会が見えてくる。

『ぼんぼん彩句』
著者:宮部みゆき
発行:角川文化振興財団

宮部みゆきが、自身の俳句仲間が詠んだ作品を題材にし、彩り豊かにつむいだ12の短編集。社会派からホラー、SFに至るまで、あらゆるジャンルに足跡を残してきた著者が、五七五の俳句に詠まれた世界の奥に潜む物語を描き出す。

Yuri’s Point
題材は俳句ではあるが、鑑賞・解釈のための一冊ではない。宮部さんの想像力が言葉の羽になって、一つの物語になっている。タイトルとなっている句を頼りにどんな物語が展開するのか、どの物語もわくわくしながら読めて、さらに想像の上を行く展開が待っている。短編とは思えない内容のボリュームがあって、何冊もの長編小説を読んだような満足感がある1冊。

『野球短歌 さっきまでセ界が全滅したことを私はぜんぜん知らなかった』
著者:池松舞
出版社:ナナロク社

「いつまでたっても阪神が勝たないから、短歌を作ることにしました。」という一文からはじまる、阪神ファンによる短歌集。去年の阪神戦を軸に、野球を愛する苦しさと幸せを短歌に詠み続けた全313首。

Yuri’s Point
この作品は、短歌を読もうと思ったというより、阪神戦を見た思いをつづったら短歌になった、と言うほうが正しいかもしれない。物書きの原点は、このような“あふれ出る感情を文字にして留める”ことなのだと思う。
池松さんにとっての“言葉の羽”は、阪神、野球に対しての愛の力。“好き”という気持ちは、何かに夢中な人たち皆に共通する、上達の近道だと思う。

 

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5月8日に「ひるまえほっと」で放送。
NHKプラスはこちらから(放送から1週間ご視聴いただけます)


【案内人】
☆俳優・作家・歌手 中江有里さん

1973年大阪生まれ。1989年芸能界デビュー。
数多くのTVドラマ、映画に出演。02年「納豆ウドン」で第23回「NHK大阪ラジオドラマ脚本懸賞」で最高賞受賞。NHK-BS『週刊ブックレビュー』で長年司会を務めた。NHK朝の連続テレビ小説『走らんか!』ヒロイン、映画『学校』、『風の歌が聴きたい』などに出演。
近著に『万葉と沙羅』(文藝春秋)、『残りものには、過去がある』(新潮文庫)、『水の月』(潮出版社)など。
文化庁文化審議会委員。2019年より歌手活動再開。

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