各地のすてきな温泉や銭湯を発掘するコーナー「#いいお湯見つけました」。
今回訪ねたのは、千葉市花見川区。住宅街にある、創業100年を超える老舗の銭湯です。
銭湯といえば背景画も楽しみの1つですが、こちらには“ある特別なもの”が描かれているんです。
青空に向かって伸びる一本の松。東日本大震災の津波で流されずに残った岩手県陸前高田市の「奇跡の一本松」です。
こちらの銭湯では震災が起きた2011年から、「奇跡の一本松」を銭湯絵師に依頼して背景画に描いてもらっています。
店主の長沼二三六さんは新潟出身。中越沖地震で実家が被害を受け、たくさんのボランティアに助けられた経験があります。震災後、今度は自分も東北のために何かできることはないかと考え、背景画に描き始めたといいます。
背景画は、陸前高田市から送ってもらったその年の一本松の写真をもとに、毎年のように描き直しています。
橋がかかったり、緑が増えたり、少しずつ変化していく被災地。
長沼さんは完成した背景画を写真に撮って陸前高田市に送り、被災地との交流を続けてきました。
背景画のことを知った陸前高田市の仮設住宅に住む女性からは手紙が届きました。
「子供のころから遊んだり楽しんだ松原です。一本松もありがとうって感謝していると思います」と、ふるさとの景色を描いてくれたことへの感謝の気持ちがつづられていました。
こうした取り組みを知って、銭湯に通い始めたお客さんがいます。
貝塚光彦さん・妙子さん夫婦です。長沼さんの思いに共鳴し、貝塚さんも震災の翌年、被災地に足を運びました。
がれきが残る被災地の現状を目の当たりにした貝塚さん。一日も早い復興を願って、初日の出の一本松を撮影しました。
長沼さんは、貝塚さんの撮った写真を背景画にしました。
「被災地のことを決して忘れない」。朝焼けの一本松に込めた願いです。
向こうの人たちは、二言目には忘れないでくれって言うんだよね
だからそれを忘れないようにするために、一本松の絵をずーっと、男湯に描いたり、女湯に描いたり、消すことなく、いまだに描いてもらっている
一本松が描いてあることによって、こういう会話が進むんですよ。それが応援になるんじゃないかと思う
3月下旬、長沼さんのもとに、陸前高田市役所からことしの「奇跡の一本松」の写真が届きました。
これから背景画の塗り直しの準備がはじまります。
長沼さん
「復興している様子、一歩前に進んでいると分かるような絵にしてもらえれば。もとの陸前高田の町に戻るその日まで頑張ります」
※現在は、女湯に「奇跡の一本松」の背景画があります。
5月10日以降は、男湯に描かれる予定です。