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信号機に“異変”!? 更新先延ばし 撤去 新設見送り 背景には「コスト削減」 千葉の現場から

  • 2024年04月23日

私たちの生活に身近な「信号機」。全国に設置されているのは約20万基にのぼりますが、いま、“異変”が起きています。

各地で撤去が進み、新設の要望が通りにくくなっています。また、更新の目安を超えて運用されるケースも増加しています。

交通安全の「要」と言える信号機に、何が起きているのでしょうか。

(千葉放送局記者・池田侑太郎)

老朽化の信号機 更新を先延ばしに

2024年2月、千葉県市川市の県道の交差点で行われていたのは、信号機を更新する作業です。

古くなった赤・青・黄色の「灯器」や、点灯の調整を行う「制御器」などが新品に取り替えられました。

信号機の「制御器」

この制御器、設置されたのは25年前。しかし、国が故障の確率などから定めている更新目安は「19年」です。5年余り更新を先延ばしして、運用されていました。

作業員

だいたい平均してこれくらいの年数で更新していますね。早急に更新しないといけない所もあると思うんですが…。

なぜ? 更新先延ばしの背景は

千葉県内にある信号機は約8500基。このうち、更新目安の「19年」を超えて運用されているのは、約20%の約1700基にのぼります。

その大きな理由は「コスト削減」です。信号機は、全国の警察が各都道府県の予算で設置・運用を行っています。

千葉県議会

千葉県警は、信号機の維持管理の費用として毎年約40億円を投入しています。これは県警の交通関連の予算の4割ほどを占め、ほかの予算を圧迫しています。

さらに近い将来には、人口減少で税収減も見込まれています。40億円の「ランニングコスト」は大きな課題となっていました。

そうした中で、制御器1台の更新費用は、100~200万円ほどと高額。千葉県警は更新の目安を「24年」に先延ばしして更新頻度を減らし、コストを抑えているのです。

千葉県警察本部 交通規制課 山田靖弘 課長代理

信号機の維持管理の費用は、限られた予算の中で高止まりをしている状況です。

制御器の更新は24年を目安に行っていますが、毎年点検を行い、不具合があればすぐに修理を行うなど、安全管理は徹底しています。

更新の先延ばしは、同様の課題を抱える各地に広がっています。

警察庁のまとめでは、全国の信号機のうち約24%が「19年」を超えて運用されているということです。

信号機の撤去・新設難航も

信号機の「ランニングコスト」の問題は、さらなる影響を及ぼしています。

千葉市中央区亥鼻の県道では、2年余り前、道路の拡幅工事にあわせて信号機と横断歩道が撤去されました。

近くに別の信号機があり、地元説明を行って合意を得ているということですが、大学や中学校のそばで歩行者も多く、住民からは困惑の声も出ています。

近隣住民

道路の拡幅とセットだったので、やむをえないと思っていましたが、中学生が信号機が撤去されたところを渡ってくることもあり、少し危ないと感じています。

さらに、信号機の新設はより難しくなっています。

柏市逆井にある小学校の通学路では、PTAが交差点への信号機の設置を繰り返し要望しています。

交差点は多くの車が通り、事故が後を絶ちませんが、県警から設置は難しいと回答を受けています。

PTA会長

地域のボランティアの見守り活動で、何とか子どもの事故は避けられていますが、死亡事故が起きてからでは遅いです。

印西市竜腹寺の交差点は、2023年に死亡事故が発生しました。

地区として県警と市に信号機設置の要望書を提出しましたが、設置の動きはなく、設置できない理由も知らされていないということです。

地区長

地区にとってなくてはならない道路で、これ以上、事故は起きないでほしいです。地区の交通安全を願って、信号機の設置を強く要望します。

千葉県内で出される信号機の新設要望は、年間300件ほど。一方で、新設されるのは年間10基程度にとどまっています。

撤去・新設の判断基準は?

信号機の撤去や新設は、どのように判断されているのか。

警察庁は、基準となる「信号機設置の指針」を2015年にまとめ、全国の警察に通知しています。

「信号機設置の指針」

この中では、次のような設置条件が掲げられています。

▼1時間あたりの車の交通量が300台以上あること

▼隣の信号機との距離が150m以上離れていること

▼歩行者が安全に信号待ちできるスペースが確保されていること

警察庁は各地で更新の先延ばしが広まっている実態を受け、5年前、「指針」に基づいて信号機の必要性を改めて点検するよう全国の警察に指示。

必要性の低いものは撤去するなど、信号機全体の再編を進める方針を示しました。

全国の警察への通達文(2019年)

千葉県内では、5年間で115基の信号機が必要性が低いと判断され、このうち38基がすでに撤去されたということです。

一方で、県内では人口が増加している地域などで、5年間で91基が新設。

新設される信号機

統合なども含めると、結果的に総数は47基も増加。維持管理の「ランニングコスト」は増える傾向になっています。

千葉県警交通規制課 山田課長代理

信号機を撤去する場合は、地元の合意や調整が必要になりますが、これには時間がかかり、思うように進んでいません。必要なところには新設も行っていますので、総数の抑制にはつながっていないのが現状です。

信号機の整備にあたっては、必要性を十分に見極め、「信号機によらない安全対策」も含めて、環境に応じた適切な安全対策を進めていくことが、重要と考えています。

「信号機なし」 どう守る?交通安全

信号機の再編が求められる中、各地の警察が強化しているのが「信号機によらない安全対策」です。

千葉県市原市ちはら台の小学校の通学路には、2023年2月、「スムーズ横断歩道」という特殊な横断歩道が設置されました。

「スムーズ横断歩道」は、ドライバーに減速や一時停止を促すため、横断歩道の路面が歩道と同じ高さに盛り上がっているほか、周辺は注意を促すように色づけされています。

この現場では3年前、小学生が亡くなる交通事故がありました。

地元の自治会は信号機の設置を要望。しかし、交通量が基準に満たないとして実現しませんでした。

地元からの要望書

そこで、市原市が代わりに「スムーズ横断歩道」の設置を提案し、地元が受け入れたということです。

自治会連合会 会長

本当は信号機を設置してもらえれば一番いいのですが、しかたないと思っています。この設備もある程度、効果はあると思うので、信号機の設置を何年も待つよりはいいと思っています。

「信号機によらない安全対策」は、さまざまな形で各地に導入されています。環状交差点の「ラウンドアバウト」や…。

滋賀県に設置された「ラウンドアバウト」
(NHKニュースより)

道幅の広い道路を渡る横断歩道の途中に、待機場所を設けて少しずつ渡ってもらう「二段階横断歩道」などです。

二段階横断歩道のイメージ
(国土交通省のホームページより)

これらの対策は維持管理の費用がほとんどかからないため、長期的に見ると信号機よりコストを抑えられます。

しかし、道路工事が必要で道路を管理する機関の協力が欠かせません。また、道路の交通量や交差点の形などによっては、設置が難しいケースもあるなど課題もあります。

専門家「最適な安全対策を」

交通政策に詳しい専門家は、それぞれの現場に最適な安全対策を検討し、導入していくことの必要性を指摘しています。

埼玉大学 久保田尚 名誉教授

以前は交通事故などが発生すると、まずは「信号機を設置しよう」となっていたが、もしかすると信号機以外の安全対策の方がよかったと思われる場所もあります。こうした所で信号機を撤去し、ほかの対策を導入するのが安全対策としても合理的で、結果的に設置数が減ってコスト削減にもつながると思います。

交通量の多い交差点などでは、信号機は安全対策として欠かせません。対策にはそれぞれ得意分野があるので、「信号機によらない対策」の認知度を高めていくとともに、地域の交通の課題に対して警察や道路管理者、住民が話し合い、何が必要なのか考えていく必要があると思います。

取材後記

かつて、信号機は増える一方でした。マイカーが普及し、交通事故が増える中で、各地に次々と信号機が作られましたが、撤去の基準が明確に示されていませんでした。

しかし、人口減少の時代に入って自治体の財政が厳しくなる見通しの中では、交通安全の予算も聖域とは言えない状況です。いまこそ選択と集中を行い、持続可能な信号機のあり方を考えていく必要が出てきていると感じました。

 

「NHKニュース おはよう日本」での放送内容は、「NHKプラス」で5月1日(水)午前7時45分まで配信しています。

  • 池田侑太郎

    千葉放送局記者

    池田侑太郎

    2022年入局。警察取材を主に担当。歩行者用の信号機を人生で初めて持ちましたが、想像以上に重かったです。

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