「人生のしまい方」について考えるシリーズ。今回のテーマは「遺骨」です。
誰かが亡くなれば、多くの場合は親族が葬儀を行って火葬し、遺骨をお墓に納めます。しかしいま、身寄りのない人や親族が関わりを拒否した人を行政が代わりに火葬し、引き取り手のない遺骨として保管されているケースが目立っています。
単身世帯や高齢者が増えるなか、これまで親族が担ってきた火葬や弔いのあり方に、変化が現れています。
(千葉放送局記者 木原規衣)
千葉県内にある寺です。 東京都内などの自治体から、引き取り手のない遺骨を預かっています。2019年から預かりはじめ、これまでにその数は500を超えました。屋上倉庫や和室、押し入れなどにいっぱいに並べられ、積み上げられています。
預かる遺骨の数が年々増えています。ご覧の通り、和室はいっぱいになりつつあるので、とても心苦しいです。今はこのような形でしかお預かりできない状況なのです。
多くは身寄りのない人や、親族が関わりを拒否した人のもので、行政が火葬した遺骨です。
毎月、無縁遺骨の前でお経を上げて弔っています。
死後このように安置される身になると想像して生活していた人は、おそらく誰一人としていないのではないかと思います。
誰しも無縁遺骨になりたくてなるわけではないので、私が手を合わせる皆様は私自身の姿でもあると感じます。
ご家族に守ってもらうのが理想なのかもしれませんが、その理想からこぼれ落ちた方々が寂しい思いをしないように努めていくのが、私たちの務め、お寺の役割なのかなという実感です。
いま首都圏では、1人暮らしの高齢者などが亡くなったあと、火葬をする親族が見つからず、代わりに自治体が火葬するケースが増えています。
千葉県市川市の斎場。この日、病院で亡くなった身寄りのない高齢者の遺体が運び込まれました。葬儀はせず、市の職員が立ち会ってそのまま火葬します。
市川市では、火葬後の遺骨は市内の倉庫などに保管しています。
市が保管している遺骨は160以上。数年間、置かれたままのものもあるといいます。
本来であれば、家族や親族に見送られて旅立たれるのが一番だとは思っています。自分たち職員しか見送り手がいないなかで、精いっぱいできることをしてあげたいなという思いで行っています。
引き取り手のない遺骨となるケースは、1人暮らしや夫婦のみの高齢者が多いといいます。市では、遺体を火葬したあと、故人の子どもや兄弟などの戸籍を調査。遺骨の引き取りを依頼する手紙を複数回送りますが、返信がなく連絡がとれないケースや、親族が関わりを拒否し引き取り手が見つからないケースもあるといいます。
連絡が取れても引き取られない理由は、まず、何十年も会ってないなど疎遠であることです。また、経済的な理由で引き取っても入れるお墓がないとか埋葬費用がないというケースもあります。ふだんつきあいがあってもお金がないとか、あるいは親族自身も高齢で、遠くにお墓があるものの行けないので入れられないとか、そういう物理的な理由も最近多いです。
2022年1月に亡くなった70代の1人暮らしの男性のケースでは、兄弟や親族9人に連絡を取りました。しかし、高齢で遠方に住んでいることや、疎遠であることを理由に引き取られず、遺骨はいまも市が保管しています。
市の社会福祉協議会はこうした無縁の遺骨を弔う法要を毎年1回行っています。この日、弔ったのは、34人。名前がわかる人は、全員の名前を読み上げます。
市川市では、5年間保管された遺骨は他の遺骨と一緒にまとめられて、市内の霊園にある「無縁の碑」に納められ、二度と取り出すことはできません。
「お骨を引き取っても、入れるお墓もない」という状況も増えていますので、従来の日本人の弔いのシステムが崩壊しつつあるという感じは受けています。今のままではおそらく増えていく一方かなと感じています。
NHKはことし1月から2月にかけて、東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県の人口10万人以上の93の区と市に、火葬についてのアンケート調査を行いました。
調査では、
①行き倒れなど、身元がわからないまま亡くなった「行旅死亡人」のケース
②身元はわかっているものの、火葬をする親族がいない、または親族が引き取りを拒否しているなどの理由で代わりに自治体が火葬する「墓地埋葬法」を適用したケース
③生活保護法の「葬祭扶助」を適用して火葬したケース
の3つについて、2018年度から2022年度まで自治体が費用を出して火葬を行った件数を聞きました。件数には、のちに遺骨の引き取り手が見つかったケースも含まれます。
集計していない、抽出できないなどの理由で回答がなかった自治体もありましたが、95%以上にあたる89の区と市から回答を得ました。 その結果です。
自治体が火葬した件数
2022年度 :2万1227件
2021年度 :1万8914件
2020年度 :1万8643件
2019年度 :1万7308件
2018年度 :1万7058件
件数は年々増加していて、2022年度は初めて2万件を超えています。この2022年度で見ると、回答のあった区と市で亡くなった人のうち6.7%、およそ15人に1人が、家族・親族ではなく自治体によって火葬されたことになります。
都県別に見ると、以下のようになります。
都県別の火葬件数(2022年度)
▼東京都は39自治体で1万827件(死者数の8.3%)
▼神奈川県は14自治体で5677件(死者数の6.9%)
▼埼玉県は19自治体で2143件(死者数の4.1%)
▼千葉県は17自治体で2580件(死者数の4.9%)
また、ケースの内訳については、生活保護の「葬祭扶助」が最も多く8割以上を占めていました。
さらに、遺骨の引き取り手がなく、自治体が保管した数も尋ねました。集計がなく回答できない自治体が多くを占めましたが、回答のあった横浜市の数字を例にみてみます。
引き取り手のない遺骨の数(横浜市)
2022年度 :1659件 火葬2762件
2021年度 :1533件 火葬2409件
2020年度 :1326件 火葬2355件
2019年度 :1332件 火葬2268件
2018年度 :1244件 火葬2225件
横浜市が保管している遺骨には、火葬代は故人の遺留金でまかない、遺骨だけ保管するケースも含まれていますが、公費で火葬した遺骨の半分以上はそのまま市が預かっていて、その数は年々増加していることがわかりました。
行政による火葬の状況に詳しい専門家は。
家族や親族が埋葬することが難しく行政が対応せざるをえないケースが増えている。家族間の関係の希薄化や経済的な負担が少なくなく、埋葬することが難しい人も増えていて、今後も増加が予想される。生活保護に代わる公的な制度を整備することも必要になるのではないか。
年々増える「自治体による火葬」、そして「引き取り手のない遺骨」。これまでの「親族による弔い」が成り立たなくなりつつある今、それを誰が担うべきなのか、問われる時代になっています。
「人生のしまい方 あなたは」のシリーズでは、今後も「弔い」のあり方について考えていきます。亡くなった人の弔いや、お墓などについてのみなさんの体験や意見、悩みなどをぜひこちらまでお寄せください。
取材先の市の職員から、「引き取り手のない遺骨が増えている」という話を聞いてから、半年あまり取材してきました。そのなかでさまざまな第三者による弔いの現場を見てきました。
関係者のご厚意で、あるとき、生活保護を受給して亡くなった男性の葬儀を第三者が行う「福祉葬」に参列しました。少人数で寂しく営まれる様子を想像していましたが、実際は、温かく丁寧な弔いがありました。故人を長年世話をしてきた介護施設の職員と死後事務を引き受ける司法書士に囲まれ、30分ほどお経があげられたあと、棺に思い出の写真や洋服、花が入れられました。見送る人は親族ではなくても、故人が周囲の人に慕われていたことが実感できました。
「無縁遺骨」として保管されている遺骨の中には、生前孤立していた人ばかりではなく、周囲の人とのつながりがあり、血縁だけが薄かった人もいると思います。そうした人が、親族が引き取らないだけで誰にも弔われないままでいいのか。やむをえず親族の代わりに葬送を担っている第三者は、こうした弔いのあり方に課題を感じている人もいます。高齢化・核家族化で今後もこうした人が増えるおそれがあるなか、死後の弔いを誰が、そしてどのように担っていくべきか、考えていく必要があると思います。