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能登半島地震 千葉から現地入りの救急医「ニーズ増え長期戦に」

  • 2024年01月11日

能登半島地震を受けて、千葉県内の自治体や医療機関、国の出先機関などからたくさんの人たちが支援に入っています。

このうち、印西市にある日本医科大学千葉北総病院は、災害派遣医療チーム(DMAT)のメンバーが1月4日から石川県の県庁や県立中央病院に入り、患者の搬送調整にあたっています。

メンバーの医師は、被災地の病院や高齢者施設では電力や水、マンパワーの不足が目立ち、多くの患者を被災地の外に移動させる必要があるとして、「時間がたつのに医療ニーズはむしろ増え、長期での対応が必要だ」と訴えています。

(千葉放送局記者・金子ひとみ)

石川県庁に千葉県のDMATも参集

能登半島地震を受け、石川県庁11階に設置されたDMAT(災害派遣医療チーム)調整本部。全国各地から、たくさんの医療スタッフが集まっています。

印西市にある日本医科大学千葉北総病院も、1月4日から、医師、看護師、事務担当者で構成されるチームをこの拠点に派遣していて、救命救急センターの本村友一医師(46)は、第2陣として1月7日から石川県入りしています。

本村友一医師

ふだんは、空飛ぶ救急医「フライトドクター」として、ドクターヘリに乗り込んで時間と戦いながら重症者などの治療にあたっている本村医師。災害対応の経験が豊富で、東日本大震災や熊本地震でもドクターヘリの運用に携わってきました。

千葉での飛行の様子(画像提供:日本医科大学千葉北総病院)

しかし、今回の能登半島地震では、ドクターヘリが思うように運用できないといいます。

本村友一 医師

僕は災害時、ドクターヘリを中心とした空路搬送の指揮をとることが多いんですけれども、今回は、能登半島の先端ならではの悪天候が続き、非常に空路が使いにくくて難しいです。雲の合間を縫って、ドクターヘリが飛んでいますが、飛べない時間も多いです。

土砂崩れなどで陸路で搬送できず、空から向かうしかない中で、悪天候でアクセスできない。医療者を投入するにしても患者を搬出するにしてもかなり困難で、地形的な問題と、季節とか気候の問題が非常に医療介入を難しくしているというのが率直な感想です。

悪天候でも飛びやすいヘリを持つ自衛隊や消防との連携

千葉県にいるときと同じようにはドクターヘリを飛ばすことができない中、重要になってくるのは、悪天候の時に飛行しやすいヘリコプターを運用する自衛隊や消防との連携です。

石川県立中央病院屋上に発着するドクターヘリ
本村友一 医師

ドクターヘリは「有視界飛行方式」と言われ、パイロットが目視によって飛ばないといけないという決まりがあるんですけども、自衛隊ヘリや消防防災ヘリは「計器飛行方式」で、レーダーとか計測器のデータをもとに飛行でき、悪天候とか暗い時、夜間などでも飛行しやすいという特徴があります。われわれのニーズとか困りごとを地図に落としながら彼らに見ていただいて、直接顔を見て訴える、その役割のために僕は今、県庁にいる感じです。

1月9日も朝7時半ごろに、被災地からの搬送について、やりとりしていました。

本村医師「2回飛ばしてもらえたら、いったんこの病院で必要な患者さんの搬送は落ち着く見込みです。ただ、病院には、患者さんが毎日次々と来ていますので、いったんいなくなっても次々来ます」

陸上自衛隊の担当者「この地図上の90+50というのはどういうことですか?」

本村医師「福祉施設が2つあって、あわせて140人の方がいます。そのうち40人を出してもらえたら、今、残っている職員でとりあえずは回せるということなんです」

この日は、曇天の合間を縫って、自衛隊の大型ヘリコプター「CH47」や、消防防災ヘリコプター、ドクターヘリがそれぞれ2~3フライトして空路で40人あまり、救急車を使った陸路で60人近くを搬送したということです。

福祉施設からの大量搬送のニーズが

本村医師は、この2~3日は、ほかの災害ではなかなか例のない調整が求められていると言います。福祉施設から一度に多くの入所者を搬送したいというニーズへの対応です。

本村友一 医師

職員さんが被災している福祉施設が運営を継続できるように、スタッフを送り込んでいますが、アクセスが悪いがゆえに追いついていません。それに、今も電力や水の供給が十分ではない環境では、地震ではけがをしなかった高齢者の方の命に直結する状況になりかねません

緊急性の高い重傷のけがの患者さんというわけではなく、施設の負担を減らすために大人数を一緒に運ぶための搬送のニーズがあり、100人、200人という単位で出さないといけないというミッションに日々ずっと追われています。

病院から病院への患者搬送とは違い、入所者の介護の程度や家族の有無、本人の意思なども踏まえて搬送先を決める必要があるなど、調整しなくてはならない項目が多く、介護関係の専門家も交えながら対応しているということです。

本村医師

ご本人やご家族が遠方への搬送を望まないケースもあって、僕らのいつもの搬送イメージとは違うので、ケアマネージャーさんたちのサポートを得て、施設ごとの受け入れマッチング作業をオンラインで行ってもらったりしています。

石川県外の場合、施設にいきなり受け入れてもらうことは難しくて、病院で受けてほしいと依頼するんですが、受け入れる病院側にも事情がありますから、「なんとか助けてほしい」と理解を得るためのお願いをしたりしています。

本村医師一問一答「長期戦を予想」

Q.これまでの災害時とは少し違った対応をしていることについてどう思っていますか?

本村友一 医師

災害の時はいろんなニーズがありますから、自分の専門はここだけだからそれ以外やれないよみたいなことでは役に立てないので、応援に入ったからにはあらゆるニーズに寄りそっていかないといけないですね。

急いでヘリを飛ばすというのはかなり特殊ミッションで、スピード感覚をもって交渉するために僕たちはまず入るんですけれども、入ってみたら「それよりこっちの方が大事だよ」ということや、午前と午後で優先順位が変わるようなことはよくありますね。

Q.地震の発生から9日たちますが、現地の状況をどうみていますか?(※取材日1/9時点)

本村医師

9日たっても停電している施設があって、電源車や燃料の投入が十分追いついていない。暖かいところで水や食料があれば暮らせた方々が、医療が必要な状態になっている。これだけ時間がたつのにいまだにニーズが減らない、むしろ増えているという状態ですね。

完全に長期戦を予想していて、僕らは6泊7日でこちらに入っているんですけど、僕たちの次の隊と次の次の隊まで準備をしています。かなり長期になるという感じです。

陸も空も難しい中で、海路も検討しましたが、それも簡単ではないことがわかりました。いろいろ方法を考えても行きたいところに行けないっていうことが続いているのはもどかしいです。

Q.今後、どのような点のケアが必要でしょうか?

本村医師

避難所でしょうね。災害発生時は通常、病院第一、次が施設、次が避難所という優先順位で数日で見ていけますが、今回はまだ避難所まで目が行き届かない状態です。最初の難を逃れて避難所まで到達した方々が、その後、2次被害で亡くなるのは避けなくてはならない

全国から医療チームが集まってやれることはやっているんですが、追いついておらず、人員を増員するしかないのではないかとも思っています。

Q.千葉県に住む私たちが、今できることはありますか?

本村医師

僕たちDMATや消防、警察は「公助」として被災地に向かいますが、これで助けられるのは正直、ごくわずかで、「くもの糸で人を救う」ぐらいのイメージなんです。

やはり、すべての方が「自助」として、自分の身は自分で守る、家族と助け合うことをやらなくてはならないです。倒れた本棚に挟まれて動けなくなって亡くなるケースがありますが、それは、倒れないように家具を固定する、寝る場所を工夫するとかで予防できるかもしれません。ガラスが割れたとしてもスリッパがあれば、すぐに出られるかもしれません。そういった自分や家族を守るすべは身につけていただきたいなと思います。

「首都圏ネットワーク」での放送内容は、1月17日午後6時半まで「NHKプラス」でご覧いただけます。

※記事中の写真は、記載のあるものを除き、災害派遣医療チームからの提供

  • 金子ひとみ

    千葉放送局 記者

    金子ひとみ

    大変な状況の中で取材対応してくださった本村医師と日医大北総病院に感謝します。

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