「グループラインに入れない」「バイトの採用条件になっていた」ーーー。
スマホを持ちたくても持てない高校生の声です。
今や高校生でも持っているのが当たり前のスマホ。
しかし、児童養護施設の高校生たちはそうではありません。
何が起きているのでしょうか。
(千葉放送局 荻原芽生)
関東地方にある自立援助ホーム。虐待などを理由に家庭で暮らせなくなった子どもたちが自立を目指して共同で生活しています。
その1人、高校2年生の岩橋さん(仮名)は、スマートフォンを持つことができず、クラスで疎外感を感じたことがありました。
クラスでスマホを持っていないのは自分1人。ちょうど新学期の頃にスマホを持っていなかったことから、いまでもクラスのグループラインに入っていません。
岩橋さんは友人からスマホを持っていない理由を聞かれても、「壊れている」などと本当のことを打ち明けられませんでした。
みんなが当たり前のようにラインを交換しているのに、自分だけついていけなかった。すごく悲しくて、どうしたらいいのだろうって悩みました。
さらに、授業で戸惑うこともありました。単語などを自分のスマホを使って調べる課題がたびたび出されましたが、自分だけついて行くことができなかったといいます。
スマホ所持率 同じ高校生でも大きな差
内閣府が2022年に行った調査によりますと、高校生のスマホの所持率は98%(インターネットを利用する高校生のうち、自分専用のスマホを持っていると答えた割合)。これに対し、千葉県にあるNPO法人が2019年、児童養護施設で暮らす高校生を対象に行った調査ではスマホの所持率は69%、約30%がスマホを持ちたくても持てないという結果でした。こうした高校生は岩崎さんと同じ境遇に直面している可能性があります。
施設で暮らす高校生がスマホを持つことは、そう簡単ではありません。
未成年のため、通信会社との契約には保証人が必要ですが、親を頼れない子どもも少なくありません。このため、料金の支払いを含めて施設に頼らざるを得ないのです。
ところが、その施設は保証人になることはできても、料金を支払う余裕がないのが実情です。
施設は国から支給される「措置費」で子どもたちの衣食住をまかなっています。
岩崎さんが暮らす施設によると、岩橋さんに支給される生活費はわずか月5万円あまり。
施設の河合奈緒美ホーム長は、やりくりをしても、数千円のスマホ代を負担することは難しいと言います。
ほとんどあまることはないです。足りないくらいです。支給される措置費の中から携帯電話のお金を捻出するのはとても厳しい。スマホを持たせてあげたいけれど、持たせてあげられないというのが現状です。
施設によると、高校生の中にはスマホを持つため、アルバイトをしたり、支給される児童手当を取り崩したり、四苦八苦しているということです。スマホがないと学校生活などでさみしい思いをすることがわかるだけに、反対はできないといいます。しかし、本音は少し違うようです。施設の子どもたちは、原則20歳になれば、施設を出て自力で生活していかなければならず、施設にいる今のうちに少しでも蓄えを作ってほしいと願っているというのです。スマホ代のためにアルバイトをしなければならない今の状況は好ましいとは言えないということです。
こうした中、支援しようという取り組みも始まっています。千葉県香取市にあるNPO法人「スマホ里親ドットネット」です。
全国の児童養護施設などで暮らす中学生や高校生に3年前からスマホを無償で貸し出し、月々の料金の支払いも全額援助しています。
現在は、施設から申し込みのあった33人の中高生に貸し出しています。
岩橋さんも施設からNPOの紹介を受け、ことし5月にようやくスマホを持つことができました。
友人とのコミュニケーションもスムーズになり、授業にも前向きに取り組めるようになったといいます。今では英語を話せるようになりたいという目標もあり、スマホの学習アプリなどを使って勉強をしています。
いろいろな人と知り合い、やりとりする機会の幅が広がりました。スマホがあると人生が変わるんだなと実感しました。
スマホを持つためにアルバイトをして、部活を諦めたり、進学を諦めたりする生徒がいるのではないかと思っています。スマホを持ちたいという気持ちを叶えてあげたいなと思っています。でも、本当は国が支援をして私たちのような取り組みがなくなるのが理想です。
全国児童養護施設協会などによりますと、こうした支援は珍しく、全国でも数は少ないとみられるということです。
また、活動資金も課題になっています。スマホの無償貸し出しを行うNPO法人では年間180万円の活動資金を寄付でまかなっています。話を聞くと、「5年目となる来年以降の資金はまだ確保できておらず、自分たちのような民間支援には限界がある」と話しています。
こうした状況に子ども家庭庁はこのままでは情報格差につながりかねないとして問題意識を持っています。
スマホが持てない高校生だけでなく、持っている場合でも懸念が出ているからです。スマホを持っている高校生のほとんどがスマホ代を払うためアルバイトをしているとみられ、学業や生活面への影響が心配されています。
このため、子ども家庭庁は来年度から施設への財政支援を強化してこうした状況を改善したいとしています。
具体的な金額や対象はこれから検討することになります。
児童福祉や子どもの貧困に詳しい日本福祉大学の堀場純矢教授は次のように話しています。
施設にいるうちから生徒たちがスマホを持てる環境づくりが必要です。というのも施設を出て周りに保護者がいなくなってからスマホを持ったときの方が犯罪に巻き込まれるリスクは当然高くなるからです。失敗とかリスクも含めて職員のサポートを受けながら支援できるような仕組みにしていかないと、子どもの自立を考えても厳しいのかなと思います。
また、スマホを持てない子どもは施設の中だけにいるわけではありません。ひとり親家庭への対応など支援をどのように進めるのか、あわせて検討していくことも課題になります。
取材の中で、NPOの担当者が「ただでさえ家庭などで苦しい思いをしてきた子どもたちに、スマホが原因で学校生活で2重3重の苦しい思いをさせるわけにはいかない」と話していたことが印象に残っています。
高校生全員がスマホを持たなければならない訳ではありません。中には高校生でもスマホを持たない選択をしている家庭もあると思います。ただ、その『持つ・持たない』の選択肢が等しくあることが必要だと感じました。
また、こうした状況はスマホだけにあるものではありません。今後、国がどのように支援を進めていくのか、注目していきたいです。