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幕張ベイタウン マンション街で続くラジオ体操 千葉 美浜区

  • 2023年07月31日

東京まで乗り換えなしで行ける利便性などから、住宅地として人気が高いJR京葉線の海浜幕張駅。エリアを代表するマンション群の幕張ベイタウンでは、街開きした1995年から28年間、住民による夏のラジオ体操が続いています。ひとりが始めた取り組みに、多くの人が参加し、世代を超えたつながりを作っています。いま、活動の中心となっているのは、小学6年生の「ラジオ体操リーダー」。彼らがひと夏の経験を通じて成長する姿が、地域の一体感を生み出しています。

(千葉放送局・金子ひとみ、小林真弓、櫻井克至)

ラジオ体操に老若男女が集う

千葉市美浜区打瀬の幕張ベイタウン。9000戸以上の集合住宅に2万4000人あまりが暮らしています。マンション街のど真ん中で開かれる夏休みラジオ体操会は、この街の恒例行事です。

前で模範体操を行うのは、6年生有志のラジオ体操リーダーです。

ベイタウンにある打瀬小学校、海浜打瀬小学校、美浜打瀬小学校の3つの小学校を夏休み期間中に巡回します。子どもたちが学区を越えて集まるほか、親子連れや出勤前の大人、高齢の人の姿も見えます。

参加者

仕事前に子どもといっしょに来ています。子どもは、はんこをもらうのが楽しみで、去年は皆勤賞でした。

参加者

もう、ベイタウンの伝統、風物詩ですよね、夏休みのね。

1995年 街も小学校も誕生

 1993年の幕張ベイタウン上空

幕張ベイタウンは、千葉県の事業で、海を埋め立てて、海浜幕張駅エリア・幕張新都心を代表する初の住宅地区として整備されました。

2023年の幕張ベイタウン上空

1995年春、最初に供給されたマンションへの入居が始まったのとほぼ同時に、このエリア最初の小学校である打瀬小学校が開校し、各地から子どもたちが転校してきました。

ラジオ体操会を率いるのは、93歳の元校長先生

この年の夏、鎌田繁さん(93)というひとりの住民の行動で、ラジオ体操会が生まれます。横浜の小学校で校長を務めた後、ベイタウンに移住した鎌田さん。打瀬小学校の夏休み初日と2日目、ラジオ体操カードを首からぶら下げ、近くの公園付近をうろうろする子どもたちを目にしました。

1996年のラジオ体操会(会場は打瀬小学校)

「ラジオ体操会場を探しているのではないか」とピンと来た鎌田さん。小学校に問い合わせると、「学校はラジオ体操を主催しないので、地域でやってもらえるならお願いします」と言われ、「子どもたちを喜ばせたい」との思いからみずからラジオ体操の場を作ったのです。最初の年はマンション前のスペースで、次の年からは小学校の校庭で。カードには、手作りした「鎌」のゴム印を押しました。

歴代のポスター

「早朝からラジオの音がうるさい」と言われたこともありましたが、子どもたちから「やめないで」と要望され、ラジオの音量を調整するなど近所への配慮も取りながら続けてきました。コロナ禍には期間を短縮しましたが、中止はせず、ことしで29回連続となる開催です。

鎌田繁さん

最初の年の最初の日は12~13人しか来ませんでした。だんだん増えて、10日目には100人近く集まったんです。子どもたちが新しい街になじみを作ろう、街を自分たちで作っていこうという、そういう子どもたちの気持ちもあったんじゃないでしょうか。ひとつの居場所になったのかもしれません。こんなにも長く続けようなんてまったく考えもしませんでした。

子どもたちのあこがれ ラジオ体操リーダー

7月1日(土)午前6時前。鎌田さんの待つ海浜打瀬小学校のピロティに、少し緊張した様子の子どもたちが集まってきました。この日は、ことしのラジオ体操リーダーの事前特訓初日です。夏休みの始まる半月も前から、リーダーたちは体操の練習を始めるのです。

ラジオ体操会での模範体操は当初、鎌田さんが行っていましたが、18年前、鎌田さんが右ひざを骨折したのを機に、子どもが主役の今の形になりました。

毎年、リーダーには、10人以上が名乗りをあげます。小学校入学前や下級生のころからラジオ体操会に参加してきたベイタウンの子どもたちにとって、みんなの前でビブスを着て堂々と体操するリーダーは、あこがれの存在です。

リーダーには、参加者のカードに押す「はんこ」が配られる

リーダーの応募条件は6年生であることのみ。選抜などはなく、立候補すれば、全員リーダーになれます。と言っても、リーダーに求められるものは決して易しいものではありません。

・夏休みが始まる前から、土曜日朝6時の事前特訓3回への出席。

・本番では参加者と向き合って体操するため、左右逆の動きを覚える。

・手足の曲げ伸ばしや指の形、左右のバランスなど、細かいところまで気を配る。できていないと、鎌田さんから厳しく注意されることも。

・夏休み期間中の本番では、3つの小学校を巡回する21日間、できるかぎり出席。

リーダー経験者による手厚いサポート

リーダーだった先輩たち

小学校最後の夏に厳しい壁に挑むリーダーたちのため、事前特訓にも本番にも、多くの応援団が駆けつけます。リーダーへの指導や音源の準備などをサポートする住民の方々。リーダーの募集や会場の貸し出しで協力をする3つの小学校の先生たち。そして、中学生から社会人まで、かつてリーダーだった先輩たちです。このリーダー経験者たちが、事前特訓で、まだ慣れないリーダーたちに動きを教えています。リーダー経験者が後輩の練習に来なくてはならないというルールはありませんが、毎回、5人前後が顔を出していました。土曜日の朝6時に。

2010年のリーダーで会社員の赤川新さん(24)
挑戦して結果を得ることを学びました。カードにはんこを押すと、下級生たちが、「もらえた」と笑顔になる、誰かのために取り組む良さに気づきました。中高6年間も休まずサポートで参加したところ、最後は、鎌田さんたちが特別に色紙をくれてとてもうれしかったです。

地域の人が主体となってやっていることに子どもたちが関わることで、地域への理解が深まると思うので、これからも続いてほしいです。

地域紙「まくはりベイタウンニュース」の配布準備作業

中には、ラジオ体操リーダーの経験が地域での活動につながっているOBもいます。大学4年生の石原京嗣さん(22)は、2013年にリーダーを務めたことや、その後、中高生時代にも参加者の自転車整理などを手伝う中で、地域の大人たちと仲良くなり、地域紙「まくはりベイタウンニュース」の広告折り込みや配布をボランティアで手伝うようになりました。

石原京嗣さん

中高生のときは、「知り合いがいるから顔見せに行くか」ぐらいの感じで、体操会に足を運んでいました。今も、リーダーのときにお世話になった「まくはりベイタウンニュース」の松村守康さんから人手が足りないと聞き、軽い気持ちで無理なく手伝っています。

マンションが多く、近所づきあいはあまりないですけど、こういう活動で地域の方とコミュニケーションを取れるのは貴重ですし、なんとなくこの地域に貢献できているのかなとは感じます。

現リーダー 自主練習も

ことしのリーダーのひとり、打瀬小学校6年の軍司蓮汰くん(12)です。サッカーに打ち込む一方、下級生のときから見てきたリーダーに、「われこそは」と手をあげました。

軍司蓮汰くん

お母さんにすすめられたのもあったんですけど、自分でも「やってみたい」と思って立候補しました。以前の6年生みたいにかっこよくなりたいと思うし、みんなに見てもらえるすごい感じのリーダーになりたいです。

事前特訓で、鎌田さんから、第1体操の体を回すパートでひざを伸ばして大きく動くよう指導を受けた蓮汰くん。自宅でお父さんにスマートフォンで撮影してもらい、動きをチェックします。体を回すパートは、特に繰り返し練習しました。

父・大介さん「大げさにやったほうがいいんじゃないの?前に立つから」
母・美津子さん「繰り返して練習すると、自信を持ってできるようになると思うよ」
蓮汰くん「オーケー。ここはもっと反った方がわかりやすいね」

蓮汰くん 300人のお手本に

7月20日、いよいよ蓮汰くんがリーダーの代表として壇の上にのぼる日です。

「失敗したら一番前だから、明らかに目立つなあと考えて、緊張していた」と、このときのことを振り返る蓮汰くん。

会場の300人以上の視線が、蓮汰くんに集中します。出勤前の蓮汰くんのお父さんやお母さん、先生たちも見守っていました。

音楽が始まると、吹っ切れたかのようにひとつひとつの体操を丁寧にこなしていく蓮汰くん。課題だった体を回すパートでは、大きくのびのびと動くことを意識します。

事前特訓では厳しく指導していた鎌田さんも、柔らかな表情で見つめていました。

大役を果たした蓮汰くん、壇から降りると、表情が一気に和らぎました。

体操後はお待ちかねの「はんこ」タイム。蓮汰くんのもとには、われさきにと押してもらおうとする子どもたちの列ができていました。

軍司蓮汰くん

かっこいいリーダーになれたと思います。ほかのリーダーたちに負けてられないなと思ってがんばりました。鎌田さんは厳しい部分もあったけど、ぼくたちひとりひとりにすごい体操をしてほしいと、ここまで細かく見てくれていて、本当はとても優しい人なのだろうと思いました。

幕張ベイタウンだからこそ、みんなの周りでこういう体験ができたのかなって思います。ぼくたちも、ことし教えてくれた先輩たちのように、下の学年のリーダーに教えていけたらかっこいいかなって思います。

鎌田さん「リーダーがいたからこそ、ここまで続いた」

ラジオ体操リーダーの取り組みは、リーダー自身の達成感となるだけでなく、幅広い世代の住民の一体感を生み出してきたのではないかと、鎌田さんは考えています。

鎌田繁さん

ここでは、子どもだけでなく、大人の人も結構出てきて、一緒に体操してくださる。リーダーの子たちに刺激されているのは大きいだろうと思いますし、リーダーがいるからこそ、ここまで続いてきたと言えるでしょう。

住民たちは、リーダーの子たちを見ることはその成長がどんどん目に見えている喜びがあるんじゃないか。このラジオ体操が発展していくことは街全体がこれからも発展していくことにつながってくれるかなと思います。

鎌田さんは、リーダーを含む子どもたちに、ささやかな願いも抱いています。

鎌田繁さん

ラジオ体操の経験が、ベイタウンを子どもたちのホームグラウンド、歌に出てくるようなふるさとにしてくれるんじゃないか。小学生のとき、あの校庭でラジオ体操やったね、リーダーで壇の上でやったよという経験が、あの子たちが大人になって、自分の子どもが育った時に、また違った目線でこの街を見て、関わっていってくれるんじゃないかと思います。

取材後記

ラジオ体操会をサポートしながら、地域紙「まくはりベイタウンニュース」で毎年、リーダーの様子を伝えてきた松村守康さんが、こんなことを言っていました。「1000人が集まっていたころのような勢いはなくなってしまったけれど、20年30年こつこつ続けてきた。街おこしやイベントのような派手なものではないけれど、目立たないなりにじっくりやっていくことで、価値が生まれたのではないか」。リーダーと鎌田さんをそばで支えてきた松村さんならではのことばだなあと感動したのでした。リーダー経験者のみなさんやそのお父さん・お母さんまで、たくさんの方々に話を聞かせていただきました。本当にありがとうございました(取材担当 金子)。

練習初日に緊張顔で集まった6年生リーダーが、本番では朝礼台の上で堂々とお手本体操を見せる姿は、撮影していてしびれました。放送で紹介できなかったリーダーも全員が最高にかっこいい6年生でした。高層マンションのベランダからラジオ体操に参加している人を見たときは、幕張の街とラジオ体操の一体感を感じました。93歳の超人・鎌田さんと12歳リーダーたちの頑張る姿があるから、あれだけ多くの人が早朝から集まるのですね(撮影担当 小林)。

練習初日に見た眠気まなこの子どもたちが着実にラジオ体操を覚えていって、本番当日はこんなにしっかりとのびのびとした体操を披露してくれるなんて想像できませんでした。収録した音声のなかでは、鎌田さんのおっしゃった「毎年子どもたちからは色々なものをもらっている」というコメントがすごく印象に残っていて、子どもたちの成長やそれを見守る人たちの温かさを感じました(音声・照明担当 櫻井)。

  • 金子ひとみ

    千葉放送局 記者

    金子ひとみ

    「あたらしい朝が来た~」で始まる歌も好きです。ラジオ体操会の取材が終わり、さみしいです。

  • 小林真弓

    千葉放送局 カメラマン

    小林真弓

    小学生のとき、最後の深呼吸の動きが終わる前にはんこを押してくれる上級生の元へダッシュしていました。

  • 櫻井克至

    千葉放送局 音声・照明担当

    櫻井克至

    ラジオ体操の取材に行くと聞いて真っ先に思ったことは「朝起きられるかな…」でした。

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