ページの本文へ

  1. 首都圏ナビ
  2. ちばWEB特集
  3. 「房総の海をめぐる光と影とアート展」 千葉県立美術館企画展

「房総の海をめぐる光と影とアート展」 千葉県立美術館企画展

  • 2023年07月28日

猛暑が続く夏の盛り、美術館でしばし涼みながらアート鑑賞してみませんか?

千葉市にある県立美術館で7月から開かれている「房総の海をめぐる光と影とアート展」。趣の大きく異なる2つの展示からなる、この企画展の見どころをご紹介します。

(千葉放送局記者 大岡靖幸)

東側が太平洋、西側が東京湾と海に囲まれた房総半島。その美しく多様性に富んだ景観と、都心から近い利便性から、これまで多くの画家がこの地の風景や人の営みを描いてきました。

千葉県立美術館で開催されている「房総の海をめぐる光と影とアート展」。最初にご紹介するのは、房総の海をモチーフとしたものを中心に集めた絵画展。およそ2800点に及ぶ美術館の収蔵品から、主に明治から昭和にかけてのおよそ40点の作品を展示しています。

展示の特徴は、作品の多くについて、描かれた場所の現在の写真も一緒に展示されていることです。これによって、作品そのものの鑑賞だけでなく、その絵が描かれた時代と現在とを比べて「時の移り変わり」も体感することができるようになっています。

いくつかの作品をご紹介しましょう。

こちらは昭和46年に大浦掬水が、現在の浦安市の境川をモチーフに描いた「ベカ舟」という作品です。ベカ舟とは海苔を採るための小型船で、作品では東京湾に面した境川にベカ舟がぎっしりと係留され、漁師町として賑わう様子が荒々しいタッチで描かれています。

これに対して、現在の写真では船の数も大幅に減り、かつての賑わいは見られませんが、漁師町として栄えた伝統がいまにつながっている様子がうかがえます。

昭和26年に描かれた松本弘二の「海鹿島(あしかじま)の夏」という作品。銚子市の犬吠埼の北側にある海鹿島海水浴場を描いたもので、海の家らしき場所に積み上げられた果物や、海水浴客が詰めかけて賑わう様子が力強い筆致で描かれ、戦後間もない時代の様子が生き生きと伝わってきます。

この海水浴場は現在もあって、写真では、人数は減ったものの変わらず海水浴を楽しむ人の姿や、作品にも描かれている岩場が写っています。

一方こちらの作品は少し趣が違います。昭和63年に描かれた、前嶋実の「九十九里初夏」。モチーフは九十九里浜の海岸ですが、砂浜には埋もれた廃船や古い納屋があり、その沖合には漁から帰ってきたらしい漁船の姿があります。全体的なトーンは青で占められ、画面の中心部には白い海鳥の群れが描かれていて、現実の風景というよりも画家の心象風景を思わせる作品となっています。

あわせて展示されている現在の九十九里浜の写真には船も小屋も写っておらず、作品との違いが際立っています。

このほか、大正6年に勝浦市周辺の海水浴場から浴衣姿で帰る女性たちを描いた、大久保作次郎の「海水浴帰り」は、去年からことしにかけて修復や画面洗浄が行われ、くすんだ色合いだったものが本来の明るくまばゆい色調に復活しています。

また、房総東線(現在の外房線)の車内の様子をリアルに描いた遠藤健郎「房総線ディーゼル・カーの乗客たち」は平成9年の作ですが、車内の乗客の様子や、房総東線の名称は昭和47年に外房線と変わっていることから、昭和30年代から40年代ごろのようすと思われます。ちなみに、画面の右端に描かれた背広姿で本を読んでいる男性は、画家自身だそうです。

企画した千葉県立美術館の谷鹿栄一 主任上席研究員
「房総は都心に近く、時代によってかなりの変容があるため、今の写真も一緒に見て移り変わりを知ってもらえれば、より興味深いのではないかと思います」

そして美術館では、趣が全く違うもうひとつの作品展が同時開催されています。
現代アーティストのクワクボリョウタ氏の作品展「コレクション・ネット」です。

クワクボリョウタ氏(中央)

クワクボ氏は、電子機器をはじめさまざまなメディアを使用して作品制作を行う「メディアアート」を代表する現代アーティスト。今回は千葉県の特産品の「落花生」や県の花である「菜の花」など、県を象徴するモチーフをさまざまに追い求め、習作をつくりました。

そのひとつがこちら、巨大な落花生の作品、「千葉P114000号」です。千葉県が開発したピーナツの新品種「Qなっつ」を、人が中に入れるサイズにまで拡大したもので、もとになった落花生の品種名「千葉P114号」にちなんで名付けられています。

突然目に入ってきたらビックリしそうな人形。千葉県が昭和58年に制定した「なのはな体操」を踊る巨大な菜の花の人形です。作品名は「新県民体操」といい、この人形を3人で操ってなのはな体操を踊らせる様子が動画で見られるようになっています。

そしてこれらの習作を元に、千葉県の海や海岸線から着想した新作が「LOST #19 しおさいのくに」です。クワクボ氏の代表作となる連作の最新作で、光源を付けた鉄道模型が暗闇の中のレールを走り、影絵のようにさまざまなイメージを作り出す、動く作品となっています。

クワクボリョウタ氏

「千葉県はいろいろな特色があるので、地引き網にかかったものを片っ端から集めたということから『コレクション・ネット』というタイトルを付けました。今回は千葉県のPRという面もあるが、ご当地ネタを取り上げるだけではなく、そこから一歩踏み込んでその中身を知るような機会に出来ないかと考えました」

この展示会は祝日以外の月曜日が休館で、9月18日まで開かれています。

取材後記

この2つの絵画展と作品展、全く違うのに不思議とどこかでつながっているようにも感じます。房総の海の絵画展は「房総の過去と現在」、そしてクワクボ氏の作品展は「房総の現在と未来」を示しているからかも知れません。

県立美術館は以前は県教育委員会の「文化財課」に属していましたが、去年4月から知事部局の文化振興課に移りました。より県民に親しんでもらうとともに、県外の人にも千葉県の魅力を知ってもらおうという狙いで、活性化の取り組みを進めています。去年秋には、県内で学生時代を過ごした人気漫画家でイラストレーターの江口寿史さんの作品展を開き、大きな話題となりました。

今回の展示会にも、来館者に楽しんでもらいたいという意図が感じられました。これからも、美術愛好家に加え、幅広い人の興味や関心に応える展示を期待しています。

  • 大岡靖幸

    千葉放送局記者

    大岡靖幸

    遊軍を中心に千葉市政や経済などを担当。科学や文化面に関心があり、いろいろと取材してきました。千葉放送局に6年間在籍しましたが、8月1日から東京に異動することになりました。楽しく充実した6年間でした。ありがとうございました。

ページトップに戻る