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早坂響投手 千葉・幕張総合高 なぜドラフト候補へ 150キロ右腕へ急成長の秘密は

  • 2023年07月20日

専大松戸高校の優勝で幕を閉じた、夏の高校野球・千葉大会

この大会では、公立高校に突然現れた150キロ右腕に注目が集まりました。幕張総合高校の早坂響投手です。キャッチャーから転向して1年足らずで、ドラフト候補と言われるまで急成長しました。

その飛躍の秘密を、担当記者が探りました。

(千葉放送局記者・池田侑太郎)
(※10月25日に記事を更新しました)

早坂投手は指名された? ドラフト会議の結果はこちら👇
プロ野球ドラフト会議2023 千葉から指名される選手は 【随時更新】

県立高に現れた快速右腕・早坂響投手

千葉大会で注目を集めたのが、県立高校に突然現れた快速右腕です。

千葉県立幕張総合高校の早坂響(おと)投手

176cm、68kgと細身の体から繰り出されるストレートは今大会で最速150キロを記録。鋭く曲がるスライダーとの組み合わせを武器に、三振の山を築きました。

球場に表示された球速

チームは5回戦で強豪の専大松戸に敗れましたが、4試合に先発して、いずれも完投。チームを夏の大会では初めてのベスト16に導きました。

▼2回戦 〇 幕張総合 13-0 芝浦工大柏(6回コールド)

▼3回戦 〇 幕張総合 10-3 我孫子東

▼4回戦 〇 幕張総合 5×-4 千葉経大附(延長11回タイブレーク)

▼5回戦 ● 幕張総合 2-6 専大松戸

【早坂投手の成績】試合4 投球回34 失点13 奪三振30

敗れて涙ぐむ早坂投手(左から2番目)

早坂投手のもとには、試合や練習にプロ野球のスカウトも多数詰めかけドラフト候補として注目されています。

1年前はキャッチャー!?

実は早坂投手、ピッチャーとしての経験は1年足らずです。去年10月までのポジションはキャッチャーで、秋の大会には正捕手として出場していました。

去年秋の大会での早坂投手

しかし、ピッチャーの人数が足りないというチーム事情、そして、捕手として見せていた強肩を監督に買われ、人生で初めてピッチャーに挑戦することになりました。

早坂投手

ピッチャーをやってみろと言われて楽しみな気持ちもありましたが、自分にできるのか、という不安な気持ちが大きかったです。

周りにもストライクが入るのかと言われましたし、自分でも思っていました。実際に最初はフォアボール連発で試合を壊すくらいでした。

注目してもらっている今の自分はまったく想像できなかったです。

野球部の柳田大輔監督も、早坂投手の入部当初のことを思うと、想像を超える現在の姿に驚きを隠せません。

柳田監督

野球部に入りたての頃と言われても、…っていうくらい、イメージが出てこないんですよね。

正直言うと、3年間野球を続けることができるかな、というくらいでした。こちらがしっかり見てないと、才能のある子を見落としてる可能性がある、という教訓になりましたね。

急成長、その秘密は…

早坂投手の急成長の秘密は何なのか。ある平日の夕方、早坂投手の姿は学校のグラウンドではなく、東京・四谷にありました。

都内のビルの1室へ

ここは、プロ野球選手も通うトレーニング施設。ピッチャーに専念するようになってから、毎月1回ほどのペースで通っています。

スポーツトレーナー 北川雄介さん

指導しているのは、北川雄介さん。独自のトレーニング法で体の動作を改善させることで知られるトレーナーです。

2年前にみずからが運営するトレーニング施設を立ち上げ、指導を受けている現役のプロ野球選手は50人に上ります。

一緒にフォームの確認

スマホで動画を撮影して体の動き方を確認するだけでなく、球速球の回転軸回転数を測る機械を使って投げたボールの特徴を分析。どうすればもっといい球が投げられるのか、対話しながらセッションを進めていきます。

最初は腕だけで投げていたという早坂投手。北川さんの指導を受け、胸の筋肉と関節、それに体幹を使うことを意識し、体全体で投げることを覚えました。

初めてピッチャーとして投げた1年前、最速132キロだった球速は20キロ近くもアップ。さらに、体の重心を整えることでコントロールも大きく改善しました。

北川さん

早坂投手がすごいのは、体の胸の周りや中心から、腕の末端に力を伝えるのがとても上手なところです。このため、普通の人より負担が少なく、速い球を投げ続けられることできます。

下半身を使って前に押し込む力など、まだまだ向上できる余地があるので、将来的には155キロ以上の球を投げ続け、最速は160キロまで届いてもおかしくないピッチャーだと思います。

若い世代に広がる個人指導

北川さんのもとには、近年、若い世代が相次いで訪れています。

指導した選手のうち高校生の割合は、去年は1割程度でしたが、現在では2割ほどまで増加。この施設には、ことしに入ってから7月までに135人もの高校生が指導を受けに来ているほか、小学生まで訪れているといいます。

北川さん

高校生以下でも、技術的にレベルが高い、より専門的な指導を求めるニーズは高くなっていると感じます。

チームの指導者は、どうしても全体を見る中で個人を見なければならないのですが、選手個人の課題や悩みはそれぞれです。

例えば、学校で勉強をしていても、苦手な科目に家庭教師つけたり、塾に通ったりするのと全く同じ話で、スポーツの個人指導はありうるのかなと思います。

“専門家に任せる”指導の方針

チーム全体で練習するイメージが強い高校野球で、以前では考えられなかった外部での個人指導。

実は、早坂投手に北川さんのところに行くように勧めたのは、柳田監督でした。

早坂投手(左)と柳田監督(右)
柳田監督

最初は彼を北川さんに見せて、本当にピッチャーをできるのか判断を仰ごう、という気持ちで紹介しました。

彼のプレーを見てきた私としては、本当に150キロなんて出るのかって疑心暗鬼になっていたのですが、北川さんが『絶対出ます』と言うので信じていたら、本当に出たという感じですね。

池田記者

外部から個人が指導を受けることに、抵抗はなかったですか?

柳田監督

専門家に見てもらうのが、選手にとっては一番幸せだと思うんですね。私の価値観を押しつけても、合っていればいいんですが、当然合っていない場合もあります。

だったら信頼できる専門家に見てもらった方が、伸びるんじゃないかと思います。もしかしたら勇気のいることなのかもしれませんが、北川さんを信頼しているので、思い切ってよかったです。

早坂投手は教えてもらったことをチームに還元しているので、彼が個人指導を受けたことは、チーム全体にとってもいい影響を与えていると思います。

幕張総合高校の野球部員たち

以前から親交があった北川さんと柳田監督。毎日のように連絡を取り合い、早坂投手の状態を互いに確認しています。

また、この野球部では、北川さん以外からも積極的に外部の指導を受けているといいます。

柳田監督

外部の専門家を招いて目のトレーニングメンタルのトレーニングをしてもらったり、栄養の講座をやってみたりと、野球に限らずいろんな方々から指導してもらっています。

早坂投手は“プロ”を志望へ

個人指導を受け、1年足らずで飛躍的な成長を遂げた早坂投手。悲願の甲子園初出場は叶いませんでしたが、さらなる挑戦を続ける決意をしています。

早坂投手

県大会を勝ち抜けず悔しい気持ちもありますが、やりきりました。監督の指導方針が自分に合っていて、北川さんとも出会えたので、監督に感謝したいです。

入学したときは高校野球で燃え尽きようと思っていたのですが、今はプロ野球を目指しています。その先の人生でも野球を続けたいなと思っています。

5回戦後、専大松戸のエース・平野大地投手(左)と早坂響投手(右)

個人指導 さらに広がるか

早坂投手のように個人指導を受ける流れは、野球以外のスポーツでも広がりを見せています。

東京都内には、サッカーのゴールキーパー専門のトレーニング施設や、バスケットボールのドリブルやシュートの技術を教える施設などがあり、多くの高校生が部活動やクラブチームでの活動と並行して通っています。

個人指導はさらに広がっていくのか、スポーツの指導に詳しい筑波大学の川村卓准教授に聞きました。

池田記者

個別指導が広がった背景には何があるのでしょうか。

川村准教授

以前は集団で練習を行い、その中で個人が伸びていくことが多かったと思いますが、やはり個別の対応がなかなかできないので、伸びていかない選手も出てきました

その中で、専門的に学んでいる人、専門的な知見を持っている人が増えてきて、個別に指導することが非常に有効になってきました。

池田記者

これから受けたいと思う人も多くなると思いますが、注意したほうがいいことはありますか。

川村准教授

まず己を知るということです。自分が抱えている技術的な問題や体力的な問題をちゃんと把握した上でトレーニングに行くことが大切です。

これを誤ってしまうと、本来は能力を向上させるためのトレーニングなのに、自分の力以上のことを繰り返してしまい、オーバーワークになってケガをしてしまう可能性が高くなってしまいます。

池田記者

特に高校生などの成長期に気をつけるべきことはありますか。

川村准教授

まずはトレーナーの方に、今の体の状態、どのくらい体が成長しているのか、そして過去のケガの経験などを把握してもらうことは必要だと思います。

また、学生にありがちなのが、心理的な焦りです。高校で伸びなくて大学以降で伸びるという選手もたくさんいます。無理に鍛えることによるマイナス面もあるので、状況によっては、大人がコントロールしてあげる必要もあるかと思います。

池田記者

指導する側の注意点はありますか。

川村准教授

トレーナーとチームの監督などの指導者が、少しでいいのでやり取りできていると、その子に対してのアプローチが見えてくると思います。

このコミュニケーションをしておかないと、選手にとってマイナスになることも起こりうるので、お互いに体の状態を把握しておくことが大切だと思います。

池田記者

今後はさらに個人指導を受ける流れは強まるのでしょうか。

川村准教授

トレーニング施設は現在、都心部に偏っています。また、金銭的な負担が大きいという問題もあります。

難しい問題ではありますが、ある一定のレベルまでは指導を受けられる人と、そうでない人で差が出ないようにしていくことが必要だと思います。

取材後記

投手歴1年で150キロを投げるなんて全く想像がつかず、どのような取り組みをしているのか、単純な興味から取材を始めました。

そこで見たのは、ある種「イマドキ」の上達の方法でした。

これまでなかなか考えられなかった指導の形で、早坂投手、北川さん、柳田監督の3人での信頼関係を感じました。

一方で、川村准教授の話の中で気になったのが、個人指導を受けるのは、チームでの指導方法が合わないから、という選手も一定数いるということでした。

個人指導を受ける理由は、自分が上達し、活躍するためだと思いますが、その舞台はチームでの試合であるはずです。

受けたい指導を「選択する」時代になってきている中、自分の目指す姿に近づくためにはどうしたらいいのか、改めて選手自身も考えていかないといけないと感じました。(池田侑太郎)

  • 池田侑太郎

    千葉放送局記者

    池田侑太郎

    兵庫県出身、甲子園には毎シーズン高校野球を見に通っていました。これまでの野球人生では、ピッチャーをやりかけてはクビになることを繰り返してきました。

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