毎年この時期に、自治体のトップ(知事や市長など)の資産や所得について、公開されているのを知っていますか?
公開されている書類をどうやって閲覧するのか調べたところ、多くの自治体がインターネット上では公開せず、市役所などを訪ねなければ閲覧できないことが分かりました。
なぜ資産が公開されるようになったのか、その歴史から公開方法の違いまで、詳しくお伝えします。
(千葉放送局記者 金子ひとみ、渡辺佑捺)
この前、県知事や市長の資産や所得について新聞記事を読んだラッカ。きょうはこの「資産・所得公開」について深掘りするナッツ。
まずは、なぜ資産や所得が公開されるようになったのか調べてみたよ!
公開のきっかけは、昭和末期に相次いで発覚した「政治とカネ」の問題です。
1988年(昭和63年)に発覚した「リクルート事件」。就職情報誌などの発行で急成長していたリクルートのグループ会社の未公開株が、政治家や官僚などに大量に配られていたことが明らかになりました。
発覚当時の官房長官は、未公開株1万株や2000万円の小切手を受け取ったとして、受託収賄の罪に問われ、懲役3年、執行猶予4年の有罪が確定しました。
この頃には、ほかにも「佐川急便事件」など「政治とカネ」の問題が相次ぎました。この反省に基づいて、1992年に成立したのが国会議員資産公開法です。不正に財産を築いていないか有権者がチェックするのが目的で、第一条は以下の内容です。
第一条
この法律は、国会議員の資産の状況等を国民の不断の監視と批判の下におくため、国会議員の資産等を公開する措置を講ずること等により、政治倫理の確立を期し、もって民主政治の健全な発達に資することを目的とする。
第七条には、知事や県議会議員、市区町村長の資産や所得の公開についても、各自治体で条例を定めて公開することと書かれていて、これに基づいて首長らの資産が公開されています。
公開されている内容はどんなものなのかナ。熊谷知事の資産に関する報告書に書かれている内容を抜粋するラッカ。
公開されているのは、「資産等補充報告書」「所得等報告書」「関連会社等報告書」の3種類です。
このうち「資産等補充報告書」の主な内容は次の通りです。
✅ 去年1年間で新たに取得した土地・建物はなし
✅ 公開が求められる預貯金(普通預貯金等は除く)はなし
✅ 有価証券として以下の3点
●「楽天・全米株式インデックス・ファンド」(額面総額60万円)
●「eMAXIS Slim米国株式(S&P500)」(額面総額39万9966円)
●トヨタ自動車株800株
なぜ、「補充」報告書なのかナ?
県の条例で、任期開始後、「資産等報告書」を公開すれば、その後は、毎年新たに所有することとなった資産などを「補充報告書」として公開すればよいと規定されているからです。
「所得等報告書」には、熊谷知事の2022年の所得は2354万円(うち給与所得が2346万円、雑所得が7万円)で、不動産所得や事業所得は得ていないことが書かれています。
「関連会社等報告書」には、報酬を得て役職に就いている法人・団体は、「北千葉広域水道企業団」の1団体で、役職名は「議員」だと書かれています。
県内の市町村長の報告書もおおむね千葉県と同じような形式となっています。
「公開」ということは、県や市のホームページを見ると報告書を見ることができるのかナ?
実は、ほとんどの自治体でネット公開に対応していないんです!
報告書の閲覧方法について、千葉県と県内の市町村に取材したところ、55自治体のうち54自治体が、庁舎での対面形式でしか閲覧を認めていないと回答しました。
唯一、富里市だけが、ほかの発表資料と同じ扱いとして、インターネット上に報告書を掲載していました。
また、東京都・埼玉県・神奈川県と、さいたま市・横浜市・川崎市・相模原市の4政令指定都市も対面でしか閲覧を認めていないと回答しました。
インターネット上で公開しているのは、首都圏では、武蔵野市・草加市・横須賀市・平塚市などで、首都圏以外では、長野県・大阪府・新潟県・佐賀県などが、「住民サービスのため」「利便性向上のため」「わかりやすく情報公開するため」などの理由で公開していました。
神奈川県内の自治体では、インターネットでの公開が広がっているようです。藤沢市・横須賀市・平塚市・茅ヶ崎市・鎌倉市・伊勢原市・三浦市・逗子市は、市のホームページでの公開が確認できました。
公開のあり方について、現代政治に詳しい専門家に話を聞きました。
政治資金が「公的な経済」だとすると、所得や資産は「私的な経済」で、プライバシーの一定の配慮は必要だと思います。
一方で「資産や所得を見たい」という、のぞき見的なものではなくて、あくまでも「私的な経済」への資金の流入が公正なのか、有権者がチェックするための公開なので、少なくとも、資産・所得の概要をネットを通じてきちんと公開していくことは現代において必要なことだと思います。
ネット上で公開するとデータが蓄積され、公職を続ける中で、「私的な経済」がどのように変化してきたのか追うことができますし、市町村ごとの比較も容易です。
なぜネット公開が進まないラッカ?
最初に条例や規則が定められた、平成初期のころの公開の形を踏襲しているからだと思います。インターネット上での公開をすでに始めている自治体に話を聞くと、条例などを改正しなくても運用の見直しで実現できたというところもありました。
多くの自治体の対応は、オンライン化が進んでいる現代に合っていないと思います。
公開はどのような形で行われるのか?
千葉市役所に神谷市長の資産と所得に関する報告書を閲覧しに行きました。以下のような手順とルールです。
① 本庁舎の人事課窓口で、「閲覧請求票」に 氏名や住所を記入するなどして提出
② 別室に案内される。担当職員から報告書は部屋の外に持ち出さないことや、丁重に取り扱って破損させないことなど注意点の説明を受けて閲覧開始。
③ 閲覧中のメモは手書きで取ることとなっていて、パソコンを立ち上げたり、写真やコピーを取ったりすることは認められていない。
閲覧に訪れた一般の人は昨年度は1人、その前の年度はいませんでした。閲覧は条例で認められていますが、持ち出しやコピーはできないことが条例の要綱で定められています。インターネット上での公開は想定されていません。
今の資産公開が時代に合ったものであるのかそうでないのか、また、どういった形で公開するのが透明性を確保できるかについては議論があってしかるべきだと思っておりますので、さまざまな場で議論いただいて、要請にあったものにしていく必要はあるかと思っています。
千葉市の条例では、家族や一定金額以上の普通預金も公開対象となるなど、他の団体と比べて比較的広い範囲が開示対象になっていると理解しています。
また、報告書のコピーを認めるかどうかについても、自治体によって対応が分かれていました。1都3県の間でも、千葉県と埼玉県では認められている一方、東京都と神奈川県では認められていませんでした。
非常にアクセスしづらいので、閲覧する人がいないという側面があると思います。公開の基準に関して、国が一定のガイドラインを設けるべきではないかと思います。
各自治体に任せるというのは聞こえがいいんですけれども、現実にはなかなか難しいので、国として公開を促す政策も必要になってくるのではないでしょうか。
報告書に記載する資産も時代に応じた内容にする必要があると指摘されています。
例えば、千葉県は条例で、知事に報告書への記載を求める資産について、不動産、自動車、船舶、航空機、ゴルフ会員権、100万円を超える絵画などの美術工芸品などとしています。
一方で、近年普及している「暗号資産」は含まれていません。富崎教授によりますと、国会議員は公開の対象になっておらず、多くの自治体もこれに沿った形となっているということです。
今も昭和の時代の資産への考え方が残っていて、新たな金融資産に対応できていないと思います。公開のあり方を現代化していくことが必要です。
最後に、6月から7月にかけて公開された県内の人口10万人以上の市の市長の所得です。
市名 |
市長名 | 給与 | 不動産 利子等 |
事業 その他 |
千葉市 | 神谷俊一 | 2065 | ||
船橋市 | 松戸徹 | 1904 | ▼94 | 43 |
市川市 | 田中甲 | 1470 | ||
松戸市 | 本郷谷健次 | 1793 | 44 | |
柏市 | 太田和美 | 1620 | 178 | |
市原市 | 小出譲治 | 1682 | ||
流山市 | 井崎義治 | 1610 | 130 | |
八千代市 | 服部友則 | 1556 | 81 | 60 |
習志野市 | 宮本泰介 | 1501 | ||
浦安市 | 内田悦嗣 | 1815 | 2 | |
佐倉市 | 西田三十五 | 1497 | 5 | |
野田市 | 鈴木有 | 1505 | ||
木更津市 | 渡辺芳邦 | 1559 | ||
成田市 | 小泉一成 | 1650 | 43 | 6 |
我孫子市 | 星野順一郎 | 1304 | ||
鎌ケ谷市 | 芝田裕美 | 1356 | ||
印西市 | 板倉正直 | 1347 | 1324 | 15 |
(※)単位は「万円」。1万円未満は切り捨て。▼はマイナス。
ラッカはこれからも地方自治や政治資金をテーマに取材をしていきたいと思っているラッカ。