千葉県と神奈川県を結ぶ東京湾アクアライン。
休日には周辺で激しい渋滞が課題になっています。渋滞の緩和に向けて、7月22日から休日の上り線で、時間帯に応じて通行料金を変動させる「ロードプライシング」が試験的に導入されます。普通車の場合、時間帯によっては600円から1200円の料金設定になります。
初日の混雑状況と、詳しい料金の変化、渋滞緩和の効果について専門家の話をお伝えします。
(千葉放送局記者・坂本譲、武田智成)
東京湾アクアラインの通行料金は、これまでETCを搭載した普通車は、曜日や時間帯にかかわらず、一律800円でした。
7月22日からは次の表の通り、曜日や時間帯に応じて料金が変動する「ロードプライシング」が試験的に導入されます。
対象は、特に渋滞が多く発生している土日と祝日の千葉県から神奈川県に向かう上り線です。下り線は現行料金のままです。
【午後0時半ごろ】まだ混雑している様子はありません。
【午後1時すぎ】料金が普通車1200円(ETC搭載車)に切り替わりました。混雑状況は変わらず、渋滞は起きていません。
【午後2時半ごろ】引き続き、混雑はみられません。前の日曜日はこの時間帯から車の行列ができていました。
【午後5時半ごろ】東京湾アクアラインの入り口付近の一般道です。混雑はみられません。NEXCO東日本などによりますと、アクアラインの上り線は交通事故が原因で渋滞が発生しています。
【午後8時すぎ】午後7時台にまばらだった車が、午後8時を過ぎると、大型商業施設の方向から次々と現れ、交差点の手前では列もできました。
木更津市の大型商業施設の周辺では、さまざまな声が聞かれました。
いつもアクアラインを使ってますが、都内に帰るときは渋滞で3時間ほどかかります。これから日中に帰ると値上がりするのであれば、木更津に来る時間帯を考え直さないといけないですね。
通行料金は安ければ安いほうがいいですが、多少は値段が上がってもお出かけする人はあまり気にしないと思います。混雑が減るんであればその方がいいかなと思います。
7月16日の日曜日。「ロードプライシング」の試験導入が始まる前の最後の週末に、東京湾アクアラインを利用するトラックに密着しました。
大型トラック600台を保有する運送会社の「安房運輸」(君津市)は、休日の午後も依頼を受けて生花などを運ぶため、1日に20台ほどが東京湾アクアラインを利用しています。
この日、君津市を出発する大型トラックは、午後8時までに東京・江東区の物流拠点に到着する必要がありました。しかし…。
出発前に渋滞の状況を確認すると、アクアラインの周辺は真っ赤。激しい渋滞が起きていました。
このため、出発を平日の場合より2時間前倒しに。アクアラインの2キロほど手前から高速道路に入ったところ…。
アクアラインに入った段階で、すでに出発から1時間余りが経過。さらに「海ほたる」までノロノロ運転が続きます。
江東区の目的地に到着したのは、出発から約2時間半後。平日より1時間多くかかりました。休日の運行では、いつもこのような渋滞に悩まされていると言います。
土日に渋滞の中に入っていくというのは、気分的にはやっぱり嫌ですよね。この中に突っ込まなきゃいけないのか…っていう感じで、気疲れします。
きょうは平日から1時間遅れで済みましたが、もっとひどい時もあります。渋滞が改善してくれればありがたいんですけどね。
今回、渋滞緩和を目的に「ロードプライシング」を導入するのは、料金の変化と渋滞の発生に大きな関係があるためです。
開通当初、普通車の通行料金は4000円。「高い」という声もあって段階的に値下げが行われ、平成21年から、普通車の通行料金が800円(ETC利用)まで下がると、利用者が急増しました。
渋滞が増えたのも800円への値下げがきっかけで、通行量は昨年度、過去最高を更新し、1日あたりの平均利用台数が初めて5万台を超えました。
休日の上り線では、正午すぎから交通量が大きく増加。14時台にピークを迎え、午後から夜にかけて渋滞が頻繁に発生しています。一方、20時以降は大きく交通量が減少します。
一方で、運送会社の社長は「ロードプライシング」の試験導入について、複雑な胸の内を明かしました。
渋滞が緩和すれば仕事がしやすくなり、労働時間も短縮されるので期待したいですが、燃料価格が高騰している中、通行料金が値上げされるとコスト増になり困る面もあります。
普通車の値上げ幅が400円で本当に効果があればいいですが、実際は厳しいのではないかと思います。
「ロードプライシング」は、実は2021年の「東京オリンピック・パラリンピック」の期間中、首都高速道路で導入されていました。
目的は、選手などが乗る大会の関係車両をスムーズに移動させるためで、交通量全体の30%減少を目標に、大会期間中、次のような料金体系を導入しました。
● 午前6時~午後10時:通行料金に1000円上乗せ
● 午前0時~4時:通行料金を半額割引(※ETC搭載車両のみ)
(※公共交通機関や物流関係などの車を除く)
結果的に交通量の減少率は、平日は17%・休日は28%にとどまりましたが、大会の関係車両の移動はスムーズだったということです。
渋滞対策としては全国で初めて「ロードプライシング」が実施されるアクアライン。果たして、効果を発揮するのでしょうか。
交通工学が専門の千葉工業大学・赤羽弘和教授に話を聞きました。赤羽教授は、今回の試験導入にあたって国などから意見を求められています。
赤羽教授は、「東京オリンピック・パラリンピック」での「ロードプライシング」の前例について、どのように評価されていますか?
利用台数を減らして渋滞をほとんど発生させず、大会の関係車両をスムーズに通行させられた点で、大きな効果があったと考えられます。
「ロードプライシング」は、東京湾アクアラインでも試験導入されますが、東京オリンピックの事例と比べて、料金の上下幅も小さく、効果があるのか疑問視する声もあります。その点はいかがでしょうか?
東京オリンピックの際にターゲットにしたのは主に平日のマイカーです。アクアラインでは、休日の観光目的の車が多いので、性質が異なると考えます。
多少高いお金を払ってでも、予定を優先する人がある程度はいると思われるので、効果があるかどうか、実施してみないとわからないというのが正直なところです。
効果は、どのようにしてみていく必要があるのでしょうか?
すべての人たちにピークの時間帯を避けてもらう必要はありません。全体の1~2割の車が夜間に移動するようになれば、効果が見えてくると思います。
22日以降の交通量のデータを分析し、効果を評価した上で、必要に応じて試験導入中にも、料金の値上げ幅や時間帯の見直しを検討するべきではないかと考えます。
千葉県の熊谷知事は、渋滞の緩和を図りながら、より多くの人たちが千葉県に訪れることにつながると期待を示しています。
特定の時間帯に集中している交通を少しでも分散させることで、より多くの方々に千葉県にお越しいただき、より長く県内に滞在していただけるものと期待している。幅広くデータを収集して評価を行い、多くの方々にとって意味ある取り組みになるようにしていきたい。
「ロードプライシング」の試験導入は来年3月まで。国や千葉県などは、期間中のアクアラインの交通状況や、観光をはじめとする地域経済に与える効果や影響を検証したうえで、本格的に導入するかどうか検討することにしています。
去年、開通から25年を迎えた「東京湾アクアライン」。地域にとって不可欠になっている大動脈が今後どのように利用されていくのか。「ロードプライシング」を巡る動きに注目です。
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