「地方議会」のリアルに迫る新たなシリーズ、1回目は4月に行われた統一地方選挙で躍進した女性議員がテーマです。
世界経済フォーラムが6月21日に発表した世界各国の男女間の平等について調べた最新の報告書では、日本は政治参加の分野で格差が大きく、調査対象となった146か国中125位となり、去年の116位から後退しました。
国会の女性議員の割合はなかなか増えないものの、今回の統一地方選挙では、東京都杉並区、埼玉県三芳町などで女性議員の数が男性議員を上回りました。
なかでも、女性議員の割合が一番高くなったと注目されているのが、千葉県の白井市議会です。なぜ、白井市は女性議員を増やすことに成功したのでしょうか。
(千葉放送局記者・坂本譲)
春の選挙で、千葉県の白井市議会では、18人の定員に対し、10人の女性が当選しました。割合は55点6%で、全国の自治体議会でトップクラスです。
選挙後はじめての定例会初日となった6月16日、多くの議員が緊張した面持ちで議場に座っていました。
休憩に入ったときに、議員に意気込みや新しい議会の印象などについて聞いてみました。
白井市は高齢者が非常に多いまちなんですね。市の執行部と市民の皆さまと、一緒に前に進むことができる市を作っていきたいと思います。
白井市をどうやって発展させていくのかっていうのは、議員が互いに知恵を出し合っていくことが必要なので、男女関係なく、いい方向にもっていけるようにしたいです。
これまでも半分くらい女性だったということで、特にそれで困ったこともございませんし、白井市では自然なことなのかなという感じがしています。
今回の選挙で初当選した、石田里美さんです。改めて議員になった所感を聞いてみました。
責任をひしと感じて議場の座席に座りました。女性議員が、私が意識し始めたころはもうたくさんいましたので、自分が議会の一員になったときにも違和感はなかったです。
女性が選挙に立候補しなければ、女性議員は増えません。なぜ白井市では、多くの女性が立候補するのでしょうか。石田さんも参加した、まちづくり協議会の役員会をのぞいてみました。
この協議会では役員のおよそ3分の1が女性で、石田さんも『福祉・健康部会長』を務めていました。議員となったため、役職を降りることになり、引き継ぎが行われました。
市に登録されている障害者や子育て支援などの市民団体のうち、およそ半分で女性が代表を務めていて、役員にも多くの女性が就いているといいます。こうした状況が、女性が選挙に立候補するハードルを下げていると石田さんは感じています。
わたしなんかもやはりPTAが主のいわゆるボランティア活動、そこからがスタートでした。いわゆる先輩にあたる議員の方が、『ずっとあなたの活動を見てきて、あなたならできる。やってみない?』と声をかけていただいたことがきっかけで、選挙に立候補することを決めました。
なぜ白井市では、多くの女性が市民活動に参加するようになったのでしょうか。
多くの人が指摘するのが、『千葉ニュータウン』の存在です。
県北西部に位置する白井市は、40年ほど前に北総鉄道が開通して千葉ニュータウンの整備がすすみ、人口が増えていきました。子育て世帯を中心に、人口は倍増し、現在6万人あまりです。
ニュータウン地区を中心に、コミュニティで活動する女性が増えていったといいます。
市議会で女性が議員を続けられる環境がなければ、女性議員は増えていきません。この春まで市議会議員を務めた竹内陽子さんに話を聞きました。
竹内さんは、子どもの小学校でのPTA活動を行う中で、地域の議員に声をかけられたことをきっかけに、36年前に市議会議員選挙に立候補し、市議会で初めての女性議員となりました。初当選したときは、24人の定員に対し、女性はわずか3人でした。
当初は男性が中心の議会の中で、心ない言葉を投げかけられたこともあったといいます。
ゲンコツが飛んでくるような状況のときもありましたね。『女のくせに』と、よくそういう言葉が聞かれ、なかなかしっくりと最初は進めませんでした。大体ライフスタイルが違いますからね。議会が終わったら、昔は飲みに行く。わたしはそんなことは考えませんから。当時は、議会の最終日は宴会がありました。だんだん変わってきましたね。
竹内さんは、関心を持っていた教育や子育ての問題に加えて、これまで男性議員が取り上げることが多かった農業や公共事業の問題を勉強するなどして、互いの理解を深めることに努めたといいます。
疑問を持って、執行部に質問するということは、私自身がそれなりに自信を持って調べ上げて臨まなければできないことなので、そうした姿を示すことでだんだん理解していただけるようになり、交流が少しずつ進んでいきました。
市議会では、2000年には女性議員の割合が初めて3割を超えました。議員の発案で、子育て支援センターの直営化や健康診断の項目の見直しなど、生活に密着した問題提起が増えていったといいます。
市議会議員を6期務めている白井市議会の岩田典之議長は、初当選したときにはすでに女性が4割弱いて、特に違和感を感じたことはないとしたうえで、次のように話しました。
男性はどうしても経済や道路の問題などに目がいきがちになり、女性の方が子育てや教育について身近な問題として改革したいという意欲が強いと感じます。男女双方の視点でお互いに補完し合いながら、市の施策をいろいろチェックして、市のいいところを引き出し、無駄なところを削除しながら良いまちづくりを一緒になって取り組んでいくことが大事だと思っています。
市民のみなさんは、男女半々の議会をどう受け止めているのでしょうか。
子育てなどの問題に力を入れてくれるのではないかと期待しています。議員さんにも家庭があったり子どもがいたりする中で、皆さんのために働いてくれて、すごく尊敬します。
女性の活躍は良いことだと思います。女性ならではの視点で、まちおこしに取り組んでいただきたいですね。
引退した今、竹内さんは、これからの議員には、性別に関係なく広い視点を持って議会を活性化させ、より良い地域をつくっていってほしいと考えています。
いまは女性でもインフラのこともなんでも言いますし、男性も学童保育の問題にだって触れていかなければいけないと思います。自分が深掘りして研究したことを議会でぶつけて、議会を活性化していく。しっかりとエビデンスを持ったそういう議会活動をするんであれば、女性であろうと男性であろうと関係ないと思います。
2008年、県内で初めての女性市長が誕生したのも白井市でした。また市議会ではすでに複数の女性が議長や副議長を務めています。今回、女性が過半数を超えたことで注目されていますが、こういった過去の積み重ねのうえで、現在の市議会の姿があると思います。議会は、社会や地域のルールをつくるところでもあります。多様な人たちが対等な関係でさまざまな観点から議論を重ねて、誰もが住みやすい環境を整備していくことが大切ではないでしょうか。白井市議会は、そのモデルの1つになるのではないかと感じました。
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