子どもへ暴力などの不適切な保育を防ごうと市川市で、保育園の園長などを対象にした研修会が開かれました。
(千葉放送局記者 金子ひとみ)
保育施設をめぐっては、今月に入り、以下のような不適切な事例が報道されています。
▼静岡県裾野市の認可保育園で、ことし6月から8月にかけて、園児に対する虐待が行われていたことが明らかになり、警察が4日、保育士として働いていた3人を暴行の疑いで逮捕。
▼富山市の認定こども園で、園児の足をつかんで体を引きずるなどの暴行をしたとして、警察が6日、20代の元保育士ら2人を書類送検。
▼乳幼児を保護して養育する熊本市の乳児院で、令和元年から去年にかけて、当時の職員が子どもに向かって「顔面偏差値低いよね」など、容姿をやゆする内容の発言をし、市が「心理的虐待にあたる」として、改善勧告を出していたことがわかる。
市川市は、こうした事案を受けて、8日、市内の保育施設の管理職などを対象に、不適切な保育を防止するための研修会を開きました。
静岡県裾野市の保育園や、富山市のこども園、熊本市の乳児院などでの不適切な保育についての報道がありました。他人事ではなく、自園で悩まれている園長もいらっしゃるのではないでしょうか。
研修会にはオンラインも含めて、およそ200人の保育園や幼稚園などの園長らが参加しました。
研修では、以下のようなケースが不適切保育の例として挙げられました。
①子ども1人1人の人格を尊重しない関わり
「そんなこともできないの、赤ちゃん組からやり直しね」
「うんちが出てしまった子に対して、うんちはおうちですること、と周囲に知らせたり、その失敗を責める」など
②物事を強要するような関わり・脅迫的な言葉がけ
「眠らず話をしている子どもの布団を取り上げたり、友達と離れた場所に敷いたりする」
「集団行動を促す言葉がけを聞かない子どもに対して、『○○しないなら、○○できないからね』と声をかける」など
③罰を与える・乱暴な関わり
「並ぶときなどに、子どもの自発的な行動を待たずに、腕をつかんで引っ張る」
「言うことを聞かない子どもに対し、廊下に立たせる、散歩に連れて行かない(散歩に連れて行かないと脅す)などの罰を与える」
④子ども1人1人の育ちや家庭環境への配慮に欠ける関わり
「提出物が遅い家庭に対して、『またお母さん忘れたの』と声をかける」
「時間ギリギリのお迎えになる子どもに、『○○ちゃんのお母さんきょうも遅いね』と言う」
⑤差別的な関わり
「水遊びで、水を嫌がる子にだけ、泣くまで水をかけ続け、喜んでいる」
「『男の子はいつまでも泣かないの』『女の子は乱暴な言葉を使ってはいけない』など、性別を理由に子どもを注意する」など
そして、不適切な保育が生じる背景として、「保育従事者の認識の問題」と、「職場環境の問題」の2つが考えられると説明しました。
「保育従事者の認識の問題」は、子どもの人権や人格尊重に関する理解が十分でなかったり、保育従事者が問題ないと捉えている言動が、不適切な保育に該当してしまったりする場合があります。目の前の園児が自分の子どもだったら同じ声かけをしますか?と問いかけてみてください。
また、「職場環境の問題」については、▼職員体制が十分でないなど、適切ではない保育を誘発する状況が生じていることや、▼職員間で日々の保育の振り返りを行う機会が持てず、職員同士の気づきが促されない状況になることなどが指摘されました。
園長に相談できる環境づくりが必要です。告げ口と捉えられないように、積極的に何でも相談、報告できる関係性を、職員とつくっていただきたい。また、何かあれば、園長ひとりで悩まず、市役所に連絡をしていただいて、大きなことになる前に一緒に対応をしていきましょう。
続いて、市が考える子どもの気持ちに寄り添えていない状況を紹介します。
▼子ども同士のけんかで泣かされた子に、保育者が「泣かない」と大声を出す
▼外遊びで泣いてる子に「泣かないの」と言う
このような場面は、「どうしたの?」「だいじょうぶ?」とひざをついて、背中をさすったり声をかけて話を聞いてあげてください。
▼指示を守れなかった子どもを廊下に出す
そのような行動に出た理由があります。もっと興味が持てることがあったり、活動に飽きていたりといった理由が考えられると思います。場面を転換したり、少しクールダウンさせたりする必要があります。
▼うそついたら○○されるよ、と脅す発言をする
問い詰めたり脅したりすることばで答えるのではなく、この先生に話したい、と思ってもらえるような信頼関係をつくりましょう。
▼食べ終わってない子の給食を「時間です」と片付ける
▼泥だらけの子が着替えているのが道路から丸見えになる
▼保育者によって対応に差が出る
これらは保育者主体によるものです。余裕がないとこのような言動が出たり、行動となってしまったりするかもしれません。子どもの主体性を育む保育が大事です。
▼保護者に対し、「おむつがはずれてないのはこの子だけで、おかしい」という
成長には差があります。保護者が安心して子育てできる支援につなげることが大事です。
日中の大半を過ごす子どもたちが、豊かな心と体を育んでいけるよう、信頼される園運営をお願いします。「保育園が楽しい」「先生大好き」の声をたくさん聞けるように。
日々の保育の中で、ちょっとした種を感じ取ること、小さなところからきめ細かく見ていかなくてはいけないと再認識しました。園でも研修はしていますが、毎日行っている会議の中で、きょうの内容を共有したいと思います。
事件の報道の中で、「ストレスがあった」というものがありました。クラスの子の成長に関して、「○○先生がこんな声かけをしているから、みんな笑顔だねー」など、私から先生たちへの声かけが大切だなと思いました。先生たちの様子にも気を配っていきたいと思います。
事件は、どうして起きてしまったのかな、というのと同時に、うちの保育園では大丈夫かな、職員同士で気をつけなくては、とあらためて認識しました。研修を通して、日々の子どもとの関わりや言葉がけを改めて気をつけなければいけないと強く感じました。
職員には、保護者に安心してもらえるような保育をみんなで同じ気持ちでやっていこうということを伝えたいです。
先週から痛ましい事件が報道される中、市川市では未然に防止したい、市内の保育施設と安全と安心のおける保育についての考え方など共通認識を持ちたいと開催しました。具体例を挙げながら説明しましたが、みなさん真剣に聞いてくださっているのをみて安心しました。保育施設やそこで働く人たち、そして保護者などと連絡を取り合い、保育の安全を守っていきたいと思います。
この研修は、8日の午前中、急きょ市から案内があり、取材しました。市と保育施設が「うちの市や施設でも起こりうるかもしれない」として、この時期に「安全な保育」についての意識を共有することは大事なことだと思いました。
市の担当者の方が、「職員が、園の行事や上司、保護者のプレッシャーから残業が多くなると、慢性的に疲労し、モチベーションが上がらず、不適切な保育につながることとなる」と話をしていました。
「人手不足の中で、コロナ禍での感染対策などの業務が加わり、忙しくなる一方だ」と言われる保育の現場。来年4月には「こども家庭庁」が設置されますが、保育士の配置基準の見直しや保育士の働く環境の改善など、国による踏み込んだ対策が必要ではないかとも思いました。