子どもたちが「夏休みの宿題」として考えたアイデアが、実現するかもしれない。
そんな取り組みを続けている町が、千葉県にあります。
アイデアが現実になると聞いたら、あなたのお子さんも、「夏休みの宿題」を後回しにせずに取り掛かるかもしれません。
どんな取り組みなのか、調べてきました。
(千葉放送局記者 坂本譲)
「町の図書館で、インターネットで貸し出し予約ができるようにしてほしい」
「通学路が危ないので、道路脇にグリーンベルトを設置してほしい」
千葉県北部の中央に位置する、人口2万人あまりの酒々井町では、小学生が夏休みの宿題として『町の生活環境を良くするためのアイデア』を考え、それを町政に反映させているといいます。
いったいどんな取り組みなのか、取材してきました。
9月中旬、酒々井町の大室台小学校の6年生が、夏休みに考えた『町の生活環境を良くするためのアイデア』について、発表を行っていました。
「町なかに置いてあるリサイクルボックスを増やしたら、ゴミが減らせるのではないかと思いました」
「信号機が音声付きのものになれば、視覚障害者の人たちも安心して渡れるのではないでしょうか」
子どもたちは発表のあと、実際の選挙で使われている記載台や投票箱を使って、最も良いアイデアを提案した児童を選ぶ模擬選挙を行いました。
子どもたちは、▼発表したアイデアの内容だけでなく、▼発表の際の態度や話し方も考慮に入れて、1票を投じるそうです。
子どもたちの選挙で選ばれた児童は、町議会の議場で行われる『こども模擬議会』に代表として出席することになります。
選挙の結果、代表に選ばれたのは、町なかにベンチと日よけを設置して、町民同士が交流できる場をつくるアイデアを提案した菅谷啓乃さんでした。
なぜ、このアイデアを思いついたのですか?
夏の暑い中、わたしのおばあちゃんや障害者、それに妊娠している人が町なかを大変そうに歩いている姿を見て、そういう人たちが気軽に休める場所があったらいいのではないかと考えました。歩道などにベンチと日よけを設置すれば、憩いの場にもなるし、誰もが暮らしやすい町になるんじゃないかと思いました。
10月中旬、町議会の議場に町内の小中学校から代表の児童や生徒、15人が集まりました。町長や教育長、各担当課の幹部など、町側の出席者は普段の議会と変わりません。違うのは、議長と議員が子どもたちが務めること。いよいよこども模擬議会の開会です。
自分の言いたいことをしっかり伝えられるように練習してきました。少し緊張していますが、代表として頑張りたいです。
議員として参加した子どもたちが、質問者席に立って思い思いの質問を投げかけると、すべての質問に対し町長が答弁を行います。
駅の周辺には、町民や来町者がゆっくりとくつろいだり、交流したりする場所がないと思います。駅前の空き地となっている場所にカフェのような交流できるスペースを設置する案はどうでしょうか。
交流スペースとしての活用の可能性もありますので、役場・会社・学校で連携して取り組んでまいります。仮に交流スペースを作る場合は、町の特産品で作った食べ物や、町の観光やイベント情報などを町外の方にアピールしたいと考えます。良いアイデアがありましたらご提案をお願いしたいと思います。
酒々井町では音響信号(音の出る信号機)が設置されている場所が少ないと感じます。視覚障害者や高齢者にとっても、音響信号があると安心だと思います。町の横断歩道には、できる限り、音響信号を設置してほしいです。
信号機の設置については町ではなく、警察が管轄しています。優先的に音響信号機を設置する場所については基準が設けられており、具体的には駅、役所、病院などのほか、特別支援学校など視覚障害者の利用が多く見込まれる横断歩道であることなどが基準となっています。
今後町としては、地域住民の方々のご意見を伺いながら、基準にあった具体的な場所を選択し、必要性を十分検討しながら警察に要望してまいります。
そして、菅谷さんの順番が回ってきました。
町の歩道や街頭に、ベンチや日よけを設置すると良いと思います。一休みしながら町民同士の交流の場となることで住みやすい町となり、町の魅力を高めることができると思います。また、高齢者にも優しく、外に出かけるきっかけとなり、健康増進にも期待ができます。ベンチはデザイン性を高めることで町の見どころの一つとなりますし、ベンチマップを作ってベンチの設置場所を紹介することで町内外に酒々井町の良さを知ってもらうきっかけになると思いますが、いかがお考えでしょうか。ベンチをつくる時にはデザインなどで協力したいと思います。
ご提案である、歩道へのベンチや日よけの設置は、令和4年3月に策定した今後10年間のまちづくりの計画に定めた基本目標、『便利で快適な歩いて暮らせるまちづくり』に沿ったものであると考えております。今後、町で歩道整備を計画する際に、デザインも含めベンチの設置についても検討してまいりたいと考えております。
続いてベンチマップの作成のご質問についてでございますが、貴重なご意見として受け止めるとともに、今後ベンチマップの作成計画が具体化された場合には、ぜひとも一緒に進めていければと思っています。
議会の質問を終えた菅谷さんに感想を聞いてみました。
緊張しましたが、自分のそのときの精いっぱいを出すことができました。町長からは実現できそうだという答えが返ってきて嬉しかったです。自分が提案したことなので、責任を持って自分も少しでも協力して、ベンチや日よけを設置できたらなと思います。誰もが住みやすく快適に暮らせるような町になってほしいなと思います。
町長の目には、児童生徒たちの姿はどのように映ったのでしょうか。
ベンチの設置について、検討していくと答弁されましたね。
ベンチマップ作成などの意見もありました。これについては今後町の方で作っていく形になると思います。そのときには子どもたちに呼びかけて、特に夏休みの課題などに合わせてできればいいなと思っています。提案していただいてよかったと、非常に感激しています。
こども模擬議会の経験を、これから子どもたちにどのように生かしてほしいですか?
子どもの皆さんが自分なりに考えて、質問を練り上げていただいて、それが一つの町の課題であり、目指す方向の一つでもありますので、ぜひとも厳しい目で行政がどうなっているかを注視していただいて、自分たちが町を担っていくという気持ちを持ってほしいと思います。また成長されたときには、進んで選挙の投票に行っていただいて、明るいまちづくりができればと期待するところでございます。
行政としては問題意識があっても、なかなか実現できないこともあります。皆さんの提案が起爆剤となって優先順位が上がるということもありますので、子どもたちには期待しています。
酒々井町によりますと、町では平成18年から中学生議会を、平成28年からは小学生も交えたこども模擬議会を開いていて、児童や生徒が提案したアイデアが実現した事例が、これまでに4件あるということです。
○酒々井中学校の校舎の屋上に太陽光発電のソーラーパネルを設置
○町立の図書館でインターネット上での貸し出し予約が可能に
○通学路の安全のために道路脇にグリーンベルトを設置
○JR酒々井駅の駅舎にエレベーターを設置
このうち、校舎屋上へのソーラーパネル設置を、12年前、中学生の時に町議会で実際に要望した滝田拓巳さんに話を聞きました。
当時、エコという言葉が注目され、エネルギー問題などについて社会の授業で勉強していたころだったので、学校でも何か解決策を考えられないかと思いました。当時学校の屋上は何にも使ってなかったので、そこに太陽光パネルがあったらいいのではないかと、結構ふわっとした感じで提案しました。
当時の町長の答弁は覚えていますか?
議会での町長の答弁は『酒々井町だけでなく、世界的にも環境問題は注目されている。しかし、現在は費用が課題となっているため、今後優先順位を定めて検討したい』といった趣旨の回答だったと思います。その時、『要望は通らないんだな』と思いましたが、その後実現していると聞いて本当にびっくりしました。
こども模擬議会の経験は、いかがでしたか?
議会では町長と対等に話をして、議員として町の行政運営に参加してるんだと嬉しく思えました。子どもが自分の意見を聞いてもらえるというのは政治にも関心を持つきっかけにもなると思うし、自分で何かやろうというきっかけにもなると思います。子どもたちの町や行政に対する理解に繋がる取り組みとして、今後も続けてほしいと思います。
滝田さんはいま、小学校の先生をされているということですが、こども模擬議会の経験から、子どもたちに伝えたいことはありますか?
この経験の話を交えながら、自分の意見で大人を動かすこともできるんだということを伝えたいですね。子どもたちには自主的に考えて動けるような、そんな大人になってほしいなと思います。
この取り組みを推進している酒々井町の教育委員会の一場郁夫さんは、子どもたちに、愛着と誇りをもってふるさと意識を育んでほしいと話します。
「子どもたちにはこの経験を生かして、まちづくりは大人だけでも、政治家だけでもなく、町民みんなでまちづくりをするのだというふうに子どもたちには考えてもらいたいですね。今後はぜひ町への参画意識を持って、今から自分にできることを進んで実践する、そういうふうになってもらえたらうれしいなと思います」
子どもたちが議会で発言する姿は、本物の議員に負けず劣らず立派で、子どもたちの熱い思いに応えるように、行政側も真摯に真剣に答弁していました。今後、町をよりよくするために考えられた子どもたちの要望が、ぜひとも実現してほしいと思います。
過去にこども模擬議会の政策提案が実現した事例や、今回の子どもたちの姿が示すように、自分たちを取り巻く環境について知り、何ができるかを考え、行動することが社会を変えるきっかけとなります。自分たちのより良い暮らしを作るために、選挙の一票を投じるなど、主権者意識を持って些細なことからでも関わっていきたいと改めて感じました。