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アフガニスタン タリバン権力掌握1年 難民男性の思い

  • 2022年08月16日

アフガニスタンで、イスラム主義勢力タリバンが権力を掌握してから、15日で1年。前政権で官僚として働き、現在は日本で難民として暮らすアフガニスタン出身の男性がNHKの取材に応じ、「タリバンが権力を握って以降、家族は命の危険にさらされている。できるだけ早く日本に退避させたい」と訴えました。

(成田支局 佐々木風人)

タリバン権力掌握1年

アフガニスタンでは、去年8月15日、治安の維持などにあたってきたアメリカ軍が撤退を進める中、タリバンが首都カブールを制圧し、その後、暫定政権を発足させました。

暫定政権は、みずからの解釈によるイスラム法に基づいた統治を進めていて、女性が外出する際には顔や体を布で覆うよう指針を示したほか、日本の中学校と高校にあたる学校に通う女子生徒の授業については「環境が整っていない」などとして今も認めていません。

日本で難民として暮らす男性は

前政権下で官僚として働き、現在、関東地方で難民として暮らす男性は、タリバンが抑圧している少数民族の出身で、女子学生のための学校を設立するなど女性教育の推進にも熱心に携わってきたといいます。

しかし、経済学を学ぶため日本に留学中の去年8月、首都カブールがタリバンによって制圧されました。男性は国に帰ることができなくなり、去年、日本で難民申請をしました。

男性「タリバンが権力を握ってから、公務員も民間企業に勤めている人たちも、前政権に関わって働いてきた人たちは、非常に危険な状態です。運良く国を逃れられた人はいますが、タリバンは個人データを握っているので、タリバンが一軒一軒家を回って、残った人たちを探しています。国の発展のためには、女性も自分たちの権利を知って、男性と同じようにいろんな分野に平等に参画するということが必要なのに、女子生徒は学校に行けなくなり、多くの人たちが家から出られない状況です。少数民族の権利は奪われ、職を失った人もいると聞きます。日々、貧困や治安が悪化しています」

アフガン人の日本退避に“壁”

アフガニスタンにいる男性の父親やきょうだいは、タリバンに見つからないよう2、3週間に1度のペースで居住地を変えざるを得ない状況で、男性は家族の身の安全を確保するため、日本に呼び寄せたいと考えています。

日本語の勉強をする男性

男性「タリバンが権力を握ってからの1年間、親族の中には殺されたり逮捕されたりした人もいます。命の危険があります。家族が日本にできるだけ早く退避できることを望んでいます」

しかし外務省によると、アフガニスタン人が日本に入国するためには、原則として留学や就労など中長期の在留資格を取らなければならず、留学先や就労先がなければ資格を得ることはできません。男性の家族は、退避できない状況が続いているといいます。

専門家“柔軟な対応を”

一方、ロシア軍の侵攻が続くウクライナの避難民に対し、日本政府は短期滞在の在留資格を出しました。アフガニスタン人の日本への退避を支援している千葉大学の小川玲子教授は、「命を守るために、ウクライナ避難民への配慮は日本が取るべき対応だ」とした上で、こう指摘します。

千葉大学 小川玲子教授「アフガニスタンの人も、命の危険があるために国外に退避したいという現状はウクライナの人と同じ。アフガニスタンの人にも、柔軟に短期滞在の在留資格の発給がされるべきだと思います」

取材後記

日本政府は、ロシア軍による侵攻が続くウクライナからの避難者については、積極的に受け入れる方針を出しています。成田空港で取材しながら、ウクライナからの避難者が家族と抱き合って再会を喜び「日本の対応に感謝している」と話すのを聞くたびに、国の方針の重みを感じました。
今回、取材に応じたアフガニスタン出身の男性は、「タリバンは変わらない。極端な考えを持った過激派だ」と訴え、家族の日本への退避を強く望んでいます。しかし、現時点で家族が日本に来られる見通しは立っていません。
命の危険があって母国にいられないという状況は、国が違っても同じです。日本が、どんな国の人にとっても、「家族で安全な場所で暮らしたい」という当たり前の希望をかなえられる社会であってほしいと思います。

  • 佐々木風人

    千葉放送局成田支局 記者

    佐々木風人

    新聞社を経て、2018年入局。ここ日本で難民として暮らす男性の話を聞くと、アフガニスタンの話は決して“遠い国”の話ではないと感じています。

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