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牛乳も値上げか 異例の年度途中の値上げ交渉へ

  • 2022年06月17日

さまざまな商品の値上げが相次ぐ中、牛乳も値上げされる可能性が出てきています。「この年末に牛乳が余ると言っていたのに値上げするの?」と、不思議に思う方もいるかもしれません。新型コロナの影響で牛乳の消費量は減る一方、乳牛の飼料代が高騰していて、酪農家の頑張りだけでは耐えきれない異常事態となっています。このため関東地方の生乳を販売する団体は、乳業メーカーに対し、値上げ交渉を行う方針を決めました。年度途中で値上げ交渉を行うのは異例です。

(千葉放送局 記者 櫻井慎太郎)

高騰する飼料 十分な補填が受けられない農家

酪農が盛んな千葉県では、生乳の生産額が全国5位で首都圏を中心に出荷していますが、飼料が大きく値上がりして、農家の経営を圧迫しています。このうち鎌ケ谷市の牧場で、およそ130頭の乳牛を飼育している鈴木利一さん(69)は、1か月の飼料代が例年より100万円余り、およそ3割増えてコストがかさみ、利益がほとんど出なくなっています。

乳牛のエサとなる配合飼料

おととし秋ごろから値上がりが続いているのが、栄養価が高く質のいい生乳の生産に欠かせない「配合飼料」です。新型コロナによるコンテナ不足やロシアのウクライナ侵攻の影響を受け、輸入されるとうもろこしや小麦の価格が上がりつづけています。鈴木さんによりますと、とうもろこしの値段はおよそ3倍にあがっているといいます。

配合飼料は、生産者や国などが積み立てている基金による補填があります。補填金は4半期ごとに直近1年間の平均価格と比べて値上がりした分が支払われます。しかし、値上がりが1年以上続く想定外の状況で、基準となる平均価格があがってしまっていて、農家は十分な補填が受けられなくなっています。

乳牛のエサとなる牧草

さらに追い打ちをかけているのが、牧草の値上がりです。鈴木さんの牧場では、乳牛の体調に合わせてアメリカやオーストラリアから輸入した3種類の草を配合飼料と半分程度ずつ食べさせています。ことしに入って3割ほど値上がりしています。牧草は、補填制度もないため、大きな打撃となっています。

酪農を営む農家 鈴木利一さん
「今、酪農家が今一番きついのはこの草。草が値段が上がってるから今いちばん大変な時期です。これまでも酪農危機と言われる事は何度かありましたが、今までに類をみない大変さになっています。みんな生き残りをかけて頑張っています」

千葉県酪農農業協同組合連合会によりますと、県内の酪農を営む農家の数は現在、400戸余りで、この40年ほどで10分の1にまで減っていて、「飼料の高騰の先行きが見通せない中で、さらに生産者の減少に拍車がかかってしまう」として懸念を強めています。

生乳の価格は1年間変更できず

飼料代が値上がりしたからといって、生乳の価格を値上げするのは簡単ではありません。生乳の価格、乳価は、生産者団体と乳業メーカーの交渉で、年度当初に決められています。年間の取引価格を決めて経営の安定化を図るためです。飼料代などが上がっても、この時決めた価格は基本的には1年間、変更できないのです。

酪農を営む農家 鈴木利一さん
「生産物にその値段を転嫁できればいいんだけど、牛乳の場合は決まっていて、急にあげたりさげたりできないわけで、それに対応するしかない」

牛乳余り原因は? 新型コロナの直撃を受ける 

昨年末に、5000トンもの生乳が廃棄されると、危惧されたことは記憶に新しいと思います。そもそもなぜそんなに生乳が余るのでしょうか。
背景には生乳の増産計画と新型コロナウイルスの感染拡大があります。グラフをご覧ください。平成26年ごろのバター不足を受けて、全国で生乳の増産が図られてきました。乳牛が育つまでに時間がかかるため、令和2年ごろからようやく生産量が上向きになってきました。
しかし、新型コロナの感染拡大が直撃して、牛乳の消費量が落ち込んでしまいました。乳牛は毎日、乳絞りをしないと病気になってしまうため、すぐに生産量を落とすのは難しいといいます。このため、生乳が余ってしまったのです。
こうした中、令和3年度も令和4年度も乳価は据え置かれていました。

年度途中の異例の値上げ交渉へ

6月13日、関東の1都6県と山梨県と静岡県で生産された生乳を販売する「関東生乳販売農業協同組合連合会」=関東生乳販連は、これ以上農家の経営を圧迫できないとして、乳業メーカーに対し、乳価の値上げ交渉を行う方針を決めました。
生乳の生産にかかるコストが1キロあたり25円増えているとして、ことし9月から乳価1キロあたり15円、およそ10%の値上げを目標にするということです。この交渉が成立すれば、牛乳1リットルあたり20円から30円の値上げにつながるとみられるということです。
乳価は需要と供給のバランスを見ながら乳業メーカーとの交渉で年度当初に決められますが、途中で値上げの交渉を行うのは異例です。

関東生乳販連 菊池一郎会長
「生乳の生産費が非常に膨らんでいるのにこれまで価格転嫁できなかった。乳製品が余っている中で消費者に値上げの理解が得られるか、乳業メーカーも非常に懸念しているので協議を重ねていきたい」

取材後記

身近な牛乳ですが、知らないことが多く驚きました。特に酪農家が年々減少する中で、将来を見据えて生産量を増やしてきたことが裏目に出ている現状には心が痛みました。今後、値上げ交渉の行方に注目するとともに、影響を受ける小売店や消費者の声も取材していきたいと思います。

  • 櫻井慎太郎

    千葉放送局 記者

    櫻井慎太郎

    2015年入局。長崎局、佐世保支局を経て千葉局。千葉県政キャップとして、行政取材を担当。

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