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立候補者過去最多の千葉・松戸市長選 勝利した現職市長に聞く

  • 2022年06月08日

千葉県内の首長選挙としては過去最多の9人が立候補した松戸市長選挙。票が割れて再選挙の可能性も懸念される中、2位にダブルスコアの2万7千票余りの票差をつけて制したのは、4期目を目指した現職の本郷谷健次氏だった。本郷谷市長はさらなる4年で何をするつもりなのか。市長選を取材して聞いた市民の声を、ぶつけてみることにした。

(千葉放送局 記者 杉山加奈)

4期目を勝ち取った現職

6月7日、松戸市役所には4選を果たした本郷谷市長が登庁し、職員から花束を受け取った。

その後に行われた記者会見で本郷谷市長が強調したのは、これまでの3期12年の取り組みをさらに進めるということだった。

本郷谷市長「継続的に街づくりを進めていきたいと思います。子どもたちにとって将来夢のある街を作っていきたいし、高齢者に優しい街を作りたいし、インフラにも問題があるので、そういうものを整理していきたい」

県内の首長選で最多となる9人が立候補した今回の選挙で、市民はどんなことを期待して票を投じるのか。それを探るため、私は選挙期間中の2日間、投票所の外に立ち、投票を終えた人たちに声をかけて話を聞いた。そこで聞かれた市民の声をどう受け止めるのか、就任の記者会見で市長に聞いた。

市役所の建て替え問題

今回の選挙の争点の1つとなったのは、市役所の建て替え問題だ。
市によると、一番古い本館は昭和34年に建てられ老朽化が進み、4棟のうち別館を除く3棟が旧耐震基準による建築で、特に本館・新館の構造耐震指標が低く大規模地震の際には倒壊の危険性があるという。

松戸市役所本館

市民が市役所に行く機会はそう多くはないため、関心を持つ人は少ないのではないかとみていたが、投票を終えた人たちに話を聞くと、「建て替え方法の違いで、どのくらい費用が異なるのか」など、この問題について関心を寄せる人が多かった。

本郷谷市長は、松戸駅東側に市役所を含めた公共施設を移転して駅周辺を訪れる人を増やし、一度にさまざまな用事が済ませるようにしたいとして、松戸駅東側への建て替えを主張したが、多くの候補は経費を削減できるとして、現在の場所での建て替えを主張していた。

本郷谷市長

「審議会をつくって、もう何年も検討をしていただいています。そろそろ方向を決めて頂き、次のステップに進めれば」

松戸市には賑わいが少ない?!

投票を終えた人たちから次に多く聞かれたのが、「隣の柏市と比べて駅前が寂しい」「流山市のほうが勢いがある」など、近隣の市と比べて松戸市内には商業施設が少なく、街の賑わいが少ないと感じるという声だった。

つくばエクスプレス線の駅周辺に商業施設の建設ラッシュが今も続く柏市や流山市の駅前に比べると、確かに松戸駅周辺は、数十年が経つ古いデザインの建物が多く、活気が少ないようにも見える。
 

本郷谷市長は、松戸駅東側の松戸中央公園一帯に老朽化した公共施設を移転し、新たな街のにぎわいの場所を作る計画や、JR新松戸駅に快速列車を止めて駅前を再開発する計画を進めている。

本郷谷市長

「私が(最初に)市長選に出た時も、市民の方から『流山、柏と比べて勢いがない。何とかしてほしい』という大変切実な訴えがありました。行政として、もっと松戸市の潜在能力を考えよう、可能性のある街なので力を発揮しようとしています。当時と比べれば相当変わってきたという風に私も思ってますし、そう評価してくれる市民もたくさんいると思います」

「しかし残念ながら、50万人の大きな市ですから、なかなか市民1人1人に街が変わってきた実感を持っていただくとか、その内容を理解していただくことは大変難しいということは、今回の選挙戦を通じても感じています。市民への情報提供といった活動の必要性を強く感じています」

子育てしやすい街No.1は本当か?

また、若い世代からは「共働き子育てしやすい街No1の実感が持てない」という厳しい声が聞かれた。松戸市は各種の調査で「子育てしやすい街」として取り上げられることが多いが、その実感がないというのだ。

市役所内の掲示

本郷谷市長はこれまでの任期中、保護者が送迎しやすいように、市内にある全23駅の駅なかや駅前に117か所の「小規模保育施設」を整備して0歳から2歳の子どもの受け皿を確保する政策を進めた。一部の市民からは「子どもの環境よりも親の利便性を追求している」という声も聞かれるが、待機児童の解消につながってはいる。また市内各所には子育ての悩みを相談できる「子育てコーディネーター」が常駐する施設があり、年間の相談は5000件を超えていて、「いつでも気軽に相談ができる」という評価もあるという。

それでも私が聞いた範囲では、まだ足りないと感じている保護者がいたということだ。

「子育ての環境が間違いなく評価されているということは客観的に見て言えると思っています。とは言いながら、保護者が期待する環境を整備するという視点から見れば、まだまだ道半ばであるのは間違いありません。不満が多いのは当然だと思いますし、それはまだまだやらないといけない課題だと思っています」

8人からの挑戦をどうみるか

今回、候補者が多くなったことについては、5か月後にある秋の市議選や、来年の県議選を見据えた人が多かったのではないかと分析する関係者も多い。
 

市民からは「本気で市長を目指しているのかわからない」「市議選にむけて名前を売っているだけではないか」という声も聞かれた。

「多くの現職の市議や県議が辞職して立候補したことは、11月に市議選、来年の4月には県議選があるということを踏まえると一部の市民の疑義を生じていると思います。市民から信頼をなくすようなことはないようにしていただきたい」

議会との関係が課題として上がってきたのではないか、という問いに対しては・・・

「議会との間に大きな溝があるとは思っていない。批判があれば謙虚に受け止めたい」

今回、選管はバタバタでした

今回の市長選では、手を上げる候補者が次々に出てきたため、市の選挙管理委員会は対応に追われた。

候補者のポスターが貼られる掲示板。
当初10人分で予算を組んでいたが、4月半ばに開かれた説明会に14人が出席、その後2人が説明資料を取りに来たことを受けて急遽16人分の掲示板を準備することとなった。掲示板の作成、設置、撤去のために、およそ870万円を増額することになった。

また松戸市は、市長選では、投票用紙に候補者の名前を書く「自書式」ではなく、すべての候補者名を印刷した投票用紙に丸印をつけて選ぶ「記号式」を採用している。このため、投票用紙についても最後まで枠の調整を行うことになった。

このほか今回の選挙では、ポスターがおよそ59万円まで、ビラがおよそ12万円まで、運転手の人件費やガソリン代を含めた選挙運動用車両がおよそ25万円まで、「公費負担」となる予定だ(有効投票総数の1割に届かず、供託金没収の対象になった候補は公費負担は受けられない)。7つ道具と呼ばれる腕章や旗なども前回の4人分と比べて2倍以上準備することとなった。
 

開票の様子

もちろん誰にでも立候補する権利はあるし、複数候補の訴えを聞いて有権者が投票できることが、地域の行政を活性化し、住みよい街づくりにつながっていくと思う。そのための必要経費は、十分確保されるべきだが、一方で、こうした費用がかかったうえで選挙戦が行われていることは、一人一人が頭に入れておく必要があるのではないか。

取材後記

今回の市長選の投票率は37.14%で、過去2番目に低かった前回に比べて7.81ポイント上回ることになった。
6割以上の民意が反映されていないことを考えると依然高い投票率とは言えないが、松戸市選挙管理委員会は、「投票率は顔ぶれや争点、天候など様々な要素に左右される水物だと捉えているが、マスコミが過去最多の候補者と報じたことで注目度が高まったのではないか」と分析する。
次の4年間で本郷谷市長は、松戸市に何を残すのか。道半ばの事業はどれだけ実現できるのか。今後も注視したい。

  • 杉山加奈

    千葉放送局 東葛支局 記者

    杉山加奈

    2018年入局。松戸市政を2年間取材。松戸の好きな場所は、徳川昭武ゆかりの戸定邸とあじさいが有名な本土寺。

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