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ウクライナ避難者 美容師の女性訴え“技術生かして働きたい”

  • 2022年05月20日

異国で生活を続けるため収入が必要なのに、これまで培ってきたキャリアを生かせない。ウクライナからの避難者がいま、日本で直面している壁です。政府は1年間の就労を認めていますが、医師や美容師など一部の職業は、日本で取得した資格がなければ就労できません。家族を守るために、美容師としての技術や経験を生かして日本でも働きたいと願う女性を取材しました。(千葉放送局成田支局 佐々木風人)

マリナ・アズィマさん

テレビで放送していたウクライナのニュースを心配そうに見つめるマリナ・アズィマさん(39)です。
4月、都内にいる友人を頼って娘とともに、首都・キーウから避難してきました。

日本に来てからの1か月、住まいが決まらず、都内や神奈川などの友人の家に身を寄せていましたが、
5月中旬、東京都が無料で提供する都営住宅に入居することができました。

「友達の家やホテルを転々としてきましたが、いまは自宅にいるような感じで、よく眠れて、ほっとしています」

住まいが落ち着いたマリナさんが今、直面しているのが就労の壁です。

キーウの美容室で若手指導をするマリナさん(本人提供)

マリナさんは、キーウにある人気の美容室で20年、美容師として勤務してきました。
多くの顧客を抱え、若手への指導も任されていたといいます。

「これは私のお気に入り。大切な商売道具(ハサミ)です」。

日本でも美容師として働きたいと、マリナさんは避難の際、大切なハサミを荷物に詰め込んできました。
ところが、日本ではこのはさみを握ることができないというのです。

ウクライナからの避難者は、本人が希望すれば、1年間の就労が認められています。
しかし、美容師として働くには、日本の美容師免許がなければなりません。
日本で免許を取るには、少なくとも2年間、専門学校に通わなければならず、今のマリナさんには現実的ではありません。

「日本の免許を取得するために、勉強し直す時間とお金はありません。日本のルールを理解し尊重していますが、日本でも美容師としてすぐに働ける仕組みがあればいいと思います」

美容師として働くことができない中、2人の暮らしをどう守るのか。
頼みの貯金は、ロシア軍の侵攻以来、およそ3か月に及ぶ避難生活でほぼ取り崩したといいます。

冷蔵庫など家財道具は、都から無料で提供を受けられましたが、光熱費や食費などは自分たちで支払わなければなりません。

ウクライナに残った夫は今回の侵攻で仕事を失い、頼ることはできません。
自分が早く働かなければ、娘との避難生活が立ちゆかなくなると、不安を募らせています。

「お金が必要なので仕事を選ばす何でも覚えるつもりですが、できれば20年の経験がある美容師として働きたいです」

ウクライナから日本に逃れた避難者は今月18日時点で1000人近くにのぼり、今も増え続けています。
政府の方針を受けて、各地で受け入れが進んでいますが、生活の基盤となる就労をどのように支援していくのか、新たな課題になっています。

取材後記

マリナさん親子が、避難の際にキーウから持ってこられたのは、スーツケースたったひとつです。マリナさんがその中から大切そうに取り出したのが、長年愛用してきた、商売道具のハサミでした。ハサミは日本製。修理する時には、わざわざ日本のメーカーに郵送して直してもらうほど、大切に使っていたといいます。
「毎日ハサミに触っていないとイヤ」。初めてマリナさんと話したとき、マリナさんは私にこう言いました。美容師として働いていたときの様子を撮影した動画を見ると、そう話した意味がわかりました。第一線の美容師として、カッコいいサロンで生き生きと後輩に教える姿。美容師として働くことは、娘との生活の基盤の確保のためだけでなく、マリナさんの一部なのだと思いました。
紛争から逃れる人に対して「冷たい」と言われてきた日本が、今回、ウクライナからの避難者を積極的に受け入れる方針を打ち出したことは、大きな変化だと思います。一方、人を受け入れるというのは、入国を認めるということだけではないはずです。祖国を離れざるを得なかった人たちを受け入れるということはどういうことか、問い直す必要があると思います。

  • 佐々木風人

    千葉放送局成田支局

    佐々木風人

    新聞社を経て、2018年入局。ウクライナから避難してきた人たちが地域でどう暮らし、どんなサポートが必要なのか、引き続き取材します。

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