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新人看護師が退職 コロナ禍の医療現場で何が

  • 2022年04月08日

新年度が始まって社会人になり、新型コロナの最前線で働く医療従事者として新たな1歩を踏み出した人も多いと思います。そうした方たちに気になる数字が公表されました。新人看護職員の離職率は、令和2年度、8.2%だったことが日本看護協会の調査でわかりました。この1年で、およそ3割の新人看護師が退職した千葉県内の病院を取材すると、新型コロナの影響が背景にあることが見えてきました。

(千葉放送局 記者 福田和郎)

新人看護師3割退職 何が

千葉労災病院(千葉県市原市)

千葉県市原市にある千葉労災病院では、昨年度52人の新人看護師を採用しましたが、この1年間でおよそ3割にあたる15人がすでに退職しています。病院によりますと、例年の3倍の多さで背景には新型コロナの影響が強くあるといいます。

看護師は通常、学生時代に病院実習などを積んで医療現場に入りますが、コロナ禍で卒業した新人は実習を十分に経験できないまま仕事に就かざるをえませんでした。このため現実とのギャップにつまづき、離職するケースが相次いでいるといいます。

千葉労災病院 青田孝子副院長

千葉労災病院 青田孝子副院長
「これだけ多くの退職者が出たのは初めてで危機感を感じています。自分がやっていることはこれでいいのかとか忙しそうな先輩に声をかけられず、過度に緊張していることがあります。実際の患者さんから学ぶこともあるので、学びの機会が少ないのはマイナスだったと思います」

離職率横ばいも 背景にコロナ

日本看護協会「2021年病院看護・外来看護実態調査」

日本看護協会は全国8200あまりの医療機関を対象に去年3月までの1年間の離職状況について調査を行い、およそ3割にあたるおよそ2660から回答を得ました。それによりますと、新卒で採用された新人看護職員の離職率は8.2%で、前の年度を0.4ポイント下回りほぼ横ばいとなりました。関東地方では、茨城県と千葉県を除く1都4県が全国の平均を上回りました。

新卒採用者の離職率
・栃木 15.0%
・東京 10.6%
・群馬 9.0%
・埼玉 8.7%
・神奈川 8.6%
・茨城 7.8%
・千葉 6.4%

日本看護協会
「コロナ禍の新人看護師は、現場での実習を通じた学習の機会が不足し、みずからが思い描く看護が実践できない無力感や不安を抱えていることが懸念される。こうしたリアリティ・ショックは離職の原因となっており、支援が必要だ」

医療現場ならではのストレスも

新人看護師の高橋舞美さん

さらに、コロナの影響は職場以外でも心理的なストレスを強める要因になっているといいます。
千葉労災病院で働く新人看護師の高橋舞美さん(22)は、この1年、休みはありましたが、宮城県にある実家に帰省することも友人と旅行に出かけることもしませんでした。ウイルスを院内に持ち込まないよう休みの日でも不要な外出は控えるよう病院から求められていたためです。医療機関としてやむを得ない対策だと理解していますが、慣れない職場に加え、休み日でも気が休まらない環境にストレスを感じているといいます。

高橋さん

「やっぱり窮屈感があります。やめていった仲間もいますが、正直いうと、つらかったこともあります」

高橋さんも学生時代、実習を十分に受けることができませんでした。予定されていた実習の3分の1が、学内での模擬演習になりました。模擬演習は、学生どうしが看護師役と患者役になって看護技術を学ぶものです。しかし、現場に出てみると、実際の患者への看護との違いを感じているということです。

「それぞれの患者さんにあった看護を考えなくてはいけないので、学内の摸擬演習ではイメージがつきにくく、どのように看護をすればいいのか困ったこともありました。それでも先輩の指導によって1人でできるようになったこともあり、成長を自覚できるので働くモチベーションになっています」

千葉労災病院「あたたかく迎えたい」

千葉労災病院の研修プログラム

このため病院では、例年およそ10日間ほどだった研修を、5月の大型連休明けまでのおよそ1か月間に延ばしました。先輩看護師や同期とのコミュニケーションを図る時間や1人の先輩に同行して業務にあたりながら技術を学ぶ「シャドー研修」を増やしたということです。

この病院では、この春から新人看護師42人が働き始める予定で、引き続き、実習不足を補うため研修期間を長くするほか、休日の行動制限を緩和するなど丁寧なサポート体制を整えることにしています。

千葉労災病院
青田副院長

「新人看護師が孤立しないようこれまで以上に支援し、職場に根づけるようサポートしていきたい。4月に新人を迎えて顔を見てやり取りをするあたたかい感覚と自分たちがやれることやっていいんだよというメッセージを伝えたい」

取材後記

千葉労災病院の副院長が、多くの新人が辞めてしまったことについて、非常に悔しい思いをしている様子が印象に残りました。1日でも1年でも長く一緒に働く仲間として受け入れて、準備を進めていました。一方で、コロナの最前線である医療現場に希望を持って飛び込んだ新人看護師たちも不安やストレスを抱えて、大変な思いをしたのだと思います。将来の医療現場を担う新人看護師が辞めてしまうことは、私たちにとっても大きな損失です。コロナ禍で医療現場が抱える課題は多いですが、こうした若手に目を向けることは、将来につながっていると考えて支援を進めてほしいと思います。

  • 福田和郎

    千葉放送局 記者

    福田和郎

    平成18年入局。警察取材を担当。新型コロナの現場も継続的に取材。

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