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「ててて!とまって!」を作ったわけ 交通事故から7歳を守る

  • 2022年03月28日

NHKではこの春、“7歳”の子どもを交通事故から守る歌「ててて!とまって!」を作りました。この歌では、「くるま!」「とまって!」「サンキュー!」など、子どもでもわかりやすい言葉を使いながら、「安全な横断歩道の渡り方」を伝えています。なぜ“7歳”なのか、どうしてこの歌を作ったのか。そのわけをご紹介します。

 (首都圏局/ディレクター 竹内はる香)

 

「ててて!とまって!」通学路の子どもを守る交通安全ソング

「ててて!とまって!」の動画はコチラ

歩行中の交通事故 もっとも危ない“7歳”

みなさん、このグラフをご覧になったことはありますか? 
国内で歩行中におきた交通事故の、死傷者数(10万人あたり)を示したデータです。あらゆる年齢の中で、7歳の子どもが突出して交通事故に巻き込まれているのがわかります。
この傾向は、数年来変わっていません。
この事実を知り、何かできることはないかと取材を始めました。

なぜ7歳が? 3つの理由

そもそもなぜ、7歳時の死傷者数がこんなに増えてしまうのでしょうか。子どもの交通行動や心理に詳しい、日本自動車研究所の主任研究員、大谷亮さんに聞いてみました。

大谷 亮さん

【理由1】行動範囲が一気に広がる

大谷さん
「7歳というのは、小学1年生から2年生のお子さんの年齢です。幼稚園や保育所の頃は保護者の方が送り迎えをしてくれていましたが、小学生になると自分の足で学校へ行き、家へ帰ってくるという状況になります。つまり、一人で行動する範囲が一気に広がるんです。その分、事故に遭うリスクが急激に高まってしまうことが考えられます」

【理由2】衝動的な行動をしがち

大谷さん
「また、この年頃までのお子さんは、何か魅力的なものを見つけると、後先を考えずに衝動的な行動をしてしまう傾向にあります。例えば、道の向かい側に友だちやお母さんお父さんがいたら、安全を確かめずについ道路に飛び出して、車とぶつかってしまう、などのケースが多く見られます。

さらに理由1にも通じますが、7歳のお子さんたちは一人で歩くといった経験をし始めたばかりなので、『町じゅうのものが目新しく感じる』ことも、関係していると考えられます。大人にとっては当たり前の風景でも、子どもにとっては“初めて見るもの”“興味をそそられるもの”でいっぱい。つまり、衝動的な行動につながってしまうきっかけが、そこかしこにある環境で歩いている、とも言えます」

【理由3 】「危険」の予測が難しい

大谷さん
「例えば、道路を渡ろうとしている時、大人からすると、車が近づいていていかにも危険な状況なのに、子どもは走って渡ろうとしたりすることがありますよね。これは、『いま道を渡ると、近づいてきた車とぶつかってしまうかどうか』を適切に予測できず、誤った判断をしてしまっているからと考えられます。

実際に、大人に比べて子どもは、走ってくる車の速度や、自分のいる位置と車がどれくらい離れているかを、見極めるのが苦手だと指摘する研究もあります」

7歳の交通事故 7割が道路横断中

中でも、子どもたちが事故に遭いやすいのは「道路の横断中」です。
2020年の統計によると、歩行中に交通事故に遭った7歳の死傷者719人のうち、その7割以上が道路横断中だったことがわかっています。その背景には、「道路を“安全に”横断する」という行為がそもそも複雑だということ、そしてこの年頃の子どもにとってそれを実践するのが非常に難しいことが関係しているのではないかと、大谷さんは指摘します。

大谷さん
「想像してみてください。道路を横断するには、横断歩道を探して、右を見て安全を確認し、左を見て安全を確認し、交差点の場合では前や後ろも安全を確認し、周囲の安全が確認できたら、走らず、歩いて渡る。渡っている間も、安全を確認しながらなど、かなり多くの動作を行っていますよね。私も、小学校1年生向けに交通安全の授業をしたりするのですが、この動作の多さに苦戦している様子をよく見ます。

また、動作の順序を覚えられても、今度は動作をするだけで精いっぱいになってしまって、いちばん肝心な『安全の確認』ができないんですね。『右左右!』とすばやく首を振った後、車が近づいてきているのに道を渡ろうとしてしまうお子さんもいます」 

歌って覚える 道路横断3つの基本 

すべき動作が多く、複雑な道路横断の方法を、トライ&エラーで学んでいく子どもたち。でも、一つのエラーが大きなケガや不幸な死につながってしまうこともあります。
そこで、今回の交通安全ソング「ててて!とまって」では、“7歳”の子どもには判断が難しい要素を極力減らし、道路を渡るときの基本を3つのフレーズで伝えることにしました。

お子さんたちにぜひ覚えてもらいたいのは、この3つです。

フレーズ1 「くくく くくる! くるま!」

横断歩道を渡るとき、まずは車が来ているか来ていないか、見てみよう。
「安全の確認」などのあいまいな表現を避け、「“車”という具体的な対象が、いるかいないかを確かめよう」という、子どもにもわかりやすい行動をフレーズにしました。

フレーズ2 「ててて ててて! とまって!」 

車が来ていたら、手をあげて「とまって!」の合図を届けよう。
渡る前には、車を必ず止める。止まらなければ、渡らない。

フレーズ3 「サンキュー!」

止まってくれたら、運転手さんにお礼をして渡ろう。

この3つの歌詞を繰り返し歌うことで難しいことを考えなくても安全に横断歩道を渡る術を身につけて欲しいと願っています。

全国の成功事例を取り入れた 「とまって!」「サンキュー!」 

こんなシンプルな手順でほんとうに安全に渡れるの?と思った方もいらっしゃるかもしれません。
この「とまって!」や「サンキュー!」は、全国の交通安全指導の現場で評価されている最新の取り組みなどを参考にしています。

「とまって!」の元となったのは、三重では「ハンドサイン」、京都では「合図横断」と呼ばれる取り組みです。どちらも、「信号のない横断歩道では、横断前に手をあげ、ドライバーに合図をして渡る」というもので、昨年からこうした活動が各地で始まっています。

信号のない横断歩道に人がいるとき、車は止まらなければならないのがそもそものルールですが、JAF(日本自動車連盟)の調査によれば、実際に停止している車は3割程度しかないことが分かっています。少しでも止まる車を増やし、歩行者がより安心して道路を渡れるようにと、この取り組みが広がっています。

手をあげる効果については、三重県警が信号のない横断歩道で調査しています。歩行者が手で合図をしなかった場合の車の一時停止率は37.4%でしたが、手で合図をしたときには85.1%まで上がりました。運転手に横断の意思を積極的に伝えることで、車が止まってくれる確率が大幅に上がり、より安全に道を渡れることを示す結果となりました。
また京都では、「運転手さんに手のひらを向けて合図しよう」と、府内40以上の幼稚園や保育所などの子どもたちに教えて回りました。各園の職員や保護者などからも合図の有効性が評価され、子どもに継続して教えていきたいと評判を呼んでいます。

一方、「サンキュー!」の元となったのは、長野の事例です。

長野県は、JAF(日本自動車連盟)が実施している「信号機のない横断歩道における車の一時停止率」の調査で、例年日本一になっています。

その長野で古くから根づいているのが、「横断歩道で車が止まってくれたら、おじぎをする」文化です。
小さい頃から「どうぞ渡って」「ありがとう」というコミュニケーションを運転手と行っているため、大人になって自分が運転手になった時にも「どうぞ」と自然に道を譲りたくなる。そんな良い循環があるそうなんです。

全国の事例を取材していく中で強く感じたのは、交通事故を防ぐために、「歩行者とドライバーのコミュニケーション」はとても大事だということです。道路を渡るとき、子どもは合図することで、ドライバーに自分たちの存在に気付いてもらう。それを積み重ねていけば、ドライバーの側も常に子どもたちの存在を意識しながらハンドルを握るようになるのではないか。そんな環境が広がってほしいと願い、この歌でも「ありがとう」のコミュニケーションを呼びかけています。

子どもたちのために 私たち大人ができること

NHK首都圏局では、子どもたちを交通事故から守るための情報を発信しています。
これからも、この「ててて!とまって!」を活用した子ども向けの出前授業を行ったり、ドライバーである大人向けにも、放送やWEB記事などで情報を発信していきます。
子どもたちのためにできること。一緒に考えていただけたらうれしいです。

まずは… ててて ててて! とまって!
 

がっこうのいき・かえり

登下校時に事故に合わないよう、
お子さんにご覧いただきたい動画をまとめました

  • 竹内 はる香

    首都圏局 ディレクター

    竹内 はる香

    2010年入局。長崎局、制作局を経て首都圏局。小学1年生の時、ななめ横断をしたのが親にバレて、とっても怒られました…。

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