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千葉の新名物 江戸前オイスター 温暖化で変わる東京湾の養殖

  • 2021年11月30日

「江戸前オイスター」と名付けられた千葉県産のカキの人気が高まっています。生産が始まったのは3年前のこと。当初は産地の木更津や富津でしか食べることができませんでしたが、身入りがよく、ジューシーで濃厚な味わいが評価され、県外にも出荷されるようになりました。この新たな特産品開発の舞台裏には、海水温の上昇など海の環境変化で、のり養殖の不作が続く状況がありました。

江戸からの伝統 千葉ののり養殖

千葉県産 江戸前ののり

江戸時代、幕府への献上品だったのり。鮮度よく上質な品の生産が求められたことから、「江戸城の前の海」、江戸前=東京湾でののり養殖が始まりました。千葉県では文政5年(1822年)に現在の君津市から内房の漁港に広まります。昭和30年代後半、大森など東京でののり養殖が港湾整備の影響でなくなる中、200年にわたって伝統を受け継いできた千葉ののり養殖。現在は木更津・富津がその中心地になっています。

おかかを芯にした細巻「鉄砲巻」

そんな地元ならではののり料理がこの「鉄砲巻」。しょうゆをまぶしたかつお節を具にした細巻です。「色良し、味良し、香り良し」と3拍子そろったおいしいのりだからこその食べ方です。

地球温暖化がもたらしたのり衰退の悪循環

そんな江戸以来の伝統を持つ千葉ののり養殖ですが、ここ数年で急速にその生産量を減らしています。2019年度の生産量は約8400万枚、この10年で、じつに4分の1にまで減少してしまったのです。

不漁の引き金となったのは海水温の上昇でした。海水中の栄養分や潮の流れなど、さまざまな要素に左右されるのりの成長ですが、海水の温度も重要な要素。これまで富津ののりが豊作の年は海水温が例年より低めであることがわかっていますが、ここ5年ほどは海水温がそれまでより2~3℃高い状況が続いています。この海水温の上昇はのり以外の海藻にも影響し、それまで魚たちのエサとなっていた天然の海藻がほとんど見当たらなくなりました。

クロダイ

エサに困った魚たちが標的としたのが養殖ののりでした。それまでは東京湾の温度が下がると暖かい海を求めて南下していたクロダイが湾内に居座るようになり、手塩にかけたのりを食べつくしました。あす収穫しようと思っていたのりが一晩でなくなるということもあったといいます。防護ネットを張るなどの対策も行いましたが、そもそものりの育ちが悪いこともあり収入は激減。のり専業で行う漁師が多い富津ではまさに死活問題に追い込まれました。

のり漁師の救世主!江戸前オイスター

富津産のかき <江戸前オイスター>

「このままのり養殖に頼りきりでは生き残れない」。そう考えた地元の漁業組合が新たに取り組んだのがかきの養殖でした。荒川や江戸川など様々な河川が流れ込む東京湾は、栄養が豊かで、かきの養殖にも適しているのではないかと考えたのです。

富津の海で生まれたかきの稚貝を集め、専用のかごに入れて、沖合ののり養殖場に吊るします。かごを使った養殖は手間こそかかるものの、波の力でぶつかり合ったかきの殻はカップと呼ばれる丸く膨らんだ部分が深くなり、小ぶりながら身入りのよい、肉厚のおいしいかきに育つと言います。

下側のふくらみが「カップ」

そのねらいが見事的中。生産開始からわずか3年ですが、東京のフランス料理店や横浜のすし店などからの注文が入るようになりました。

かき養殖に切り替えた漁師 大草茂さん

「のりを廃業してかきに携わることになったんですけどね。それがなければ全くの無職になってたんですね。本当にありがたいなと思ってます。」

かき養殖の成長をのり養殖の復活につなげたい

環境の変化に対応し、最適な海産物を選択することで廃業の危機を乗り切った富津の漁師たち。これまでは春先と秋~冬の年2回出荷してきましたが新品種を取り入れて通年出荷を目指すなど、かきの生産をさらに拡大しようとしています。

一方で、200年続いたのりの養殖もあきらめるわけにはいかないと言います。

のり漁師 小泉晴信さん

「やっぱりこうやってかきを始めて、それによってまたのりの方も、どんどんチャレンジしていく。そういうことを続けることによって漁業の未来っていうのは開けていくのかなと思います」

以前から、高水温でも育ちやすいのりの品種を開発するなど、温暖化対策を進めてきた千葉県。江戸前のりの伝統を未来の残すための努力が続きます。

 

【この話題を教えてくれた人】

かずさエフエム代表 石村比呂美さん

<かずさFM>
千葉県木更津市のコミュニティFM局。「平日はジモット情報(地域情報)を中心にHOTで元気に! 休日は観光大使としてかずさ地域をCool&ファッショナブルにPR!」をコンセプトに上総(かずさ・千葉県中部)の話題を日々放送中。

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