安倍氏国葬報告書 賛否両論“一定意義”“対立しこりを残した”

安倍元総理大臣の「国葬」について、政府による有識者への意見聴取の報告書が公表されました。業績を残した総理大臣経験者への国の礼遇として一定の意義があったとする肯定論の一方、弔意の表明は個人が判断すべきで国民の間に対立としこりを残したという否定的な意見など各論点で両論に分かれています。

ことし9月の安倍元総理大臣の「国葬」について、政府は、経緯などを検証するため、10月から今月にかけて、憲法や行政法など各分野の有識者21人を対象に意見聴取を行い、12月22日にその結果を報告書として公表しました。

【「国葬」実施の意義】

大きな業績を残した総理大臣経験者への国の礼遇で、国民が心を合わせて安倍氏をしのぶことに一定の意義があったとする肯定論の一方、弔意の表明は個人が判断すべきで国民の間に対立としこりだけが残る負の遺産を生んだという否定的な意見が出ました。

【法的根拠】

行政権の行使であり、法律上の根拠は必要なく、閣議決定に基づいて行えるという意見の一方、民主主義社会における重要事項であり、法律上の根拠は必要だという意見が出されました。

【国会との関係】

▽内閣が裁量で行い、国会への説明は事後でよいという意見の一方、▽幅広いコンセンサスを得るため、国会の事前の関与が望ましいという意見が出されました。

政府は、報告書を踏まえ今後「国葬」を実施する場合のルールを設けるかどうかなど、対応を検討します。

今回の報告書には「法的根拠と憲法との関係」「実施の意義」「国会との関係」「国民の理解」「対象者」「経費や規模の妥当性」「その他」の各論点ごとに有識者の意見が整理されています。

このうち法的根拠、実施の意義、国会との関係の論点以外です。

【「国葬」の対象者をどう判断するか】

▽ルールの策定は困難で、それぞれのケースに応じた柔軟な対応が必要だという意見や、▽いくつかの基準を与野党合意で定めておくべきだという意見が出されました。

【経費や規模の妥当性】

▽予備費の使用と既定経費の範囲内であれば問題視することはなく、妥当な規模だったという肯定的な意見の一方、▽全額税金から支出したことには重大な疑問があり、家族や所属政党にも一定の支出を求めるべきだという否定的な意見が出されました。

【国民の理解得るために どのようなプロセス経るべきか】

▽政府が日々の記者会見などで説明を行ったことは適切かつ当然と評価するという意見の一方、▽国民が「国葬」のイメージを持てず、不信感が生じたため、式次第や内容について丁寧に説明すべきだったという意見も出されました。

【「その他」の論点】

「国葬」に際して弔旗の掲揚や黙とうによる弔意の表明を各府省に求める閣議了解が見送られたことをめぐり、▽個々人から湧き出る弔意によるべきもので適切だったという意見の一方、▽国として最高の礼遇を意味する「国葬」で協力を求めなかったのは適当ではないという意見もありました。

「国葬」費用“概数値”も公表 見通し額を下回る

政府は、報告書の公表に合わせ、今回の「国葬」の費用が11億9900万円余りだったとする概数値も公表しました。

ことし10月には、12億円台半ばという見通しを速報値として示していましたが、これを下回りました。

政府は、来年秋ごろに確定値を公表することにしています。

官房長官「多様で幅広い意見 論点が整理できた」

松野官房長官は記者会見で「有識者からそれぞれの専門の立場で非常に多様で幅広い意見を出していただき、論点が整理できたと考えている」と述べました。

そのうえで「今回の論点整理を何らかの形で国会にも届けたいが、取り扱いは国会で検討いただくことになると考えている。今後のスケジュールや一定のルールのあり方について現時点で予断を持つことなく、まずは今回の論点整理も踏まえどのような手順を経るべきか引き続き検討していきたい」と述べました。