全国旅行支援 10月11日から開始 旅行代金40%割引 クーポン券も

国が全国を対象に導入する新たな観光需要の喚起策「全国旅行支援」。コロナ禍で大きな影響を受けた観光業界を支援するため、11日から始まります。感染対策を徹底しながら観光需要を後押しして、地域のにぎわいの回復につなげられるかが焦点です。
その支援の内容や申し込み方法、そして課題をまとめました。

全国共通で受けられる支援は

国が示している期間は、2022年10月11日から12月下旬までです。

補助金による割引率は旅行代金の40%で、その上限は、
▽鉄道やバス、飛行機など交通手段とセットになった旅行商品は1人1泊あたり8000円まで、
▽それ以外は日帰り旅行を含め5000円までとなっています。

あわせて、行き先の都道府県内の土産物店などで使えるクーポン券が、1人1泊あたり平日は3000円、休日は1000円もらえます。

大人だけでなく、原則、子どもも対象となります。

利用の条件として、新型コロナのワクチンの3回接種か、検査による陰性証明の書類を提示する必要があります。

ただ、住んでいる都道府県内で旅行する場合は、知事の判断で2回のワクチン接種にすることも可能だとしています。

1回の旅行に対し7泊分までが補助の対象で、期間中は何回でも活用できます。

詳細は都道府県ごとに決定

一方、おととし国が主体となって実施した「Go Toトラベル」と異なり「全国旅行支援」は都道府県が事業の主体となっています。

国は地域の実情に応じた実施を可能にしたとしていて、詳しい内容はそれぞれの判断に委ねられていて、例えば東京都は感染状況の判断などが必要だとして11日ではなく20日からの実施になるとしています。

また、クーポン券の受け取り方も各都道府県に委ねられているほか「全国旅行支援」にあわせ独自の支援策を打ち出している自治体もあります。

観光庁は全国の事務局のホームページを一覧にして参考にするよう呼びかけていますが、7日時点でも「決まり次第公表」という自治体が複数あります。

申し込み方法は?

「全国旅行支援」の補助を受ける際の申し込み方法も、都道府県ごとのホームページなどで確認する必要があります。

宿泊施設や旅行プランが支援対象となっている場合、一般的には旅行会社などを通じて申し込む方法や、宿泊施設に直接、申し込む方法があります。

チェックインの際に本人確認ができるものやワクチンの接種済証といった必要書類を見せ、クーポン券を紙やスマートフォンなどで受け取ります。

混乱や不正の調査の実効性に懸念も

支援の大枠以外は全国一律に決められたルールがない中で、旅行会社などからは複数の都道府県をまたいで旅行する場合などに混乱が生じるのではないかとの指摘も出ています。

また、「Go Toトラベル」では国が設置した事務局による調査で旅行会社や宿泊施設による給付金の不正受給が相次いで発覚しましたが、「全国旅行支援」で不正が疑われるケースがあれば都道府県の事務局が調査を担うことになり、実効性を懸念する声もあがっています。

専門家に聞く「課題」

観光需要の回復が期待される一方で、課題もあります。
観光分野に詳しい日本総合研究所の高坂晶子主任研究員に聞きました。

Q.日本の観光業の課題は何だと考えていますか?。
A.日本の観光地は週末など休日だけ忙しく、それ以外の平日は暇な時期が多いという構造になっている。繁忙感の高い日が集中するため、需要を平準化することが重要だ。外国人観光客は曜日に関係なく平日も訪れるため、需要の平準化につながることが期待できる。

Q.人手を確保するには、従業員の待遇改善が欠かせないと思うが、そのためにはどうすればいいか。
A.事業者がしっかりと利益を確保して、人材の賃金に回す仕組みをつくることだ。日本は、海外に比べると宿泊・飲食にかかるコストが廉価だ。一方で品質は、維持できているので魅力的な観光地となっているが、やはり、無理をしている部分もあり、利益が上がりにくい経営体質になっている。価格を上げて、適正な利益を確保し、それを従業員の賃上げなどにつなげる必要がある。

Q.対面の接客が主となる観光サービスで、生産性をあげるにはどうしたらいいか。
A.観光や接客といった分野でもデジタル化が重要だ。観光業というと、人と人が接するサービスが重きを占めてきたが、だからといって、すべてをマンパワーに頼ることはない。チェックインの自動化など最新の設備を取り入れることは効果的だ。そのためには、それ相応の資金が必要なので、政府はそういった分野への支援を行う必要がある。

Q.政府は新たな観光需要の喚起策、「全国旅行支援」を始めるが、どういった効果が期待されるか。
A.新型コロナの感染拡大以降、自粛ムードが広がり、あまりおおっぴらに旅行をしてはいけないのだと考えている人も一部ではいたと思う。政府の支援は、「観光してもいい」、「旅行して楽しんでもいい」と消費者の背中を押すという意義も大きいと思う。

Q.以前のGoToトラベルは「感染拡大を招いたのではないか」といった批判もあった。今回は懸念はないか。
A.「全国旅行支援」は、例えば、ある自治体で感染が急拡大をした際に、中止できるなど自治体の裁量が大きく自由度もあるので、そこは望ましいと考えている。一方で制度の窓口となる旅行会社は、自治体それぞれと手続きを行う必要があり、大変な事務作業を担うことになる。手続きはできる限り統一化して、事業者に過度な負担がかからないようにする方法も検討すべきだったと思う。

Q.こうした需要刺激はいつまで続けるべきか。
A.逡巡している消費者の背中を押すことが重要であり、むやみやたらに長く続けるのは望ましいことではない。公金を使うのだから、何回も行く人と全く行かない人で不公平が生じるという指摘もある。効果が出てきたら思い切って幕引きを図ることが必要だ。日本の観光地には十分、競争力があり、需要を喚起できれば、そのあとは支援がなくても十分自立ができる。“旅行へ行くきっかけをつくる”という意味で順調に全国旅行支援が進むことを期待している。