国葬めぐり与野党が議論 賛否分かれる 旧統一教会との関係も

安倍元総理大臣の「国葬」をめぐり国会では9月8日、岸田総理大臣が出席して閉会中審査が行われました。

野党側は国葬を行う基準がない中、閣議決定で実施を決めたのは問題だなどと追及したのに対し、岸田総理大臣は安倍氏が憲政史上最長の8年8か月、総理大臣を務めたことなどを理由に実施を決めたと説明し理解を求めました。

各党の質問と岸田総理大臣の答弁のポイントをまとめました。

岸田首相「『国葬儀』適切だと判断」

9月27日に行われる安倍元総理大臣の「国葬」をめぐって、8日午後、衆参両院の議院運営委員会で各党の質疑が行われました。

最初に岸田総理大臣が、実施を決めた理由について安倍氏が憲政史上最長の8年8か月にわたり総理大臣を務めたことなど4つを挙げ「『国葬儀』を執り行うことが適切だと判断した」と説明しました。

そのうえで「国として葬儀を執り行うことで安倍氏を追悼するとともに、わが国は暴力に屈せず、民主主義を断固として守り抜く決意を示していく。合わせて来日する各国要人と集中的に会談を行い、安倍氏が培った外交的遺産をしっかり受け継ぎ、発展させる意思を内外に示す」と述べました。

費用は「16.6億円程度」 改めて説明

続いて、松野官房長官が国民一人ひとりに弔意の表明を求めるものではないことや、およそ2億5000万円の予備費の支出や、警備や海外要人の接遇に必要な費用など合わせて16億6000万円程度を見込んでいることなどを改めて説明しました。

このあと、各党の質疑が行われました。

自民 盛山正仁氏

Q.経費は適切なのか?
自民党の盛山正仁氏は「多くの人にとって2億5000万円という経費は想像を超える金額だが、過去の『内閣・自民党合同葬』などと比べて適切なのか。当初から警備費や接遇費を含めた総額を発表するべきだったのではないか」と質問しました。

A.過去の行事と比べても妥当な水準
岸田総理大臣は「2億5000万円は政府が関わった過去の葬儀との比較において、式典費そのものの経費として明らかにさせていただいた。過去のさまざまな行事などとの比較においても妥当な水準だと考えている。指摘を謙虚に受け止め引き続き説明に努めていきたい」と述べました。

立民 泉代表

Q.内閣葬にすべきでは?
立憲民主党の泉代表は「この国葬決定は誤りだ。総理大臣と内閣だけで決められるのか。強引な決定方法に反発が起きている。佐藤栄作元総理大臣は当時、戦後最長の在任期間でノーベル平和賞も受賞したが国葬ではなかった。独断・分断の国葬ではなく内閣葬にすべきだ」とただしました。

A.国内外の情勢に基づき判断 国葬があるべき姿
これに対し、岸田総理大臣は「説明が不十分だったことは謙虚に受け止め丁寧な説明を続けていきたい。一つの基準を作ったとしても、国際情勢や国内情勢に基づいて判断しなければならない。これが現実だ。その時々、そのつどつど、政府が総合的にどういった形式をとるのかを判断する。これがあるべき姿だ」と述べました。

続いて旧統一教会との関係についても議論がおよびました。

Q.なぜ調査対象から安倍氏の事務所外しているのか?
旧統一教会と自民党の関係について「安倍元総理大臣はキーパーソンだったのではないか。なぜ党の調査対象から安倍氏の事務所を外しているのか。また、地方議員も対象から外されている」と調査すべきだと主張しました。

A.亡くなった今、確認には限界がある
これに対し、岸田総理大臣は「安倍氏本人が亡くなった今、確認するには限界があるという認識に立っている。また、地方議員についても今後、社会的に問題が指摘される団体との関係を持たないという党の基本方針を徹底してもらうことになる」と述べました。

維新 清水貴之氏

Q.国葬の基準を定めるべきでは?
日本維新の会の清水貴之氏は「国葬の基準を定めるべきではないか。今回、岸田総理大臣は理由として憲政史上最長の8年8か月総理大臣を務めたことなど4項目を挙げているが、今後の前例や基準になるのか」と問いました。

A.国葬のあと検証行う
岸田総理大臣は「将来においては時の内閣が適切に総合的な判断をしなければならない。ただ、今後の議論に資するという観点から今回葬儀を行ったあと検証を行い、予算などについてもしっかり確認することが重要だ」と述べました。

公明党 浜地雅一氏

Q.警備手薄 あってはならない
公明党の浜地雅一氏は「万一、警備を怠るようなことがあればかえって日本の国益を損ねる。警備体制の万全さを今回の国葬で世界に示すことは大事で、費用の批判をかわすために手薄になることは絶対にあってはならない」と指摘しました。

A.警護体制強化し 安全かつ円滑に執り行う
岸田総理大臣は「安倍氏の事件を受け、警察庁の検証結果を踏まえ警護体制の抜本的な強化が図られた。『国葬儀』や来年のG7サミットなど重要な行事が続くため、国民の理解と協力を得つつ警護体制を強化し、安全かつ円滑に執り行っていきたい」と述べました。

共産 仁比聡平氏

Q.憲法に違反する 今からでも中止すべき
共産党の仁比聡平氏は「岸田総理大臣は故人に対する敬意と弔意を国全体として表す、これが国葬だと言った。国民全体に事実上弔意を求めて内心の自由を侵すことは憲法に違反する。今からでも中止すべきだ」と求めました。

Q.内心の自由が侵害されることはない
岸田総理大臣は「国民一人ひとりに喪に服することを求めるものではないことを強調させていただいている。『国葬儀』の実施によって内心の自由が侵害されることはない」と述べました。

国民 浜野喜史氏

Q.国民に追悼呼びかけは自然なことでは?
国民民主党の浜野喜史氏は「国民にともに追悼しようと呼びかけるのは自然なことではないか。それが弔意表明の強制につながりかねないから呼びかけをしないという説明は通らない」と指摘しました。

A.弔意の強制という誤解招かぬよう説明続ける
岸田総理大臣は「国民とともに弔意を表明することは大変重要だ。ただ、弔意を強制するものなのではないかという声があるのでそうした誤解を招かないよう、丁寧に手続きや説明を続けている。多くの国民とともに弔意を示せる『国葬儀』にしていきたい」と述べました。

〈その他〉参列する外国の要人は?
また、岸田総理大臣は、参列する外国の要人について、
▽アメリカのハリス副大統領、
▽インドのモディ首相、
▽オーストラリアのアルバニージー首相、
▽シンガポールのリー・シェンロン首相、
▽ベトナムのフック国家主席、
▽EU=ヨーロッパ連合のミシェル大統領、
▽カナダのトルドー首相などが、
参列の意向を示していることを明らかにしました。
そして、世界のおよそ260の国・地域や機関から1700件以上の弔意のメッセージが寄せられ、国民全体への哀悼の意が示されていることを紹介し「国として礼節を持って丁寧に応えるためにも『国葬儀』を執り行い、海外要人を迎えることが適切だと判断した」と述べました。

〈その他〉要人移動で交通規制は?
一方、松野官房長官は外国要人の宿泊場所から会場の日本武道館などへの移動に伴い、首都高速道路や一般道で必要な交通規制が行われる見込みだと説明しました。

また、国葬の実施後に記録集を作成するとともに公文書管理法に基づき、作成した公文書を適切に保存する考えを示しました。

各党の反応は

自民 高木国会対策委員長 「理解が深まったのでは」

自民党の高木国会対策委員長は記者団に対し「岸田総理大臣みずからとても丁寧にわかりやすく『国葬』の法的根拠や意義をしっかりと説明していたので、理解が深まったのではないか。岸田総理大臣自身、説明が尽くされたとは言っていないので、さらに国民の理解が深まるよう今後もさまざまな場面で説明していくことが必要だ」と述べました。

立民 泉代表 「説明責任をまだ果たしていない」

立憲民主党の泉代表は記者団に対し「岸田総理大臣の説明はあくまでこれまでの政府見解を述べたもので、国民は納得できていないと思う。十分な回答ではなかった」と述べました。

そのうえで「岸田総理大臣は選考基準や法律がない状況にもかかわらず自分たちの観点だけで『国葬』を決めており、手続きにかしがあったと認めているようなものだ。予算がどれだけ膨らむのかいまだわからない状況で、説明責任をまだ果たしていない」と述べました。

また「国葬」に出席するかどうかについて泉代表は「内閣葬というこれまでの知恵を生かして政府に再検討を求めたい。今後、状況や姿勢を見て最終的に判断したい」と述べました。

維新 藤田幹事長 「姿勢は評価 出席は前向き」

日本維新の会の藤田幹事長は記者団に対し「岸田総理大臣が国会で説明責任を果たそうとした姿勢は評価したいがもっと早くやるべきだった。『国葬』の基準づくりが難しいということについては一定の理解をするが、オープンな議論が国民の理解を得ていくことにつながる」と述べました。

そのうえで「国葬」に出席するかどうかについて「今後、国会議員団の執行部で意思確認をするが前向きに検討したい」と述べました。

国民民主 玉木代表 「引き続き丁寧に説明を」

国民民主党の玉木代表は記者団に対し「岸田総理大臣の口から直接、説明があったことはよかったが、もっと早くやるべきで後手後手になったことは否めない。引き続きさまざまな場を通じて丁寧に説明し、外国からの弔問客が確定した時点で警備費などについてより正確な数字を速やかに発表してもらいたい」と述べました。

共産 志位委員長 「理由成り立たない 強行なら欠席だ」

共産党の志位委員長は記者会見で「岸田総理大臣は『国葬』を強行する理由を一切まともに語ることができなかった。『憲政史上最長の総理大臣』ということなどは理由にならない。理由が成り立たないことが明らかになったのがきょうの質疑だ」と述べました。

そのうえで「『国葬』の中止を強く求めるが仮に強行された場合は欠席だ」と述べました。