学術会議「6人の速やかな
任命強く求める」総会で一致

会員候補が総理大臣から任命されなかった日本学術会議の定例の総会が21日から始まり、任命されなかった6人の速やかな任命を強く求めることで一致しました。

日本学術会議は去年10月に就任する新しい会員の候補として、定数の半分にあたる105人のリストを法律に基づいて提出しましたが、菅総理大臣はこのうち6人を任命せず、学術会議は6人の任命を求めるとともに組織の在り方についても検討をしてきました。

学術会議は、問題が明らかになった去年10月の総会の後としては初めてとなる定例の総会を21日から3日間の日程で開いています。

この中で、梶田隆章会長が任命されなかった6人について、「正式な回答や説明は一切行われず、定数に対して欠員6人という法律の定めを満たさない状態が続くと、学術会議の独立性を侵す可能性がある」とした声明の案を提案し、6人の速やかな任命を強く求めることで一致しました。

そして、22日の総会で正式に決定する見込みです。

学術会議はこれまでに、任命されなかった6人のうち5人について、正式な会員ではなく、活動に一定の制限がある連携会員や特任の連携会員として委員会での議論には参加できるようにしています。

総会では、学術会議の組織の在り方についてまとめた報告書などについても議論されることになっています。

井上科学技術相「学術会議の改革 積極的に推進を」

井上科学技術担当大臣は、21日から始まった日本学術会議の総会であいさつし、会員の任命をめぐって会員が懸念を持っていることに理解を示す一方、「広く社会の意見を聞き、意義ある発信をすることが求められている」と述べ、改革を積極的に進めるよう求めました。

この中で、井上科学技術担当大臣は「世界的課題に立ち向かうには、未来を切り開いていくアカデミアの知見が欠かせない。コロナ禍という危機の中、日本の英知を結集して、知の総合を担うという日本学術会議の果たす役割に大変期待している」と述べました。

そして、日本学術会議が推薦した会員候補6人が任命されなかったことをめぐり「会員が懸念を持っていることは理解している」とする一方、「学術会議をよりよくするために、できることから積極的に改革を進めてもらうことを期待している。学術会議の内部にとどまらず、広く社会の意見を聞き、意義ある発信をすることが求められている」と述べ、改革を積極的に進めるよう求めました。

学術会議は、総会での議論を踏まえ、会議の在り方をめぐる報告書を政府に提出することにしていて、政府は、提出を受けたあと、考えを示すことにしています。

6人は任命拒否理由の情報開示請求へ

日本学術会議の会員人事で菅総理大臣から任命されなかった研究者6人は、任命拒否の理由を明らかにするため近く、内閣府や内閣官房に情報開示請求を行う方針です。

情報開示請求を行うのは、会員に任命されなかった関西学院大学の芦名定道教授、東京大学の宇野重規教授、早稲田大学の岡田正則教授、東京慈恵会医科大学の小澤隆一教授、東京大学大学院の加藤陽子教授、立命館大学大学院の松宮孝明教授の6人です。

これまで加藤官房長官は、任命の経緯について内閣府が杉田官房副長官とやり取りを行った記録を管理していることを明らかにしていますが、菅総理大臣や加藤官房長官は6人を任命しなかった理由について「人事に関することで答えを差し控えたい」としています。

このため6人は、行政機関が保有する個人情報をみずからが請求する「自己情報開示請求」の手続きを取り、近く内閣府や内閣官房に任命拒否の理由や経緯の分かる文書の開示を求めることにしています。

また、これとは別に1000人規模の法学者や弁護士も今月26日に同様の情報公開請求を行う方針で、開示されない場合は裁判を起こすことも検討しているということです。

6人のうち、早稲田大学の岡田正則教授は「政府が理由を明らかにしないまま恣意的(しいてき)に任命拒否することを許せば、学問の自由に多大な萎縮効果をもたらす。人事の問題としてごまかすのではなく、学問に対する政治の責任として、理由を説明してほしい」と話しています。

加藤陽子教授「『人事』に迷わされるな」

日本学術会議の会員に任命されなかった6人のうちの1人、東京大学大学院の加藤陽子教授は、学術会議の総会に合わせてNHKに文書で見解を寄せました。

加藤教授はまず、学術会議の会員の推薦と任命の方法に関する法律の改正案が審議された昭和58年の国会で、当時の中曽根総理大臣が「政府が行うのは形式的任命にすぎず、学術集団が推薦権を握っているようなものだ」と答弁したことに触れ、「菅内閣は法律の解釈と運用方針を、中曽根内閣以来の法律の解釈と運用方針から変更したことになります。法律を改正せずに、変更した背景には、合理的な理由があってのことでしょう。そうでなければ法治国家とはいえません。ただその場合、変更の理由については、国民に説明する義務が生じます」と指摘しています。

そして、菅総理大臣や加藤官房長官が任命拒否の理由について、「人事に関することで、答えを差し控える」などという説明を繰り返してきたことについて、「人事という言葉に迷わされてはなりません。問題は、法律の改正という手続きをふまずに、法律の解釈と運用を変えた場合、説明が必要だというだけのことです。菅首相をはじめとする政府側の説明が十分ではなかったことは、各種の世論調査からも明らかでした。国民の世論としては、なお、政府による法律の解釈と運用方針の変更について、十分な説明を聞かされてはいないというのが率直な感想だったのではないでしょうか。私は、この国民世論の趨勢に信を置きたいと思います」としています。

そして加藤教授は「内閣府が法制局とやりとりした文書等を精査すれば、問題のありかは見えてくるはずです。要は、後継の内閣がこれを先例となしえないようなところまで、政治過程を明らかにしておくことでしょう。今後は、任命を拒否された方々と一緒に、内閣府への個人情報開示請求をおこなってゆくつもりです」としています。