旧優生保護法めぐる裁判
違憲判断も訴え退ける 地裁

旧優生保護法のもとで昭和40年代に不妊手術を強制された人たちが国を訴えた裁判の判決で、大阪地方裁判所は旧優生保護法が子どもを産み育てる自由などを保障する憲法に明らかに違反していたと認定しました。

しかし、原告の訴えについては提訴の時点で賠償請求できる権利は消滅しているとして退けました。

いずれも関西に住み、▽病気の後遺症による知的障害がある77歳の女性と、▽聴覚障害がある70代と80代の夫婦の3人は旧優生保護法に基づく不妊手術を強制されたとしておととしから去年にかけて大阪地方裁判所に訴えを起こし、国にあわせて5500万円の損害賠償を求めていました。

30日の判決で大阪地方裁判所の林潤裁判長は旧優生保護法について「もっぱら優生上の見地から不良な子孫を出生させないという目的のもと、特定の障害や病気がある人を一律に『不良』であると断定する極めて非人道的で差別的なものだ」として子どもを産み育てる自由や個人の尊厳、それに法の下の平等を保障した憲法に明らかに違反していたと判断しました。

しかし、昭和40年代に不妊手術を強制された原告が、20年が経過したあとで提訴したことを踏まえ「すでに賠償請求できる権利は消滅している」として国の賠償責任を認めず訴えを退けました。

この点について原告側は「国の誤った政策による差別や偏見に苦しみ長年、訴えを起こすことはできなかった。甚大な人権侵害の責任が、時の経過によって免れることは正義に反する」と主張していました。

これに対し判決は「旧優生保護法が障害者への差別や偏見を助長したことは否定できないが、原告が提訴できない状況を国が意図的に作り出したとまでは認められない」としました。

旧優生保護法をめぐって各地の裁判所で起こされている同様の裁判で1審の判決は今回が3件目でしたが、いずれも国の賠償責任を認めない判断となりました。

旧優生保護法の訴訟は9地裁に提訴

旧優生保護法のもとで不妊手術を強制されたとして、国に賠償を求める訴えは、おととしから全国の9か所の地方裁判所に起こされました。

弁護団によりますと、これまでに訴えが起こされたのは
▽札幌地裁
▽仙台地裁
▽東京地裁
▽静岡地裁
▽静岡地裁浜松支部
▽大阪地裁
▽神戸地裁
▽福岡地裁
▽熊本地裁です。

原告の夫婦「怒りはおさまらず控訴したい」

判決のあと、ともに聴覚障害がある原告の夫婦が記者会見を開きました。

このなかで、70代の妻は手話通訳者を介して「不妊手術を受けた痛さや悔しさ、子どもをつくることができなかった寂しさは今も消えることがなく、『20年が過ぎたから』という理由で訴えが認められないのは納得できない。もとのままの体でいたかったし、怒りは今もおさまらず控訴したい」と話していました。

また、80代の夫は「国が憲法違反の法律をつくったために、私たちは当たり前の家庭を築く夢を絶たれた。裁判官は、私たちの苦しみを本当にわかってくれているんだろうか」と話していました。

そして、弁護団長の辻川圭乃弁護士は「裁判所にはどうすれば原告を救うことができたのかを考えてほしかったが、踏み込んだ判断をしなかった。旧優生保護法を非人道的な法律と断じて憲法違反と認めているのに、賠償請求できる期間の安定を優先していて、強い憤りを感じざるを得ない」と話しました。

弁護団は今後、控訴する方向で検討するとしています。

厚生労省「国の主張が認められた」

今回の判決について厚生労働省は「国家賠償法上の責任の有無に関する、国の主張が認められたものと受け止めている。今後とも、救済法の趣旨を踏まえて着実な一時金の支給に取り組んでいく」とコメントしています。

加藤官房長官「着実に一時金支給を」

加藤官房長官は、午後の記者会見で、「国側の主張が認められたものと受け止めているが、具体的な内容については、係争中の訴訟なので、政府としてコメントは差し控えたい。旧優生保護法に基づく手術などを受けた方に対する、一時金の支給などに関する法律が施行されており、政府としては、この法律の趣旨を踏まえ、着実に一時金の支給がなされていくよう努めていきたい」と述べました。