森の核燃料再処理工場
完成1年延期 日本原燃

国の核燃料サイクル政策の要の施設で、青森県にある再処理工場について、事業者の日本原燃は、完成時期を1年延期し、再来年度上期とすることを明らかにしました。延期は25回目となり、当初の計画より完成時期は25年遅れになります。

青森県六ヶ所村にある再処理工場は、原子力発電所で使い終わった核燃料からプルトニウムを取り出して再利用する国の核燃料サイクル政策の要の施設で、先月、原子力規制委員会は、本格操業に必要となる審査に合格したことを示す審査書を取りまとめました。

電力会社などの出資でつくる事業者の日本原燃では、来年度上期には工場を完成させる計画でしたが、21日、完成時期を1年延期して再来年度上期とすることを決め、増田尚宏社長が青森県の三村知事に報告しました。

延期の理由について、竜巻に備えた安全対策工事に相応の時間が必要で、工事後の検査の実施なども考慮したと説明しました。

本格操業については、工場が完成する再来年度上期以降、県や村の了解を得られ次第、始めたいとしています。

増田社長は「1年遅れることになり、県民に大変なご心配やご迷惑をおかけすることをおわびする」などと述べたのに対し、三村知事は「さらなる安全性の向上に向け、責任と使命感を持って不断の努力を続けてほしい」と答えていました。

再処理工場をめぐっては、トラブルなどを理由に完成時期がたびたび延期されてきて、今回は25回目の延期となります。

これで当初の計画より完成時期は25年遅れになり、専門家などからは、現場の管理態勢や保守をめぐる技術的な課題などが指摘されています。

また、取り出したプルトニウムの利用計画は不透明で、操業開始に向けては、課題を抱えています。

たび重なる完成延期の理由は

再処理工場の完成時期が延期されるのは、今回で25回目です。

当初の計画では1997年の完成予定だったため、今回の延期で完成時期は25年遅れになります。

完成時期がたびたび延期されてきた主な理由は、工場の建設の過程で直面した数々のトラブルや技術的な課題、それに不祥事でした。

2001年には、使用済み核燃料を貯蔵するプールの溶接に問題があり、少量の水漏れが発生。

2006年に試験的な操業を行ってからは、高レベルの放射性廃液をガラスと混ぜる工程で不具合が続くなどしました。

さらに、3年前には、非常用発電機のある建屋で雨水が流入していたのが見つかったのをきっかけに、工場で必要な点検が長年、行われていなかったことも発覚し、本格操業に必要な原子力規制委員会による審査が、一時中断する事態になります。

こうした背景について、日本原燃は、去年2月、トラブルが発生するまで作業上のリスクに気付かなかったことや、守るべきルールを十分理解せずに作業したこと、そして、事業者としての管理責任の意識が希薄だったなどと説明しています。

これに対して、原子力規制委員会は、日本原燃では、さまざまな電力事業者からの出向者が多く、数年で人材が入れ代わるため、業務への責任感や技術の共有などが課題だと指摘しています。

日本原燃は、原発を運営する電力会社のノウハウを生かした現場管理や、協力会社と作業マニュアルを読み合わせることの徹底、それに、リスクに気付くための教育の改善をはかるなどの対策を行うなどとしています。

運転や保守管理の技術的課題 指摘も

再処理工場の完成時期がたびたび延期されていることによって、運転や保守管理の技術的な課題が出ているとの指摘があがっています。

原子力政策に提言を続けているNPO法人・原子力資料情報室の伴英幸共同代表は「延期が続いたことで工場が長期停止し、試験運転の経験がある人が退職してしまい、次の世代の人が全く経験がないということになっている。技術が継承されないまま、断絶している状態で、今後、トラブルが起きたときにきちっと対応できるのか、極めて心もとない」と述べています。

そのうえで、先行するフランスから技術を導入したことに触れ、「再処理は核の拡散につながる機微な技術なので、100%国産化はできない。フランスで工場のオペレーションを練習しているというが、事故が起きた場合設備をすべて把握していないと対応できないと思う」と指摘しています。

一方、再処理工場の完成時期が当初より大きく遅れても、国や電力業界は一貫して工場の本格操業を目指しています。

再処理工場は、原発で使い終わった核燃料からプルトニウムを取り出して再び原発で利用する国の核燃料サイクル政策の要であるためです。

ただ、再処理工場を操業するにあたって大きな課題の1つとなっているのが、日本が保有するプルトニウムの量です。

プルトニウムは核兵器の原料にもなることから、日本は利用目的のないプルトニウムを持たないことを国際的に約束していますが、原子力委員会が21日、公表した最新のプルトニウム保有量は、昨年末の時点でおよそ45.5トンに上りました。

再処理工場では、使用済み核燃料からプルトニウムを取り出すため、本格操業すれば日本の保有量が増えていくことになります。

しかし、プルトニウムの使いみちとなる一般の原発でプルトニウムを使用する「プルサーマル発電」が現在、4基の原発での実施にとどまり、もう1つの特殊な原発「高速炉」の開発も先行きが不透明となっています。

こうしたことから、再処理工場で取り出したプルトニウムを急いで使う必要がない状況です。

一部の専門家からは、具体的にどう消費していくのかを示すべきだという声や、再処理工場の必要性を含め核燃料サイクル政策の在り方を議論するべきだとの声も出ています。

審査合格も膨大な書類のチェック受ける必要

日本原燃は、再処理工場の完成時期を延期した要因は、使用済み核燃料を保管するプールなどを冷却する設備で竜巻対策の工事に時間がかかるためだとしています。

また、このほかにも本格操業に必要な手続きや国の検査がまだ控えていることも踏まえ、総合的に判断したとしています。

再処理工場は先月29日、規制基準に基づく審査に合格しましたが、残されている手続きでは設備の耐震性など詳しい設計をまとめた膨大な書類のチェックを受けなくてはなりません。

日本原燃はことし10月にも書類を提出する予定ですが、商業用の再処理工場は国内で初めてとなるうえ、安全上、重要な設備だけでも通常の原発と比べて10倍以上とされる、1万点を超え、すべてのチェックを終えるには相当の時間がかかると見込まれています。

さらに、新たな規制基準に基づく重大事故への対策工事の完了と工事を終えた後に規制委員会によって機器が適切に整備されたかを確認する検査を受ける必要もあります。

こうした状況も踏まえ日本原燃は、これまで予定していた工場の完成時期を来年度上期から1年後の再来年度・2022年度上期に延期することになりました。