川検事長が辞表提出
法相が受理 辞任へ

東京高等検察庁の黒川弘務検事長が緊急事態宣言が出されている中で、賭けマージャンをしていた問題で、森法務大臣は、黒川検事長の辞表を受理したことを明らかにしました。黒川氏の辞任は、22日の閣議で正式に認められる予定です。

東京高等検察庁の黒川弘務検事長が緊急事態宣言が出されている中で、賭けマージャンをしていた問題をめぐり、森法務大臣は21日夕方、総理大臣官邸で安倍総理大臣と会談しました。

このあと森大臣は記者団に対し「黒川検事長は、東京高等検察庁の検事長という立場にありながら、緊急事態宣言下の今月1日と13日の2回にわたり、報道機関関係者3名とマンションの1室で会合し、金銭を賭けたマージャンを行っていたことがわかった」と法務省の調査結果を安倍総理大臣に報告したことを明らかにしました。

そのうえで「この行為は誠に不適切と言うほかなく、極めて遺憾で、黒川検事長を、訓告の処分とした。先ほど黒川検事長から辞表が提出されたので、あすの閣議で承認をいただく予定だ」と述べました。

そして、森大臣は報告に対し、安倍総理大臣が「了解した」と述べたと明らかにしました。

また、黒川検事長の定年延長について「閣議で決定するよう求めたのは私であり、責任を痛感している」と述べる一方、「適切なプロセスで行ったと認識している」と述べました。

さらに森大臣は、黒川検事長の後任について「速やかに決める予定だ」と述べたほか、稲田検事総長の進退は、安倍総理大臣との会談では話題にならなかったことを明らかにしました。

法務省 黒川検事長の賭けマージャン確認

衆参両院の法務委員会の理事懇談会では、法務省が、調査の結果、黒川検事長が、1日と13日に賭けマージャンをしたことや、費用の負担なくハイヤーに乗ったことを確認したと明らかにしました。これに対し、野党側は、持ち帰って対応を検討する考えを示しました。

黒川検事長「緊張感に欠け、軽率にすぎるものであり、猛省」

黒川検事長は「本日、内閣総理大臣宛てに辞職願を提出しました。この度報道された内容は、一部事実と異なる部分もありますが緊急事態宣言下における私の行動は、緊張感に欠け、軽率にすぎるものであり、猛省しています。このまま検事長の職にとどまることは相当でないと判断し、辞職を願い出たものです」というコメントを発表しました。

黒川検事長の経歴は

黒川弘務検事長は東京都出身の63歳。

昭和58年に検事に任官し、平成9年からよくとしにかけては、東京地検特捜部で総会屋への利益提供をめぐる4大証券事件などの捜査を担当しました。

法務省に異動したあとは、刑事局総務課長や秘書課長などの要職を歴任し、与野党を問わない人脈の広さと調整能力の高さが評価され、優秀な人材が多く「花の35期」と呼ばれる任官同期の中でも、名古屋高等検察庁の林眞琴検事長らとともに将来の検事総長の有力候補とされてきました。

平成22年に大阪地検特捜部の証拠改ざん事件が発覚した際には、松山地方検察庁の検事正に異動したわずか2か月後に「特命担当」として本省に呼び戻され、検察改革を議論する有識者会議で事務局を務めました。

この会議で取りまとめられた提言は、取り調べの録音・録画や司法取引など新たな捜査手法の導入などにつながりました。

平成23年からは、7年余りにわたって法務省の官房長と事務次官を務め、官邸との折衝や国会対策で手腕を発揮し、「共謀罪」の構成要件を改めて「テロ等準備罪」を新設する法案や外国人材の受け入れを拡大するための、改正出入国管理法などの成立に尽力しました。

去年1月に事務次官から東京高検検事長に就任した際の会見では「検察に重大な権限が与えられていることの責任を強く意識し、国民の負託に応えたい」と抱負を述べていました。

黒川氏をめぐっては、法務官僚としての実績が高く評価される一方、政界との距離が近いという指摘もあり、ことし1月に政府が法解釈を変更して史上初めて定年が延長された際には検察関係者の間で「官邸の意向で次の検事総長にするための措置ではないか」という見方が広がりました。

“賭けマージャン” 問題点は

定年延長から一転、賭けマージャンによって辞表を提出した黒川検事長。何が問題視されたのかまとめました。

(1) 緊急事態宣言のさなか
まず、賭けマージャンが行われた時期です。黒川検事長が都内にある新聞記者の自宅を訪れていた5月1日は、政府の外出自粛要請が続く緊急事態宣言のさなかで、東京都の小池知事が感染拡大を食い止めるため、徹底して自宅にとどまるよう呼びかけた「ステイホーム週間」の期間中でもありました。
検察庁もテレワークの推進や不要不急の外出自粛を職員に呼びかけていました。
密閉・密集・密接のいわゆる3密になりやすいとして、マージャン店が休業要請の対象となる中、記者の自宅でマージャンを行っていたことも問題視されました。

(2) 改正案の国会審議の渦中で
賭けマージャンが行われていたのは、内閣の判断で検察幹部らの定年延長を可能にする、検察庁法の改正案が国会で審議され、みずからの定年延長の是非が、野党側から厳しく問われていたさなかでもありました。
政府がことし1月、これまでの法解釈を変更し黒川検事長の定年を延長したことについて、野党側から「官邸に近い黒川氏を検事総長にするためではないか」などと批判が相次ぎ、検察庁法の改正案についても「黒川氏の違法・不当な定年延長を後付けで正当化するものだ」と批判されていました。
賭けマージャンが行われた今月13日は衆議院内閣委員会で改正案が審議されていて、その数日前からはツイッター上で著名人を含む抗議の投稿が急速に広がっていました。
こうした中、渦中の1人の黒川検事長が賭けマージャンに興じていたことに検察内部からは「国会審議が行われていたさなかでもあり最悪のタイミングだ」「自覚に欠け、脇が甘い」などと批判の声が相次いでいました。

(3) “賭けマージャン”は刑法犯
政府が「必要不可欠な存在だ」として、史上初めて定年を延長し、一時は検察トップの検事総長に就任するという見方もあった黒川検事長が、罪に問われかねない賭けマージャンをしていたことにも批判が集中します。
賭けマージャンは刑法の賭博罪に問われるケースもあり、法定刑は50万円以下の罰金と規定されています。
平成25年には愛知県の警察官2人が、勤務中に賭けマージャンをしていたとして、賭博の罪で略式命令を受けました。
飲食代や茶菓子など「一時的な娯楽に供するもの」を賭けただけの場合は処罰されないという例外規定もありますが今後、黒川検事長らに対する刑事告発が行われる可能性もあります。

元検事「検察への信頼 大きく損なわれた」

元東京地検特捜部検事の高井康行弁護士は、黒川検事長が賭けマージャンをした問題で辞表を提出したことについて「新型コロナウイルスで国民全体が自粛し、しかも自身の定年延長に関わる法案が審議されている状況で3密の極みと言えるマージャンをやっていたのは、検察のOBとして、国民の1人として極めて残念だ。今回の行為によって、検察組織や検察官に対する国民の信頼は大きく損なわれたと言わざるを得ず、大阪地検特捜部の証拠改ざん事件に次ぐほどの衝撃だ」と話しています。

黒川検事長の人物像については「黒川氏が官邸寄りだと言われるのは、行政の世界に長くいることが出発点になっている。調整能力があり、非常に腰が低いところが議員や閣僚に重宝され、好かれた要因だと思う」と指摘しました。

そのうえで「検察から見ても有為な人材をこういう形で失わなければならなくなったことは非常に残念だ」と述べました。

また、賭けマージャンが刑法の賭博罪にあたるかどうかについては、「一般論として、例えばその場で消費するような飲み物や食べ物などを賭けただけでは、賭博罪は成立しないとされている。現金を賭けた場合には刑法の賭博罪が成立すると判例では解釈されているが、実際に立件する際には、金額の大きさなどが基準になる」と指摘しています。

そのうえで、「検察は、厳正かつ公平に調査や捜査を進めて事実関係を明らかにしたうえで、従来の基準に照らして処分を検討すべきだ。どのような結論でも国民が納得できるよう詳しく説明することが、検察が信頼を回復するために極めて重要だ」と話しています。

検察内部から批判の声相次ぐ

黒川検事長が賭けマージャンをした問題で辞表を提出したことについて検察内部からは批判の声が相次いでいます。

検察幹部の1人は「とにかく驚いた。脇が甘く、辞任は当然だ。刑罰権を行使する検察官は他の公務員よりも一層の高潔性が求められる。ましてや検事長は、多くの職員を指揮する立場で、報道が事実であれば、あまりにも軽率な行動で弁解の余地はなく国民の検察への信頼がさらに失われてしまう」と話しています。

また、中堅の検事の1人は「一線の同僚の検事はみんなショックを受けている。緊急事態宣言によって現場に外出自粛が呼びかけている中で、高検のトップが外を出歩き、賭けマージャンをするとは脇が甘すぎる。刑法に触れる賭けマージャンをしていたとなると、捜査の現場にも影響が出ないかと心配だ。検事長の定年延長や検察庁法の改正案についても組織からの説明は何もないままで、士気は下がるばかりだ」と話しています。

このほか別の幹部は、「法解釈の変更による定年延長や検察庁法改正案の審議を通じて国民の疑問や不満が高まる中で起きた問題で、検事長個人の不祥事として幕引きを図るべきではない。替えの効かない人材として、なぜ黒川検事長を特別視し定年延長したのか、任命権者の内閣が説明責任をしっかりと果たさなければ、検察組織がもたない」と話しています。

元検事総長「厳正公正 不偏不党の精神で信頼回復を」

今月15日に検察庁法改正案に反対する意見書を法務省に提出した松尾邦弘元検事総長は「週刊誌の報道には大変驚いた。緊急事態宣言の期間中で、検察庁法の改正案をどうするかという問題のさなか、深夜までマージャンをしていたということならば残念だし、辞任もうなずかざるをえない」と述べました。

そのうえで「現職の検察官には今後、検察の理念でもある厳正公正・不偏不党の精神で信頼回復に努めてほしい」と話していました。

今の国会での成立が見送られた検察庁法改正案については「黒川氏の問題とは別に検察権の行使が政権の意向で左右されない法案になるようにしてもらいたい」と話していました。

安倍首相「対応を了承 首相として責任はある」

黒川検事長が、緊急事態宣言が出されている中で、賭けマージャンをしていた問題で、安倍総理大臣は、21日夕方、森法務大臣から黒川氏の辞表を受理したと報告を受けました。

このあと、安倍総理大臣は、総理大臣官邸で記者団の取材に応じ「森法務大臣より、黒川検事長から事実関係を確認し、厳正に処分を行ったうえで、黒川氏から辞表が提出され、了解したと報告があった。法務省としての対応を了承した」と述べ、黒川氏の辞任を了承したことを明らかにしました。

そして、ことし1月に黒川検事長の定年を延長したことについて、法務省から厳正なプロセスを経て閣議決定の求めがあり、手続きに瑕疵はないという認識を示し「最終的には内閣で決定するので、総理大臣として当然、責任はある。批判は真摯(しんし)に受け止めたい」と述べました。

一方、検察官なども含めた国家公務員の定年を段階的に引き上げる法案については「国民の理解なくして前に進めることはできない。社会的な状況は大変厳しく、この法案を作った時と状況が違うという意見が自民党にもあると承知している。そういうことを含めてしっかり検討していく必要がある」と述べました。

自民 岸田氏「言語道断 辞意は当然」

自民党の岸田政務調査会長は、記者団に対し、「立場を考えても言語道断のことであり、辞意を固めたのは当然のことだ」と述べました。

公明 斉藤氏「辞任は当然 甚だ遺憾」

公明党の斉藤幹事長は、記者団に対し、「あってはならないことで、辞任は当然だ。甚だ遺憾で、大変残念に思う」と述べました。

また、国会審議への影響について、「黒川氏の定年延長は、検察庁が業務の遂行上必要だということで提案したものだと聞いている。新型コロナウイルスの議論を続けていくべきで、野党の理解をいただきたい」と述べました。

野党側 首相の任命責任追及を確認

野党側は、夕方、対応を協議し、黒川検事長の定年延長を決めた政府の責任は極めて重いとして、22日以降の国会で、安倍総理大臣の任命責任を追及していく方針を確認しました。

国民民主党の原口国会対策委員長は、「黒川検事長を検事総長にしようとして、無理やり、定年延長したのは今の内閣だ。任命した責任は、ひとえに安倍総理大臣にある。追及を深めていきたい」と述べました。

立民 枝野氏「脱法的に在職させた判断の責任 問われる」

立憲民主党の枝野代表は、記者団に対し、「定年延長できないという従来の解釈を国民にも、国会にも説明なく、こそこそと脱法的に変えて黒川検事長を在職させた判断の責任が問われる。今後、東京高等検察庁の検事長を誰かに代えるなら、政府の『黒川氏は余人をもって代えがたい』という説明は何だったのかと思う」と述べました。

国民 玉木氏「閣議決定を取り消すべきだ」

国民民主党の玉木代表は、記者団に対し、「政府は、『余人をもって代えがたい』として黒川氏の定年延長を閣議決定したが、本人がいなくなるのであれば、閣議決定を取り消すべきだ。内閣の責任も厳しく問われているので、安倍総理大臣には予算委員会などで説明するよう求めたい」と述べました。

維新 松井氏「賭博行為をしたなら黒川氏の取り調べを」

日本維新の会の松井代表は、記者団に対し、「今回の件は法的な責任があるのかどうかであり、賭博行為をしたなら、検察は黒川氏を取り調べないといけない。また、外出自粛のなかで、公務員のトップクラスの人がメディアの人と密な状況でマージャンをしていたことは、道義的にもいかがなものかと思う」と述べました。

一方、黒川氏の定年延長を決めた閣議決定を撤回すべきだという意見について、「賭博行為はだめだが、検察官として歩んできた功績をすべて否定するのはちょっと違う」と述べました。

共産 志位氏「これで幕引きにするわけにはいかない」

共産党の志位委員長は、記者会見で、「言語道断で辞任は当然だが、事実関係の究明が必要で、これで幕引きにするわけにはいかない。勝手な法解釈で黒川氏の定年延長を閣議決定した安倍政権の責任が問われる。閣議決定の撤回と検察庁法改正案の廃案を求める」と述べました。

れ新 山本氏「定年延長決めた閣議決定は罪深い」

れいわ新選組の山本代表は、記者団に対し、「違法な遊びをしていたのであれば、辞任は相応だ。また、検察庁法の改正は検察の独立性を侵害するので許すべきではないし、黒川氏の定年延長を決めた閣議決定は罪深く、撤回するべきだ」と述べました。

産経新聞「厳正に対処」

黒川検事長が賭けマージャンをしていたのは、産経新聞の記者2人と朝日新聞の記者だった社員の合わせて3人です。

産経新聞社広報部は21日夜、改めてコメントを発表しました。

「東京本社に勤務する社会部記者2人が取材対象者を交え数年前から複数回にわたって賭けマージャンをしていたことがわかりました。賭けマージャンは許されることではなく、また、緊急事態宣言が出されている中での極めて不適切な行為でもあり、深くおわびいたします。厳正に対処します」としています。

街頭では厳しい声 「危機感や自覚ない」「なまぬるい処分」

東京のJR新宿駅前では、黒川検事長が賭けマージャンをしていた問題について厳しい声が多く聞かれました。

医療関係の仕事をしている東京 中野区の女性は「偉い人なのだから問題だとわかっていたはずで、緩さや甘さが出たのではないか。辞めるべきだと思う」と話していました。

また、30代の個人事業主の男性は「国の重要な立場にいるのに危機感や自覚がない。法をつかさどるリーダーでありながら違法な行為をして、仕事と自身の在り方が一貫していない」と話していました。

さらに、会社員の24歳の男性は「責任ある行動をしてほしかった。こういう立場の人は問題があるとすぐに辞任しようとするが、辞めて終わりではないと思う」話していました。

このほか、今回訓告の処分となったことについて75歳の会社員の男性は「なまぬるい処分だ。法の番人なのだから、もっと厳しくあってしかるべきだ」と話していました。