察庁法改正案 今国会で
成立見送り決定 政府・与党

検察官の定年延長を可能にする検察庁法の改正案について、政府・与党は、国民の理解なしに国会審議を進めることは難しいとして、国家公務員の定年を段階的に65歳に引き上げるための法案とともに、今の国会での成立を見送ることを決めました。

菅官房長官「法案審議スケジュールは国会で」

衆議院内閣委員会で審議されている検察官の定年延長を可能にする検察庁法の改正案は、野党側が武田国家公務員制度担当大臣に対する不信任決議案を提出し、与党側が目指していた先週の採決は見送られました。

これについて菅官房長官は午前の記者会見で、「法案審議のスケジュールは国会で決めることであり、コメントは差し控えるが、検察庁法改正案についてはさまざまなご意見があることは承知している。引き続き、法務省が、適切に対応と説明をしていく」と述べました。

また、記者団が、今の国会で成立を目指す方針に変わりはないのかと質問したのに対し、「当然、成立させるために法案を国会に提出している。国会のことは、国会でしっかり対応していただきたい」と述べました。

立民 安住氏「徹底抗戦」

検察庁法の改正案をめぐって、立憲民主党など野党側の国会対策委員長が18日午前、会談し、あらゆる手段を講じて、法案の採決を阻止し、撤回を求めていく方針を改めて確認しました。

会談後、立憲民主党の安住国会対策委員長は記者団に対し、「武田大臣に対する不信任決議案の決着がつくまでは、衆議院のすべての委員会は動かせない。安倍総理大臣の決断を促し、与党側が対応を変えなければ、想像を絶するような対応をしたい」と述べました。

その後、記者団に対し、「もし、政府・与党が見送りを決定するのであれば、高く評価したいが、今の時点ではまだそうなっていないので、われわれは構えを崩していない」と述べました。

そのうえで、「内閣の都合で定年延長できるという規定は、変えなければ、ますます政治不信につながる。あす以降、強行採決があることを前提に、可能なかぎりの手だてを尽くして法案の採決阻止に向けて努力したい」と述べ、内閣が認めれば最長で3年まで検察官の定年延長を可能にする規定の削除を求めて、徹底抗戦する考えを重ねて示しました。

首相と二階氏 今国会成立を事実上見送りで一致

安倍総理大臣は18日午後、総理大臣官邸で自民党の二階幹事長と会談し、国民の理解なしに国会審議を進めることは難しいとして、今の国会での成立を事実上見送る方針で一致しました。

このあと二階幹事長は、記者団に対し「国会対策委員会の現場で、一生懸命にやってもらっているので、よく打ち合わせをしたうえで進めていきたい」と述べました。

また安倍総理大臣と二階幹事長は、新型コロナウイルスへの対応を最優先で進めたいとして、今年度の第2次補正予算案を速やかに編成し、今の国会で成立させていく方針でも一致しました。

自公幹事長ら 今国会での成立見送る方針確認

これを受けて、自民党と公明党の幹事長らが会談し、国家公務員の定年を段階的に65歳に引き上げるための法案とともに、今の国会での成立を見送る方針を確認しました。

首相「国民の皆様からさまざまな批判」

安倍総理大臣は18日夜、総理大臣官邸で記者団に対し、「国民全体の奉仕者たる公務員制度の改革について、国民の声に十分耳を傾けていくことが不可欠であり、国民の理解なくして前に進めていくことはできない。国民の理解を得て進めていくことが肝要だ」と述べました。

そのうえで、「この法案については、国民の皆様から、さまざまな批判があった。そうした批判にしっかりとこたえていくことが大切だ。定年延長と公務員制度改革についての趣旨と中身について、丁寧にしっかり説明していくことが大事だ。これからも責任を果たしていきたい」と述べました。

自民 二階氏「国民の理解なく進められず」

自民党の二階幹事長は記者会見で、「国民の声に十分、耳を傾け、国民の理解なしに前に進めていくことはできない。今国会は、新型コロナウイルス対策が最優先で、喫緊の課題である第2次補正予算案をスピーディーに仕上げていくことが何よりも重要だ」と述べました。

立民 枝野氏「引き続き政府与党の動きを厳しくチェック」

立憲民主党の枝野代表は記者団に対し、「今回、国民が声を上げざるをえなくなった背景には、新型コロナウイルス対策を与野党協調して進めている時に国論を二分する問題を強引に進めようとした姿勢がある。国家公務員法の改正案の中に、異質な検察庁法の改悪を潜り込ませている状況は変わっておらず、ほとぼりが冷めたら、こっそりと強行しようという姿勢だ。引き続き、国民とともに政府与党の動きを厳しくチェックする」と述べました。

国民 玉木氏「国民の声で政治変わった成果に意義」

国民民主党の玉木代表は記者団に対し、「安倍総理大臣や周辺にとって都合のいいことしか聞こえない『官邸病』が重症化し、民意を政策に反映させてこなかった結果であり、国民の声で政治が変わった成果には意義がある。今の改正案の内容では、次の臨時国会でも成立させられないと思うので、政府・与党にはもう一度議論してもらいたい」と述べました。

公明 高木氏「政府は説明責任果たしてほしい」

公明党の高木国会対策委員長は記者団に対し、「国民に理解をいただくためには時間が必要だと考え、継続審議とすることを与党として確認した。ツイッターなどで反対意見もあったので、しっかり耳を傾けなければいけない。政府には、国民に対する説明責任を果たしていってもらいたい」と述べました。

共産 小池氏「世論の力で成立阻止は極めて重要な成果」

共産党の小池書記局長は記者会見で、「世論の力で重大な悪法の成立を阻止したことは極めて重要な成果だ。新型コロナウイルスの影響で、集まって声を上げることが難しい中で、インターネットを通じて世論が広がり、多くの人が声を上げたことは日本の民主主義にとって大きな意義がある。改正案の定年延長を可能にする規定の撤回と、東京高等検察庁の黒川検事長の定年を延長した閣議決定の撤回、それに黒川氏の辞任を求める」と述べました。

れいわ 山本氏「見送りで安心せず廃案に」

れいわ新選組の山本代表はNHKの取材に対し、「人々の声で事態が動いたのだろう。検察官の定年延長を可能にする規定は問題なので、成立を見送っただけで安心せず、廃案にしたうえで、東京高等検察庁の黒川検事長定年を延長した閣議決定も覆さなければならない」と述べました。

見送りで野党側 不信任決議案取り下げ

検察官の定年延長を可能にする検察庁法の改正案について、政府・与党が今の国会での成立見送りを決めたことを受けて、立憲民主党など野党4党は、国会対策委員長が会談し、対応を協議しました。そして、改正案が継続審議となることから定年延長を可能にする規定の撤回を引き続き求めていくことで一致しました。

一方、先週提出した武田国家公務員制度担当大臣に対する不信任決議案を取り下げることを決め、必要な手続きを行いました。

これに先立ち、検察庁法の改正案の取り扱いをめぐり、自民党の森山国会対策委員長は、立憲民主党の安住国会対策委員長と会談しました。

森山氏は、国家公務員の定年を段階的に65歳に引き上げるための法案とともに、今の国会での成立を見送ることを伝えました。

これに対し、安住氏は「政府・与党の対応は一定の評価ができる」として、先週提出した武田国家公務員制度担当大臣に対する不信任決議案を取り下げる意向を示しました。

一方、両氏は、新型コロナウイルスの感染拡大について、政府の「諮問委員会」の尾身茂会長ら専門家から意見を聴くため、20日、衆議院予算委員会で参考人質疑を行うことを決めました。

立民 安住氏「国民の声に謙虚に耳を傾けるべき」

立憲民主党の安住国会対策委員長は、記者団に対し、「再三、この国会での成立は断念すべきだと言ってきたので与党側の対応は了としたい。政権運営にとっても痛手になるかもしれないが、新型コロナウイルスへの対応に集中すべきだという国民の声に、最初から謙虚に耳を傾けるべきだったと思う。そういう点ではみずから招いた部分は大きいのではないか」と述べました。

自民 森山氏「次の国会でしっかり対応を」

自民党の森山国会対策委員長は、記者会見で、「国民の理解をいただいて審議するためには、継続審議とすることが大事だ。新型コロナウイルスの問題に取り組んでいる最中でもあり、影響が出ることがあってはまずいと考えた。次の国会でしっかり対応できるよう政府にお願いしたい」と述べました。

ツイッター上にさまざまな声

検察官の定年延長を可能にする検察庁法の改正案について、政府・与党が今の国会での成立の見送りを決めたことについて、ツイッター上ではさまざまな声が出ています。

このうち、俳優の古舘寛治さんは「素晴らしい!国民の声が政権の暴走を止めた。この成功体験は大きい。民主主義が機能するという体験だ。これが希望へのスタートでありますように!」などと記しました。
古舘さんはNHKの取材に対し、「一市民の動きがこういう大きなムーブメントになったことには希望を感じます」とコメントしています。

落語家の立川談四楼さんは18日昼すぎの投稿で、「ツイッターデモの効果ありだね。与党も批判を気にして色々動いてるんだ。でも死んだフリかもしれないから気をつけよう」とつぶやきました。

作家の村山由佳さんは「一旦白紙に戻すのが筋だと思うのだけど」などと記し、別の投稿で「現政権だから疑わしいというより、権力は本来疑って監視すべきもの。何ごとも否定しないがすべてを疑う。昔から好きなバイロンの言葉です」と説明しました。

また、劇作家の鴻上尚史さんは「国家公務員法改正は全会派賛成してますよね。だったら、国家公務員法改正と検察庁法改正を切り離して、国家公務員法改正だけは、まず採決すべきでしょう。結局は、もう一回、出すよということですね。どうせ、みんな、忘れるからと」と記しています。

野党5党首らネット会見

検察庁法の改正案について、政府・与党が今の国会での成立見送りを決めた中、野党5党の党首らは、そろってインターネット上で記者会見しました。

立憲民主党の枝野代表は「有権者が声を上げ、政治を動かしたが、背景には、感染症対策に総力を上げるべきだということがある。単なる先送りで本当の解決ではないので、検察官の定年延長を可能にする規定を切り離さなければならない」と述べました。

国民民主党の玉木代表は「そもそも東京高等検察庁の黒川検事長の定年を延長したことに大きな問題がある。改正案によって、その根っこの部分を後付けで正当化するのだとしたら、追及することが大事だ」と述べました。

日本維新の会の足立幹事長代理は「単なる先延ばしでは意味がない。ほかの野党は、本当に反対ならば、審議入りの際にもっと反対すべきだったし、廃案まで追い込むべきだった」と述べました。

共産党の志位委員長は「ネットのうねりが、新聞やテレビなどに広がり、民主主義の底力を示した。定年延長を可能にする規定と、黒川氏の定年延長の閣議決定の両方の撤回が必要だ」と述べました。

社民党の福島党首は「法案成立見送りは、1000万とも言われるツイートなど、国民一人一人の力で実現できた。民主主義にとって画期的だ」と述べました。