輪 マラソン・競歩
「札幌での実施を検討」

東京オリンピックのマラソンと競歩について、IOC=国際オリンピック委員会は16日、猛暑の対策として会場を札幌に移すことを検討していると発表しました。

来年の東京オリンピックでは、猛暑の対策が大きな課題でなかでも屋外で長時間、競技が続くマラソンと競歩は大会の組織委員会が開始時間を招致段階の計画から前倒しするなど、さまざまな対策を検討してきました。

これについてIOCは、16日、マラソンと競歩の会場を札幌に移すことを検討していると発表しました。

理由として、オリンピック期間中の気温が札幌では東京に比べて5度から6度低いことをあげています。

また、今月30日から東京で行われる大会組織委員会と準備状況などを確認する調整委員会で、東京都や国際陸上競技連盟などと具体的な話し合いをすることを明らかにしました。

マラソンと競歩は、今月まで中東カタールのドーハで開かれた世界選手権で、気温が40度を超える日中を避けスタートを午後11時半すぎに設定して行われましたが、女子マラソンでは68人のうち完走したのは40人で、4割を超える選手が途中棄権となるなど、猛暑の中で競技が行われることに選手や関係者から不安の声が上がっていました。

IOCバッハ会長「暑さ深刻な懸念」

IOC=国際オリンピック委員会のトーマス・バッハ会長は「会場を札幌に移すという今回の大幅な変更の提案は、われわれが暑さに関して深刻な懸念を示していることを表している。オリンピックは、選手たちの一生に一度のパフォーマンスを出す舞台であり、今回の提案は、選手が最高の結果を出せることを可能にする。実行されることを楽しみにしている」とコメントしています。

国際陸上連盟会長「最高のコース作りに尽力」

国際陸上競技連盟のセバスチャン・コー会長は、「今回の提案についてIOCと大会組織委員会と緊密に連携し検討していく。選手に最高の舞台を提供することは、すべての大規模大会において最も重要なことであり、われわれは大会運営者とともに、マラソンと競歩の最高のコースを作るために尽力する」とコメントしています。

JOC「まずは情報収集」

JOC=日本オリンピック委員会は「IOCの発表は承知している。組織委員会などと引き続き連携し、まずは情報収集に努めたい」とコメントしています。

組織委「選手の健康は最重要事項」

IOCが東京オリンピックのマラソンと競歩の会場を移すことを検討していると発表したことについて、大会組織委員会は「選手の健康は、組織委員会にとっても最重要事項です。組織委員会としてはIOCとの調整委員会で、東京都とも連携し、この件の関係者と議論します」とコメントを出しました。

日本陸連「急な展開で雲をつかむような話だ」

IOC=国際オリンピック委員会が、来年の東京オリンピックのマラソンと競歩の会場を札幌に移すことを検討していることについて、日本陸上競技連盟の風間明事務局長は国際陸上競技連盟などから一切、連絡がないことを明らかにし、「何も聞いていない。急な展開で全く雲をつかむような話だ」と話しています。

札幌陸連「協力したい」

札幌陸上競技協会の志田幸雄会長は「具体的な連絡は何も来ていないが、札幌では北海道マラソンなどを開催してきた実績もある。東京オリンピックという大きな大会の中で陸上の種目が札幌で開催されるのであれば、非常に喜ばしいことであり、全面的に協力したい」と話しています。

東京 小池知事「驚きを感じる」

来年の東京オリンピックのマラソン競技は、開催都市の東京都にとって、都内の観光名所をめぐり、多くの観客に見てもらうことができる、大会を象徴する競技の1つでした。

このため、暑さへの懸念が出る中で、都として沿道の観客を暑さから守る対策などにも力を入れてきました。

それだけに、IOCがオリンピックのマラソンと競歩の会場を札幌に移すことを検討していると発表したことについて、都の幹部からは「チケットを持っていない都民も楽しめる競技で、沿道の自治体も独自のボランティアを出そうとするなど準備を進めてきた。突然の発表にがっかりしている」という声も聞かれました。

東京都の小池知事は「マラソン・競歩の変更に関する計画が、唐突な形で発表されました。このような進め方については、多くの課題を残すものであります。都は組織委員会とも連携して、ハード・ソフト両面からさまざまな暑さ対策を講じてまいりました。マラソン・競歩のコースや開始時間は、開催都市である東京都、組織委員会が、IOCなど関係団体と協議しながら決定してまいりました。それだけに、今回の突然の変更には、驚きを感じるところです。都民をはじめ、多くの関係者に対する十分な説明を求めます。今月末に開催される調整委員会での協議には、地元自治体などと協力し、対応いたします」というコメントを発表しました。

札幌市長「大変ありがたい」

札幌市の秋元克広市長は「札幌市としましては大変ありがたいことと捉えたい。アスリートファーストの視点での検討とのことですので、最大限尊重すべきと考えます。まずは、情報収集に努めてまいります」とコメントしています。

札幌で行われる北海道マラソン

今回、東京から会場を移すことが検討されている札幌では、日本陸上競技連盟が公認する唯一のフルマラソンのレースとして、毎年夏に北海道マラソンが行われています。

北海道マラソンは、国内では珍しい真夏に行われる大会で、女子の日本代表に内定している前田穂南選手と鈴木亜由子選手はこの大会の優勝経験者で、過去にはオリンピックで2大会連続してメダルを獲得した有森裕子さんも優勝しています。

北海道マラソンは札幌市中心部の大通公園をスタートとフィニッシュするコースで、北海道大学の構内を走るなど特徴的な大会として市民ランナーの人気も集めています。

マラソン代表内定選手の関係者は

男子マラソンの代表に内定している服部勇馬選手を指導するトヨタ自動車、陸上長距離部の佐藤敏信監督は「9月の代表選考レース・MGCで、コースや暑さなどをシミュレーションできたのが日本選手の強みだったが、札幌に変わるとなると温度や湿度が違うし、アフリカ勢が有利となると思う。ただ、服部もスピードがないわけではないし、臨機応変に対応するしかない」と話しています。

同じく男子マラソンの代表に内定している中村匠吾選手が所属する富士通陸上競技部の福嶋正監督は「暑い中でやると思っていたので、はっきり言って困惑している。中村選手は暑い中でのレースに強いのが1つの武器だ。北海道でやるのであれば速いペースになることが予想され、取り組み方も変わる。東京でやるのであれば“地の利”がありチャンスがあると思っていた。会場を変えるのであれば早くしてほしかったし、いまさらという感じだ」と驚きを持って受け止めていました。

女子マラソンの代表に内定している前田穂南選手が所属する天満屋女子陸上競技部の武冨豊監督は「何の話も聞いていなかった。東京オリンピックが決まってから、日本陸連として8月に合わせて合宿を行ってくるなど東京でのレースに向けて準備をしてきた。また、9月の代表選考レース、MGCを全力で走って代表になったアドバンテージもある。『えっ』という気持ちと『いまさら』という感じで現場としては困惑している」と戸惑いを隠しませんでした。

同じく女子マラソンの代表に内定している鈴木亜由子選手を指導する日本郵政グループ、女子陸上部の高橋昌彦監督は「もともと暑い時期で大丈夫かと思っていたが、ドーハの世界選手権の厳しい状況を見て、今になって運営側が危機感を感じたのではないか。こちらとしては自分の選手が大丈夫だとしても、ほかの選手がバタバタ倒れるのはスポーツにとっていいとは言えない」と話しました。
そのうえで「9月の代表選考レース・MGCで東京のコースの対策を練り、日本のアドバンテージだと思っていたのでそれがなくなるのは残念だが、暑熱対策など今までやってきたものがむだになるわけではない。鈴木は札幌で行われた北海道マラソンも経験しているので、コースの変更が決まれば、頭を切り替えてやるしかない」と話しました。

有森さん「考えていくことは大事」

女子マラソンでオリンピック2大会連続のメダルを獲得した有森裕子さんは「この時期に、この場所での変更というのは少し驚きだった。ただ、実際に可能かどうかは別にして、こういうことを考えていくことは大事なのではないか」と述べ、開催地の変更を検討していることについて一定の評価をしました。

検討の要因については、先月からカタールのドーハで開かれた世界選手権をあげ「過酷な天候や状況で本当に大丈夫かと思い、判断したのだと思う」と述べました。

そのうえで「選手への影響は少ないと思う。涼しくなるのはありがたい話だし、コースの変更もそれほど慌てることではない。どういう条件であっても強い選手は強いし、勝敗が大きく左右されることはないはずだ。この変更がプラスに働いてほしいし、プラスに働かせるべきだ」と話しました。

背景にドーハの批判

会場の変更をIOC側から提案するのは極めて異例で、その背景には先月から今月にかけてカタールのドーハで行われた陸上の世界選手権で、猛暑の影響から女子マラソンや50キロ競歩でおよそ4割の選手が棄権したことがありました。

こうした大会運営には選手や関係者から「アスリートファーストとは程遠い」とか「大会を決めた偉い人たちは、涼しいところで寝ているのだろう」といった痛烈な批判が相次ぎました。

東京大会の関係者は「国際陸連も最初はできると言っていたがドーハで行われた世界選手権を見てさすがにまずいとなった」と話し、IOCと国際陸連が方針を転換したという認識を示しました。

IOCは今月30日から東京で行われる組織委員会や東京都などとの調整委員会のなかで具体的な議論をすることにしていますが、日本側の関係者からは全く準備をしていない札幌での開催にはいくつも課題があるという声も聞かれ、どのような議論になるのか、注目が集まります。

会場変更の手続きは

東京オリンピックの競技会場をめぐっては、コスト削減などを目的にバスケットボールや自転車などで当初の計画から場所が変更されてきました。

これらの競技会場が変更された際には、大会組織委員会が開催都市の東京都や関係する自治体などと協議したうえで変更後の計画を立て、提案を受けたIOC理事会が承認するという順番で手続きが取られてきました。

今回はIOCからの提案という形となっていますが、組織委員会の幹部によりますと、競技会場を変更する手続きに明文化されたルールはないということで、今回のマラソンと競歩の会場を変更する検討は、その手順を含めて今月30日からのIOCの調整委員会で議論されるということです。