間参入促す水道法改正案
野党反対 厚労相理解求める

水道事業の経営安定化のため、民間の参入を促す水道法の改正案について、29日の参議院厚生労働委員会で、野党側が、民間が運営することで安定的な水道の供給が維持できなくなると反対したのに対し、根本厚生労働大臣は、経営基盤の強化が必要だと理解を求めました。

水道法の改正案は、水道事業の経営安定化のため、老朽化が進む施設の改修を進めるため、より多くの自治体が水道事業を連携して行えるようにすることや経営に民間の参入を促そうと事業の運営権を民間に売却できる仕組みなどが盛り込まれています。

法案は先の通常国会で衆議院で可決され、現在、参議院厚生労働委員会で審議されていて、29日は参考人質疑が行われました。

この中では賛成の立場から、「水道事業の経営が厳しい自治体が多い中、民間による運営で効率化が進み、コストが抑えられる」といった意見が出た一方で、反対の立場からは、「災害時の対応に不安がある」とか「企業の利益だけが追及されるおそれがある」といった指摘が出されました。

この後の質疑で、野党側は、安定的な水道の供給が維持できなくなるおそれがあるなどとして、反対する考えを示したのに対し、根本厚生労働大臣は「持続可能な水道事業のためには経営基盤の強化が必要で、民間企業の技術や経営ノウハウを活用できる官民連携は有効な対策だ」と述べ、理解を求めました。

水道法改正案のポイントは

水道法の改正案の主な目的は経営が厳しくなった水道事業者の経営強化です。そのために推進するのが、自治体どうしの広域連携、そして民間との連携です。このうち民間との連携では、施設を自治体が所有したまま民間業者に長期間の運営権を売却する「コンセッション方式」を導入しやすくします。

今の制度で「コンセッション方式」を導入する場合、自治体は水道事業の認可を返上する必要がありましたが、改正案では認可を持ったままでも導入できることにしています。「コンセッション方式」によって民間のノウハウを活かした経営改善などが望めるとしています。

一方で、民間業者が水道事業を担うことで料金の高騰や質の悪化などを招かないかと心配する声も根強くあります。

政府は、自治体が利用料金の上限を条例で定めて業務をチェックすることで、水道料金の極端な値上げなどは防げるとしています。

水道インフラは危機的状況に

道は私たちの生活に欠かせない社会基盤ですが、大きな危機に直面しています。

水道事業は原則として市町村が経営することになっていますが、経営環境は厳しさを増していて各地で水道料金が値上げされています。

日本水道協会によりますと、去年4月の家庭用水道料金は、20立方メートルの場合、全国平均で3227円。10年間で163円値上がりしました。日本政策投資銀行の試算ではおよそ30年後には、さらに6割値上げする必要があるとしています。

水道事業の経営を圧迫する主な要因は、人口減少による水利用の低下と施設の老朽化です。国内の水道施設は高度経済成長期を中心に急速に普及したため、老朽化した施設の更新時期を一度に迎えています。厚生労働省によりますと、法律で定められた水道管の耐用年数は40年ですがこれを過ぎた水道管の割合は年々上昇していて、平成28年度はおよそ15%に上りました。

漏水や破損の事故も全国で年間2万件を超え、地震などの災害の際には、古い水道管の破裂が相次いでいます。ところが、更新作業は追いついておらず、今のペースのままだと、すべての水道管の更新には130年かかるとされています。

各自治体 賛否さまざま

コンセッション方式の導入について、各地の自治体ではさまざまな動きが出ています。

このうち浜松市では、ことし4月に下水道事業で全国初のコンセッション方式を導入し、フランスの上下水道会社の日本法人を中心とした企業グループが25億円を支払い20年間の運営権を持つことになりました。上水道についても導入を検討しています。

ほかに、宮城県や静岡県伊豆の国市も上下水道事業でのコンセッション方式の導入に積極的な考えで、実施に向けた調査を行うなど水道法改正を見据えた準備を進めています。

大阪市や奈良市も導入を目指しましたが、「市民の理解が得られていない」などとして、議会の承認が得られませんでした。

さらに、一部の地方議会では、国会に対して慎重な議論を求める動きも出ています。福井県議会はことし9月、「日常の給水事業はもとより、災害の復旧活動においても、国民生活に少なからず影響を及ぼす可能性がある」として慎重な審議を求める意見書を可決しました。

また、新潟県議会では先月、民間業者に対するチェック体制などに重大な懸念があるとして、「住民の福祉とはかけ離れた施策だ」と指摘し、廃案を求める意見書を可決しています。

海外では民営化の失敗相次ぐ

海外では、水道事業を民営化したものの、料金の高騰や質の悪化から再び公営に戻す動きが出ています。

オランダの国際的なNGOの調査などによりますと、フランス・パリでは1985年に民営化されましたが、その後、水道料金が7割以上上昇し、市民からの批判を受けて、2010年に公営に戻されました。

ドイツ・ベルリンでも1999年に民営化されましたが同じく料金の高騰により、2013年から再び公営になりました。また、アメリカ・アトランタでは、1999年にコンセッション方式で民間業者に運営権が売却されましたが、施設の維持費がかさんで水質が悪化したため4年後に公営に戻されました。さらに、南米のボリビアでは2000年に民営化による水道料金の値上げをめぐって暴動が発生しました。

いったん民営化された水道事業が再び公営に戻ったケースは、2000年から2015年にかけて37か国の235件に上っているということです。

専門家「法案チェック体制に欠陥」

元国連環境審議官で水ビジネスに詳しい吉村和就さんは、「海外では民営化が進んだ結果、サービスの悪化や料金の高騰などさまざまな問題が生じたため、再び公営化するという揺り戻しが起きている」と指摘しています。

そのうえで、「民間に任せたときに誰が管理監督するかが問題で、経済状況や水質まで強制的に調べるチェックに、国や自治体が関わっていかなければいけない。今回の法案はその項目が抜け落ちている点で欠陥だと言え、慎重に議論するべきだ」と話しています。