所信表明 学び直し支援1兆円 旧統一教会問題で法令見直し検討

岸田総理大臣は、10月3日に召集された臨時国会で所信表明演説を行い、構造的な賃上げに向け、成長分野で働くための学び直しの支援に5年間で1兆円を投入する方針を表明しました。また、電気料金について、家計や企業の負担を直接和らげるため、前例のない対策を講じる考えを示しました。

先の参議院選挙後、初めての本格的な論戦の舞台となる臨時国会が召集され、岸田総理大臣は、衆参両院の本会議で所信表明演説を行いました。

冒頭、岸田総理大臣は「足元の物価高への対応に全力であたり、日本経済を必ず再生させる。歴史的な難局を乗り越え、わが国の未来を切り開くため、政策を一つ一つ果断に、かつ丁寧に実行していく」と述べました。

安倍元首相の国葬”さまざまな意見重く受け止め今後にいかす”

そして、先に行われた安倍元総理大臣の「国葬」について「厳粛かつ心のこもったものとなった。国民から頂いたさまざまな意見を重く受け止め今後にいかしていく」と述べました。

旧統一教会問題 被害者救済へ法令などの見直しを検討

また、旧統一教会との関係をめぐり、「国民の声を正面から受け止め、説明責任を果たしながら信頼回復のための取り組みを進める」と述べ、いわゆる霊感商法などの被害者救済のため、消費者契約に関する法令などの見直しを検討する意向を明らかにしました。

そのうえで「『厳しい意見を聞く』姿勢にこそ、政治家・岸田文雄の原点があるとの初心を改めて肝に銘じながら、全力で取り組んでいく」と述べました。

電気料金の急激な値上がりリスク 前例ない思い切った対策を

そして、経済政策をめぐり「『新しい資本主義』の旗印のもとで『物価高や円安への対応』『構造的な賃上げ』、『成長のための投資と改革』の3つを重点分野に取り組んでいく」と述べました。

具体的には、物価高などへの対応として来年春にかけて急激な値上がりのリスクがある電気料金について、家計や企業の負担を直接和らげるため、前例のない思い切った対策を講じる考えを示しました。

円安メリット 水際対策緩和し年間5兆円超のインバウンド消費へ

また、円安のメリットを最大限引き出すとして、水際対策の緩和などを踏まえ、年間5兆円を超えるインバウンドの消費額達成を目指す考えを示しました。

構造的な賃上げ 学び直しの支援に5年間で1兆円を投入へ

そして、構造的な賃上げに向け、
▽まずは官民が連携して物価上昇に見合うだけの引き上げの実現に取り組むとともに、
▽成長分野で働くための「リスキリング」=学び直しの支援策の整備や年功序列型の給与体系の見直しなど、労働移動の円滑化に向けた指針を、来年6月までに取りまとめる意向を示しました。

そのうえで、個人の「リスキリング」を支援するため5年間で1兆円を投入する方針を表明しました。
さらに、成長分野への投資をめぐり、
▽AI=人工知能やバイオなどの先端分野に官民の投資をさらに進めるための方策を早急に具体化し、
▽今後5年間でスタートアップを10倍に増やすことを視野に税制上の優遇措置などの支援を強化するほか、
▽エネルギーの安定供給に向け「次世代革新炉」の開発や建設などの議論を加速する方針を示しました。

また、
▽半導体分野に官民の投資を集めていくほか、
▽アナログ的な規制を2年で一掃し、
新産業の創出などにつなげていく方針を表明しました。

新型コロナ 1日100万回超のペースでワクチン接種体制整備へ

一方、新型コロナ対応をめぐって、10月から11月にかけて1日100万回を超えるペースでワクチンを接種できる体制を整備するとともに、インフルエンザとの同時流行を想定した外来などの保健医療体制の確保を図る考えを示しました。

そして、次の感染症危機に備え、感染症法などの改正案をこの国会に提出する考えを示しました。

送迎バスの安全装置義務化など緊急対応策の方針示す

また、静岡県で3歳の女の子が通園バスの車内に取り残され、死亡した事件を受けて、保育所などの送迎バスへの安全装置の義務化などといった緊急対応策を講じていく方針を示しました。

防衛力を5年以内に抜本的に強化

外交・安全保障では、ロシアによるウクライナ侵攻をめぐり、対ロ制裁やウクライナ支援を引き続き強力に進めていく考えを示しました。また日本周辺の安全保障環境が急速に厳しさを増す中、防衛力を5年以内に抜本的に強化するとして、具体的な防衛力の内容と予算規模の把握、財源の確保を一体的に検討し、予算編成過程で結論を出す方針を重ねて示しました。

日中関係「建設的かつ安定的な関係」構築へ

国交正常化から50年を迎えた日中関係をめぐっては「さまざまな懸案があるが、主張すべきは主張し、責任ある行動を強く求めつつ、対話をしっかりと重ね、共通の課題については協力する『建設的かつ安定的な関係』を日中双方の努力で構築していく」と述べました。

日韓関係 健全な関係に戻しさらに発展させる必要

また日韓関係について「健全な関係に戻し、さらに発展させていく必要があり、韓国政府と緊密に意思疎通していく」と述べました。日韓関係をめぐって岸田総理大臣はこれまでの所信表明演説などで徴用をめぐる問題などを念頭に「日本の一貫した立場に基づき、適切な対応を求めていく」などとした表現を盛り込んできましたが、今回は見送りました。

来年のG7広島サミット「新時代リアリズム外交」を推進

さらに、来年の「G7広島サミット」について「私自身が先頭に立ち、国際的な規範や原則の維持・強化、地球規模課題への取り組み、そして国民の命と暮らしを断固として守り抜く『新時代リアリズム外交』を、引き続き着実に推進していく」と強調しました。

「10増10減」 公職選挙法改正案を速やかに提出

また衆議院の小選挙区を「10増10減」するよう求めた政府の審議会の勧告に基づいた改定を行うため、公職選挙法の改正案をこの国会に速やかに提出する考えを示しました。

憲法改正については、発議に向けて「国会の場でこれまで以上に積極的な議論が行われることを期待する」と述べました。