防衛白書 ロシアによる軍事侵攻 “決して許すべきでない”

ことしの防衛白書は、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻の項目を新たに設け、国際社会として決して許すべきでないと強調しています。また台湾情勢について、国際社会の安定に重要であり、一層の緊張感を持って動向を注視するとしています。

22日の閣議で報告された防衛白書にはロシアによるウクライナへの軍事侵攻の項目が新たに設けられ、容認すればアジアを含むほかの地域でも一方的な現状変更が認められるという誤解を与えかねず、国際社会として決して許すべきでないと強調したうえで重大な懸念を持って注視するとしています。

また中国については沖縄県の尖閣諸島周辺での一方的な現状変更の試みを執ように継続するとともに、ロシアと爆撃機の共同飛行を行うなど軍事協力を強化しており「地域と国際社会の安全保障上の強い懸念となっている」と指摘しています。

そして台湾情勢の安定は国際社会の安定にとって重要であり、力による現状変更は世界共通の課題だとして、一層の緊張感を持って動向を注視するとしています。

さらにことしに入ってICBM=大陸間弾道ミサイル級を含む弾道ミサイルの発射を極めて高い頻度で繰り返している北朝鮮について「重大かつ差し迫った脅威」だとしたうえで、さらなる挑発行動に出る可能性も考えられるとしています。

このほか政府が年末までに行う国家安全保障戦略などの改定については、現在、関係閣僚での議論が行われているとする一方、GDP=国内総生産に対する国防費の割合はアメリカ、イギリス、フランス、ドイツのほかオーストラリアや韓国と比べても日本が最も低いと指摘しています。

ロシアの軍事侵攻で新たな章

ことしの防衛白書は、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けて新たに章を設けたことが特徴のひとつで、13ページにわたって解説しています。

今回の軍事侵攻は、ウクライナの主権と領土の一体性を侵害し、武力の行使を禁ずる国際法と国連憲章の違反であり、力による一方的な現状変更は、ヨーロッパのみならずアジアを含む国際秩序の根幹を揺るがすものだと指摘しています。

そして、国連安全保障理事会の常任理事国であるロシアが国際法や国際秩序と相いれない軍事行動を公然と行い、罪のない人命を奪っている事態は前代未聞で、多数のむこの民間人の殺害は重大な国際人道法違反で、戦争犯罪であり、断じて許されないと非難しています。

また、今回の軍事侵攻を通じ、ロシアが大きな損害を被っているとみられるとして、今後の中長期的な国力の低下や、周辺地域との軍事バランスの変化が生じる可能性があると指摘しています。

そのうえで、アメリカへの対抗などの安全保障面で共通性を持つとみられる中国との関係をさらに深める可能性があると分析しています。

このほか、ロシアの軍事侵攻後、NATO=北大西洋条約機構の加盟国が、国防費の増額にかじを切る傾向にあるとして、特にドイツが政策を大きく転換し、GDP=国内総生産に対する国防費の割合を、現在の1.5%程度から引き上げ、今後は2%以上を維持すると表明したことを紹介しています。

台湾情勢めぐる記述 去年から倍増

防衛白書では、毎年、中国や北朝鮮などの軍事動向や国防政策を分析していますが、ことしは、台湾情勢をめぐる記述に10ページを割き、去年の5ページから倍増しています。

中国

中国については、過去30年以上にわたり、透明性を欠いたまま継続的に高い水準で国防費を増加させ、核・ミサイル戦力や海上・航空戦力を中心に軍事力を急速に強化しているほか、先端技術の開発にも積極的に取り組んでいると分析しています。

具体的には、ミサイル防衛網の突破を狙った、極超音速滑空兵器の開発を急速に進めているとしています。

そのうえで、安全保障上の強い懸念になっており、こうした傾向は近年よりいっそう強まっているとして、今後も強い関心を持って注視していく必要があるとしています。

また、沖縄県の尖閣諸島周辺の接続水域では、去年、中国海警局の船が連続で確認された日数が過去最長の157日となるなど、力を背景とした一方的な現状変更の試みを執ように継続していて、事態をエスカレートさせる行動は全く容認できるものではないと批判しています。

台湾

台湾情勢をめぐっては、台湾統一には武力行使も辞さない構えを見せる中国の習近平指導部と、これに対抗する台湾の蔡英文政権や台湾を支援するアメリカとの間で緊張が高まりつつあると指摘しています。

そのうえで、台湾は日本の最西端の与那国島からわずか110キロの距離にあり、台湾情勢の安定は日本の安全保障だけでなく国際社会の安定にとっても重要だとして、台湾をめぐる問題が対話により平和的に解決されることを期待するのが日本政府の従来からの一貫した立場だとしています。

北朝鮮

北朝鮮については、過去6回の核実験に加え、近年は弾道ミサイルの発射を繰り返すなど、技術的には、核兵器の小型化や弾頭化を実現し、これを弾道ミサイルに搭載して日本を攻撃する能力をすでに保有しているとみられると分析しています。

こうした軍事動向は、日本の安全に対する重大かつ差し迫った脅威だとしていて、特にことしに入ってICBM=大陸間弾道ミサイル級や「極超音速ミサイル」とする弾道ミサイルなどの発射を極めて高い頻度で繰り返していることから、さらなる挑発行動に出る可能性も考えられ、こうした傾向は、近年、よりいっそう強まっていると指摘しています。

「反撃能力」についての記述も

政府が、防衛力を抜本的に強化するため「国家安全保障戦略」「防衛計画の大綱」「中期防衛力整備計画」の安全保障関連の3つの文書を、ことしの年末までに改定する方針を示す中、ことしの防衛白書には、相手のミサイル発射基地などをたたく、いわゆる「反撃能力」について記述されています。

「反撃能力」という表現は、自民党がことし4月にまとめた提言で、いわゆる「敵基地攻撃能力」に代わる新たな表現として使用したもので、対象は、基地に限定されず、相手の指揮統制機能なども含むとしています。

防衛白書では、変則軌道で飛しょうするミサイルなど新たな技術に対応するため、岸田総理大臣が、ことし5月、日米首脳会談のあとの共同記者会見で「私からは、いわゆる『反撃能力』を含めて、あらゆる選択肢を排除しない旨も述べた」と発言した内容を引用しています。

そのうえで、昭和31年の政府の国会答弁も踏まえ、相手からの誘導弾などの攻撃を防ぐのに、ほかに手段がないと認められるかぎり、相手の基地をたたくことは、法理論上、自衛の範囲に含まれ、可能だとする、これまでの政府の見解も掲載しています。

また、相手が武力攻撃に着手したあとに日本が武力を行使することは、武力攻撃が発生する前に他国を攻撃する、いわゆる「先制攻撃」とは異なるとしています。

国民1人あたり国防費は低水準

国家安全保障戦略などの改定にあたっては、日本の防衛力を抜本的に強化するため、防衛費・国防費の増額が焦点のひとつになっています。

ことしの防衛白書では、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツのG7=主要7か国諸国のほか、オーストラリアや韓国などの昨年度の国防費を日本と比較しています。

それによりますと、昨年度の日本国民1人あたりの国防費がおよそ4万円なのに対し、イギリス、フランス、ドイツ、オーストラリア、韓国はおよそ7万円から12万円と、およそ2倍から3倍で、日本は低い水準だと説明しています。

防衛費・国防費をめぐっては、岸田総理大臣がことし5月の日米首脳会談で、日本の防衛力を抜本的に強化し、その裏付けとなる防衛費の相当な増額を確保する決意を表明したことも紹介されています。

岸防衛相 “防衛力強化急ぐ 防衛費の内容や規模検討”

岸防衛大臣は記者会見で「ロシアによるウクライナ侵略をはじめ、力による一方的な現状変更が世界共通の課題となっており、普遍的な価値に基づく国際秩序は深刻な挑戦にさらされている。わが国自身の防衛力の強化を急ぐとともに、同盟国であるアメリカや価値観を共有する国々と協力を進めていく」と述べました。

そのうえで「防衛費は、国家意思を示すうえで大きな指標となるものだ。先に閣議決定した『骨太の方針』で防衛力を5年以内に抜本的に強化するとしたことも踏まえ、防衛費の内容や規模について、新たな国家安全保障戦略などの策定や今後の予算編成過程を通じて検討していく」と述べました。