災害対応の「ヒヤリ・ハット」 全国の市長が学ぶセミナー開催

豪雨や地震などの災害対応にあたる自治体の職員が、焦ったり困ったりした事例、いわゆる「ヒヤリ・ハット」から教訓を探る。
本格的な雨の時期を前に、防災の陣頭指揮をとる全国の市長が危機対応を学ぶセミナーが開かれました。

総務省消防庁と内閣府が開いたセミナーは、新型コロナの感染拡大の影響で3年ぶりに開催されました。

豪雨や地震などの際には自治体が主体となって、避難情報の発令や避難所の開設などを行うことになっていて、市長や町長などは状況に応じて迅速で的確な判断が求められます。

ところが実際には、被害状況の収集や避難情報の発令などの対応をめぐって、焦ったり困ったりする、いわゆる「ヒヤリ・ハット」の事例が報告されています。

セミナーでは全国の事例を調査した土木研究所の大原美保主任研究員が講演し、このうち、77人が死亡した2014年の広島市の土石流災害では、避難勧告の発令と避難所の開設を同時に行うことにしていたため、勧告の発令が遅れたほか、高齢者施設で13人が亡くなるなどした2009年の山口県防府市の豪雨では、災害の情報が対策本部と消防本部に分かれて寄せられ、一元的に把握できなかったケースを説明しました。

大原主任研究員は、「防府市のようなケースでは、情報の収集と分析のチームを、それぞれ作って職員を育成するほか、地図システムで共有するなど、計画的に対応していく必要がある」と話していました。

セミナーに参加した鹿児島県いちき串木野市の中屋謙治市長は、「他の事例をひと事と思わず、災害対応に取り入れていく重要性を感じた。梅雨入りを前に対策をより一層進めていきたい」と話していました。

「水害対応ヒヤリ・ハット事例集」を教訓に

土木研究所がまとめた「水害対応ヒヤリ・ハット事例集」には自治体の職員が困ったり、戸惑ったり、悩んだりしたケースが紹介されています。

このうち、土砂災害が多発して14人が死亡した2009年の山口県防府市の豪雨では、現場の状況をまとめた書類の対応に追われ、報告できない事例があったほか、情報が災害対策本部と消防本部に別々に入り、一元的に把握できませんでした。

また、2012年の京都府宇治市の豪雨では、市役所への電話が集中したため、災害対策本部につながらず、緊急情報の伝達や職員への連絡が遅れました。

さらに、2020年の東日本台風では、国や県のホームページにアクセスが集中したため、防災対応に欠かせない水位の情報が把握しにくい状態となりました。

このほか、避難指示の判断の基準となる河川の水位計や情報を伝える防災行政無線が停電や浸水、故障などで機能しなかったケースもありました。

事例集を作成した土木研究所の大原美保主任研究員は、「2000年以降の自治体の災害対応検証報告書を調べた結果、『ヒヤリ・ハット事例』は確認できただけでおよそ4000件にのぼる。これらの事例を教訓と考え、『自分の町で起きたらどうなるだろう』とイメージトレーニングしながら防災対策を進めてほしい」と話していました。