開閉会式担当 小林賢太郎氏
解任 ユダヤ系団体が非難

東京オリンピック・パラリンピックの開会式と閉会式のショーディレクターを務める小林賢太郎氏について、大会組織委員会は過去にナチス・ドイツによるユダヤ人の大量虐殺をやゆするセリフを使用していたとして22日、解任しました。オリンピックとパラリンピックの開会式では学生時代のいじめの告白をめぐって批判が相次いだ作曲担当者の1人でミュージシャンの小山田圭吾氏が辞任したばかりで、開会式直前に担当者が相次いで辞める事態となっています。

23日に開催される東京オリンピックと来月のパラリンピックの開会式と閉会式でショーディレクターを務める小林賢太郎氏は、過去のコントでナチス・ドイツによるユダヤ人の大量虐殺をやゆするセリフを使用していたとして、アメリカに拠点を置くユダヤ系の人権団体が非難する声明を発表していました。

これを受けて組織委員会は22日、小林氏をオリンピックとパラリンピックの開閉会式のショーディレクターから解任したことを明らかにしました。

東京オリンピックとパラリンピックの開会式をめぐっては、学生時代のいじめの告白に批判が相次いだ、作曲担当者の1人でミュージシャンの小山田圭吾氏が辞任したばかりで、直前に担当者が相次いで辞める事態となっています。

組織委 橋本会長「外交上の問題もあり早急に対応」

組織委員会の橋本会長は「開会式を目前に控えてこのような事態になり、多くの関係者、都民、国民にご心配をおかけしたことを深くおわび申し上げます」と述べました。

また、小林氏について橋本会長は「けさ情報が入るまで過去の発言は知らなかったが、外交上の問題もあり早急に対応するため解任することになった」と述べました。

そして「次々と多くの問題が発覚し、後手後手に回っている印象があり反省している。今回は早急に解任という手続きを取ったが、一連の問題に対して組織委員会として事前にどれだけ過去の問題を調査していなければならなかったということも含めて責任を痛感している」と述べました。

さらに「マイナスのイメージがどうしてもぬぐえない状態で開幕を迎えようとしているが、大会を通じて国内や国際社会の多くの方々から信頼を得られるような取り組みをしっかりしていかないといけない」と述べました。

アウシュヴィッツ平和博物館館長「大会の意義を問い直す必要」

福島県白河市の「アウシュヴィッツ平和博物館」の小渕真理館長は「いくら20何年前の若かりしころの過ちといえども、根本的には許されることではないし、開会式前日に非常に驚くとともに残念に思う。本来であれば平和の祭典で、地球上に戦争や紛争、暴力がある中、オリンピックを通して平和を伝えていく作業が必要な時代だと思っているが、こうした問題により本来の意味も損なわれてしまう」と話しています。

そのうえで、「今回の件で、まだまだ気を引き締めてアウシュビッツを通して平和や人権の問題を伝えていかないといけないと久しぶりに考えさせられた。70何年前の遠い、よその国の出来事ではなく、今の自分の社会や生活と照らし合わせていくと、差別やいじめも含めて身近にある問題につながる。ただの勝ち負けではなく、大会をやる意義について本質的に問い直す必要がある」と話していました。

「アウシュヴィッツ平和博物館」はポーランドの国立博物館の協力を受けてできた施設で、ユダヤ人が大量虐殺されたアウシュビッツ強制収容所の資料などが展示されています。

組織委事務総長「小林氏は全体の調整を行っていた」

小林氏の開閉会式の演出上の役割について、組織委員会の武藤事務総長は「場面ごとの担当者はそれぞれにいて、それらを統一的な一貫性のあるものにするのが小林氏の役割だった。全体の調整を行っていた」と説明しました。

また、23日の開会式の演出が見直されるのかということについて、橋本会長は「全体を早急に見直している。どのようにしていくかということを早急に協議し結論を出したい」と述べるにとどまりました。

小林氏「当時の愚かなことば選び 間違いだった」

解任を受けて小林賢太郎氏は組織委員会を通じてコメントを発表しました。

小林氏は「ご指摘のとおり、1998年に発売された若手芸人を紹介するビデオソフトの中で、私が書いたコントのセリフに極めて不謹慎な表現が含まれていました。思うように人を笑わせられなくて、浅はかに人の気を引こうとしていたころだと思います。その後、自分でもよくないと思い、考えを改め、人を傷つけない笑いを目指すようになっていきました」と釈明しました。

そのうえで「人を楽しませる仕事の自分が人に不快な思いをさせることは、あってはならないことです。当時の自分の愚かなことば選びが間違いだったということを理解し、反省しています。不快に思われた方々におわびを申し上げます」と謝罪しました。

小林氏の役割は開会式と閉会式「ショーディレクター」

小林賢太郎氏は、東京オリンピックの開会式と閉会式で「ショーディレクター」を務めていました。

ホームページによりますと20年余り前に2人組でコントを演じる「ラーメンズ」としてデビューし、その後も劇場での公演を中心に活動しました。

今回、アメリカのユダヤ系の人権団体から非難を受けたコントは、「ラーメンズ」の活動をしていた頃に演じられたものとされ、ユダヤ人の大量虐殺について悪意のあるセリフが含まれているなどとしてネット上に投稿が相次いでいました。

東京オリンピック・パラリンピックを巡っては、開閉会式の関係者などが批判を受けるケースが続いています。

ことし3月には、東京オリンピック・パラリンピックの開閉会式の統括責任者だった佐々木宏クリエーティブディレクターが女性タレントの容姿を侮辱するような演出案を提案したとして不適切な表現の責任を取って辞任しました。

また、今月19日には開会式の作曲の担当者の1人だったミュージシャンの小山田圭吾さんが過去に雑誌のインタビューで明かした障害のある同級生へのいじめの告白などで批判を受けて辞任しました。

さらに20日には、東京オリンピック・パラリンピックの文化プログラムに出演する予定だった絵本作家ののぶみさんが、過去の著書やSNSで発信したとされる内容に対して、インターネット上で批判の声が上がり、出演を辞退しています。

専門家「理念なく開かれようとしていること示す」

オリンピック・パラリンピックの意義などに詳しい奈良女子大学の石坂友司 准教授は「オリンピックの開会式は開催国の文化と歴史を示すいちばん大事なイベントで、直前になって中心となる人が更迭される状況は、東京大会が理念なく開かれようとしていることを示している。世界に発信するメッセージとしてはまずく、同じようなことが繰り返されると東京大会の価値がどんどん下がっていく」と指摘しました。

そのうえで、大会組織委員会について「人選のチェックが全く不十分で、オリンピックの理念より娯楽、エンターテインメントを仕上げるような感じで選んでしまったのだろう。緊急事態宣言が出る中で大会に批判もあり、不安を持ちながら準備してきた選手の立場からすれば、『もう勘弁してほしい』という気持ちではないか。これまでのコロナ対策も透明性の確保や説明が十分されていなかったが、大会が進めば感染者も含め、さまざまなトラブルが想定される。どういう形で五輪を開催し、あるいは立て直すのか、責任を伴う重大なイベントだという認識を強く持って臨んでもらうしかない」と話していました。

菅首相「言語道断 あってはならないこと」

菅総理大臣は、総理大臣公邸で記者団に対し「言語道断で、全く受け入れることはできない。あってはならないことで、秘書官を通じて、組織委員会に対し、受け入れられないという対応をした」と述べました。

そのうえで東京オリンピックの開会式について「予定どおり行うべきだと思う」と述べました。

また記者団が「関係者の辞任などが相次いでいるが」と質問したのに対し「組織委員会は重く受け止めていると思う。同時に、今まで準備してきたことについて、しっかりやってほしい」と述べました。

茂木外相「極めて不適切」

茂木外務大臣は「ホロコーストの悲劇は人類史の中でも類を見ない残虐行為だった。小林氏の発言は、いかなる文脈や状況で行われたにせよ極めて不適切であり、受け入れられるものではなく、オリンピック・パラリンピックが目指す『団結』や『共生社会の実現』という目標とも、まったく相容れないものだ。日本政府としてはオリンピック・パラリンピックの精神を体現する大会となるよう、引き続き全力を尽くしていきたい」とする談話を発表しました。

小池都知事「とても驚いた 組織委の判断は適切」

小林賢太郎氏を大会組織委員会が解任したことについて、東京都の小池知事は「とても驚いた。今回の件はオリンピック憲章にも、また憲章でうたわれる人権を尊重するという都の条例にも反するもので、組織委員会の判断は適切だと考えている」と述べました。

相次ぐ事態に街では批判の声

大会関係者が相次いで辞める事態に街では批判の声が聞かれました。

都内に住む60代の女性は「オリンピックが始まるという時に、相次いで担当者が辞める事態となり、開催国の国民として残念で恥ずかしいですし、アスリートにも失礼だと思います。女性蔑視発言もそうですが、これまで許されてきたこともおかしいと思いますし、オリンピックをやる時点で襟を正すべきだったと思います」と話していました。

また、埼玉県の50代の男性は「やるからには成功してほしいがコロナもあり経済的にもいい面はなく、エンブレムの問題以降、途中途中で批判されて辞める事態が相次いでいるが、最初に選ぶときにふさわしい人を選んでおけば問題にならなかったのではないか」と指摘していました。

また、都内の20代の大学生の男性は「20年ほど前の話を言われるのは酷かなという思いもあるが、内容的には非難されてもしかたない。開催を楽しみにしてきたがコロナの中でやるほどではない。延期から1年あったので早めにオリンピックに見切りをつけて、ほかのことに力を使えばよかったのではないかと思います」と話していました。